その担い手たちの横顔 Designers File

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遠藤 英雄 建築士

「言葉にならないもの」を受け止める

「こういう感じ、いいよね?」――そうおっしゃって写真を見せてくださるお客さまがいらっしゃいます。しかし、もし私が写真そのままの住まいを設計したら、お客さまはがっかりされるでしょう。私に求められているのは、お客さま自身もまだ言葉にできない理想の空間や暮らしを見つけ出し、つくりあげることです。「どんな住まいが求められているのか?」――答えはお客さまの数だけあります。密度の濃い打ち合わせの中から、その形を浮かび上がらせたいと思っています。

Work style

  • 「お客さまのベスト」と「私のベスト」を考える
  • スケッチを描き、打ち合わせの精度を高める
  • 建築現場に意図を伝え、設計の想いを貫く

Design

最近の設計実例から

愛知県 Kさま邸

陶磁器でよく知られた町で焼物工場を営み、心のこもった製品をつくり続けてきたKさまご夫婦。お二人の要望は、働きづめで過ごしてきたご自分たちへの「ご褒美」となる、美しくやすらぎに満ちた住まいでした。

「お客さまのベスト」と「私のベスト」を考える

ご要望に沿って設計案を考えながら、同時に私はお客さまの、まだ言葉にならない想いをも取り入れた設計案を考えていきます。「お客さまの考えるベスト」と「私の考えるベスト」――2つがあれば、それをつなぐ線が生まれ、線上のさまざまな選択も可能になります。

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道路から奥の玄関へと進むアプローチは「私のベスト」としてご提案したものです。「生活感の無い、佇まいの美しい家」というお客さまのご要望への一つの答えでした。

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中庭に連続させてご主人のリラックスルームを設けました。道路から玄関へと続く土間から、直接入ることもできます。必ず気に入っていただけると考え、ご提案しました。

スケッチを描き、打ち合わせの精度を高める

私はできるだけスケッチを描きます。打ち合わせの時も、その場でメモのようにして描きます。スケッチを前にすれば、お客さまも空間のイメージがつかみやすく、打ち合わせの精度が高まります。それが納得いただける設計を生みます。

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打ち合わせの転機となったのがこのスケッチです。中央にウッドデッキを配置したもので、その後の設計の基本となりました。お客さまの想いと私の想いがこのスケッチで一つになりました。

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中庭は大きなウッドデッキとし、それを挟んでリラックスルームとダイニング・キッチンを設けました。スケッチで表現したとおりの空間構成を、現実のものにしていきました。

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ウッドデッキは建物の外側に延長して、写真右手に位置する焼物工場につなげています。仕事の合間に休憩される時は、このウッドデッキがリラックスルームへの通路になります。

建築現場に意図を伝え、設計の思いを貫く

一枚の設計図に細部の仕上げや納まりまで、すべて盛り込むことはできません。私がお客さまと一緒につくりあげたイメージは、図面以外の方法で現場担当者に伝えることが必要です。図面を描き上げることは設計のゴールではなく、私の仕事はさらに続きます。

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アプローチは、粗く積んだ砕石の上に薄いコンクリートの床を差し出して、モダンな和の雰囲気に仕上げました。精度の高い現場作業がデザインを支えています。

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ダイニング・キッチンの床は、大判の白いタイル張りです。割り付けや目地の色、納まりなど、現場での細かいやりとりを重ねて仕上げました。

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旧街道に面する建物の正面は、格子と白い壁だけで仕上げました。目立つ面になるだけに、格子の幅やその取り付け・塗装、白壁の仕上がりなどに細心の注意を払いました。

Photo gallery

  • case1
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  • case9
遠藤 英雄 建築士

設計を終えて お打ち合わせを振り返ってみると、間取りや部屋の大きさなどについて、細かくお話しをしたという記憶がありません。ある時ご夫婦の前で描いたラフスケッチが「よし、これで!」というスタートになり、その後の設計の詳細は、お任せいただきました。それまで、旅先から「今いる部屋の雰囲気がいい」とご連絡をくださったり、お打ち合わせの時間に焼き物のことを教えていただいたり、いろいろなお話しをする機会がありました。その時間の積み重ねが、わずか一枚のスケッチで新しい住まいについて気持ちを一つにすることができた下地だったのだと思います。いつもとは少し異なるお打ち合わせでしたが、私はKさまご夫婦との出会いを、大変幸せに感じています。

遠藤 英雄 建築士 Hideo Endo

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