まなびの森通信

まなびの森通信

自然あふれる富士山2合目の「まなびの森」フォレストアークから
四季折々のようすやボランティア活動についてお伝えします。
みなさん是非「まなびの森」へ足をお運びください。
お待ちしております。
富士山「まなびの森」フォレストアーク副館長・管理人
沢田明宏

【第210回】真冬の「まなびの森」

2022年12月31日

 冬になると存在感を増すのは先月のツルマサキだけではありません。高い樹の上を見上げると、丸いボール状の塊が見られます。ヤドリギです。高い場所にあるので、葉や実を見ることはほとんどありません。強い風に煽られたのでしょうか、たまたま林床にヤドリギの枝が落ちていました。規則正しく二股に枝分かれし、その真ん中に黄色い実を付けています。この実は野鳥の大好物ですが、ヤドリギには彼らの巧みな戦略があります。種の周りにはネバネバの粘液があり、鳥の腸内で消化されることなくスルッとお尻へ出てきます。そして、その粘液に守られたヤドリギの種はそのまま他の樹の表面にくっつき芽生えてきます。ヤドリギは樹に居候して水分はもらうようですが、光合成は自分で行っているそうです。
 12月初旬に、富士宮市主催の自然観察会(もともと9月に予定されていたが、台風で延期)が開催されました。『冬に自然観察会なんて…』と半信半疑で参加された市民の皆さんもプロのガイドの奥深い知識を絶妙なトークで楽しみながら、見通しの良い森を歩き、新しい発見と知識を持ち帰っていただけました。冬には「冬の森の魅力」があると実感していただけてほんとうに良かったです。
 「まなびの森」より標高が高い場所にはシナノキが沢山生えています。そして、それは「まなびの森」の「長老シナノキ」よりも更に迫力ある樹形となっています。
 また、「まなびの森」の少し東側には不思議な樹形のケヤキがあります。まるでポパイが力こぶを自慢しているようにも見える通称「ポパイのケヤキ」です。どうしてこんな樹形になったのか色々想像してみるだけでも面白いです。そして、手で触れるとケヤキのパワーをもらえるようです。
 2022年もいよいよ終わりとなります。今年も1年間ご愛読ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

  • 冬の樹を見上げるとよく見られるヤドリギ 黄色い実は野鳥の好物

  • ヤドリギの巧みな戦略でマメザクラの枝に芽生えが出てきました (3年目の芽生え)

  • 富士宮市主催の観察会の参加者とガイド2名(両端)

  • 「まなびの森」より高い標高のシナノキは「長老シナノキ」よりもさらに迫力満点

  • 「まなびの森」の少し東側にある不思議な樹形のケヤキ、通称「ポパイのケヤキ」

【第209回】小春日和に誘われて

2022年11月30日

■11月管理人日記

 今年の11月は雨が少なかったです。特に、前半は連日の晴天続きでした。気温は低いですが、日向は小春日和の暖かさが嬉しかったです。そんな暖かさに誘われたのでしょうか、1時間ほど森の巡回をして戻ってくると「フォレストアーク」の裏玄関に出掛ける前にはなかった瑞々しい糞が落ちていました。色がやたら緑色ですが、大きさと形、そして臭い(少しナフタリン臭)からするとテンの残していったものらしいです。
 ウラジロモミの幹に細いキズが何本も付けられていました。これは、雄ジカの角研ぎの痕です。幹に擦りつけて先を尖らせるように研いでいるのです。
 斜めから差し込む太陽光に照らされ、イタヤカエデの黄色が鮮やかに輝いています。冬枯れになる前の艶やかさを誇っています。
 葉を落とした後に目立つようになるのがツルマサキです。ブナやケヤキ、カエデの仲間に付いているツル性の樹木で、常緑なので冬には存在感が増します。ツルマサキは赤い実を沢山つけるので、小鳥たちの格好のエサにもなります。ヤマガラ、シジュウカラやゴジュウカラなどが特に好んで啄んでいます。
 今年最後の自然体験教室を無事終えました。寒い日でしたが天気に恵まれ、子どもたちは元気に森を歩きながら思い思いの落ち葉を拾い、それをフレームに挟んで空にかざして見ると「森のステンドグラス」が完成します。「一つとして同じ色・形の葉はない」と言う多様性を知る環境学習です。
 森は冬枯れで見通しが良くなり、晴れた日には駿河湾や伊豆半島も見える冬本番を迎えようとしています。

  • 「フォレストアーク」の裏玄関先の真新しいテンの糞

  • ウラジロモミの幹でシカが角研ぎした痕

  • 鮮やかな黄色に色づいたイタヤカエデ

  • 赤いツルマサキの実

  • 今年最後の自然体験教室は寒い晴天の下で

  • 子どもたちが拾った落ち葉で「森のステンドグラス」が完成

【第208回】晩秋から初冬の季節は

2022年10月31日

■10月管理人日記

 日に日に空気が澄みわたり、季節は晩秋に向かっています。カツラの枯れ葉が醸し出す甘い香もよく薫ってきます。富士山が4合目辺りまで雪化粧した10月下旬のある日、急に冷え込んだことで紅葉・黄葉がスタートしました。そして、1週間ほどすると色づきが鮮やかになりました。シカが恋の季節を迎えているので、和歌に詠まれたとおりキョーンと言う甲高い鳴き声も時々聞こえます。(「奥山に紅葉踏みわけ 鳴くシカの 声きく時ぞ 秋は悲しき」猿丸太夫 古今集、百人一首)
 林床に淡い水色のかわいらしい花が見られます。トリカブトの仲間のアズマレイジンソウです。花の上部が雅楽を演奏する「伶人」が被る冠に似ているところからつけられた名前です。
 秋はやはりキノコの季節です。
 大きな株に育つハタケシメジ、ナラタケの他、変わった形のノボリリュウや一日で黒く溶けるように消えていくヒトヨタケ(一夜茸)などなど。
 また、ブナの周りには薄黄色の小さなキノコが沢山見られます。まるで小さな森の精霊が持っている傘のようにも見えます。ウスキブナノミタケと言う名前で、その名の通り地中に埋もれたブナの実から生えます。掘り起こすとそのことが良くわかります。
 逆立った毛が沢山生えているようなキノコがあります。チシオタケと言うキノコからタケハリカビと言うケカビの仲間が生えているのです。逆立った毛のように見えるのは胞子を作る器官です(専門用語で胞子嚢柄と言います)。
 秋になるとよく見かけるようになるのが長い足を持ったクモに似た虫です。メクラグモとも称されるザトウムシです。クモとは身体の構造が違います(クモは頭胸と胴がくびれてはっきり分かれているのに対し、ザトウムシはそれが密着して一塊りに見える)。「千と千尋の神隠し」に出てくる「窯爺」のモデルとなったことでも有名です。
 黄落がはじまると寒い冬がすぐそこに迫っています。

  • モミジの仲間が色づきはじめました

  • 赤、橙、黄、緑と葉が錦を織りなしています

  • 紅葉が始まって1週間もするとみごとに紅く染まります これはコハウチワカエデ

  • アズマレイジンソウ(吾妻伶人草)

  • ハタケシメジは食べ応えがある美味しい食菌

  • 変わった形のノボリリュウ

  • 名前の通り一夜で溶けるように消えるヒトヨタケ 傘の縁が黒く溶け始めています

  • ブナの実から生えるウスキブナノミタケ(薄黄橅之実茸)

  • 地面を掘ってみるとブナの実から生えていることがわかります

  • チシオタケからタケハリカビ(茸針カビ)が発生して毛むくじゃらに

  • ザトウムシ(座頭虫)が虫を捕食中

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