「これから小さな子どもたちが成長していく10年を大切にして、子どもたちが思い出を残せる家づくりをしたい」とSさまは語りました。できるだけ同じ空間で、家族4人が心地よく過ごせる家――それがご要望でした。
住まいの最も大切な要素は、空間を満たす光や風、匂い、そして外の眺めだと思います。敷地の環境をしっかり読み込んで、窓の位置や大きさを工夫しました。
リビングには勾配天井の高い位置にハイサイドライトを設けました。部屋の中からいつも空が見え、流れていく雲が見えます。
2連の横長の窓は、外部からの視線を気にせずに光を採り入れることができます。また空の眺めも楽しめます。
大きな窓が取りにくいトイレも、縦長のスリット窓を設けて、視線を遮りながら光だけを採り込みました。
毎日の暮らしの中で、手に触れ、足で踏みしめる壁や床の素材は住まいの重要な要素です。可能な限り無垢材と天然素材を使い、心地よい空間をつくりあげます。
床は無垢のヒノキを無塗装で使用。壁は火山灰土を使った塗り仕上げです。1年を通して心地よい空間です。
2階の主寝室と子ども室は和紙を原料にした天然の塗り壁材で仕上げました。家族で2日間かけて塗り上げました。
「火を囲む」――家族が暮らすことの原点がそこにあるように思います。階段の下を土間とし、そこにストーブを設置しました。三方から囲んで座ることができます。
新しく家づくりに取り組まれる方は皆、そこで家族とどのような時間を過ごすか、さまざまな想いを抱いています。それを共有し、また、担当者としての私の考えも示しながら、一緒に実現していくこと。それが設計という仕事だと思います。
子ども室を2つ用意していますが、どちらも入り口にドアはありません。他方、部屋にはそれぞれロフトがあり、渡り廊下でつながっています。子どもたちがいろいろ工夫して楽しめる空間です。
Sさまご夫婦は共働き。家事は家族みんなで分担するのがルールです。いつもみんなが集まって作業しやすいように、キッチンはアイランド型にしました。
どこにいても家族がお互いの気配を感じることができる開放的な空間。子どもたちが成長していくこれからの10年を大切にしたいという思いがあふれています。
子ども室をつなぐ廊下が、まるで空中回廊のように吹抜けの空間を横断します。大人でもわくわくしてくるような空間の構成です。
一段掘り込まれた場所に据えられた薪ストーブ。周りに腰掛けて足をおろすことができるので、ストーブを囲んで楽しい時間が過ごせます。
家族みんなで仕上げた塗り壁に家族の記念として手形を残しています。
家族みんなで塗った壁には、家づくり記念の日付を入れています。ご家族で取り組んだ家づくりの楽しい思い出です。
室内からこぼれる明かり、玄関やウッドデッキを照らす明かり--温かな表情の光がSさま邸の素朴で美しい佇まいによく似合います。
日が暮れると温かなオレンジ色の光が住まいの外にこぼれます。垣間見える和やかな家族の姿は、街の心温まる風景になります。