歴史ある寺社建築の広縁に腰を掛けて、ぼんやりと庭を眺めるのが好きだとおっしゃったIさま。年を重ねて味わいを増す素材を厳選しながら、どこからでも庭が楽しめる回廊風の広縁のある住まいを、ご一緒につくりあげました。
縁側で室内と庭が緩やかにつながり、室内にいながら外の自然と一体になることができるのは、日本の住まいのすばらしい要素です。そのつながりを、常に大切にしたいと思っています。
庭をL字型に囲み、どの部屋にも光と風を導いています。庭、回廊、そして室内と、外と内が段階的につながっています。
室内空間は回廊を経て庭につながります。開口部は大きく確保され、室内にいても、まるで木陰にいるように、光や風を楽しむことができます。
建具の開け閉めで空間が自在に変化するのも、日本の住まいの特徴です。開け放った空間は、視線が奥まで通り、風も抜けて、気持ちのよい場所になります。
玄関と直接つながる和室。廊下を歩けば中庭越しにダイニングやリビングが見えます。視線が遠くまで抜け、心地よい広がりが感じられる空間です。
廊下の先にはキッチンとダイニングがあり、その奥にリビングが広がります。葭(よし)を使って仕上げた天井が、空間の奥行きとつながりを強調します。
空間を構成するのは、床と壁、天井、建具です。空間を心地よいものとしてつくりあげるために必要なのは、それらの要素を細部まで丁寧にデザインすること。それに尽きます。新たに何かを持ち込み、過剰に装飾することではないと思っています。
炉を切った本格的な和室。和風建築の伝統的な様式と寸法を踏襲した落ち着いた佇まいとしました。床柱は皮付きのツバキの丸太です。
和風の玄関ならではの式台はあえて鑿(のみ)の跡を見せた「なぐり調」として、木の豊かな質感を表現しています。また、上がり框は設けず、床板の小口(断面)を見せることで、すっきりとした表情に仕上げました。
白い壁と黒いサッシで蔵のイメージに仕上げたI邸。道路側はできるだけ窓を少なくして白い塀のような佇まいとしています。細い材木を縦に連ねた塀は、琵琶湖の桟橋に使われていた古材を再利用したものです。
格子状の塀の内側には、天然石を使ったゆったりしたアプローチがあります。アイアンの手すりを曲線に加工して、柔らかな印象に仕上げています。
モミジや苔を楽しむ和風の庭。回廊はどこに座っても楽しい昔ながらの“縁側”になります。
玄関ホールの土間は “たたき”と呼ばれる、セメントをほとんど使わない昔ながらの仕上げです。独特のやわらかい表情を楽しみます。
玄関には土間続きでエントランスクロークを設けました。帰宅した家族はそこに入って靴を履き替え、室内に上がります。靴もすべて収納できるので、玄関には靴箱を置かず、すっきりと仕上げました。
和室は玄関から直接上がれるように玄関側にも障子を設けています。近所の人がここに腰掛けて話をしていくこともあります。
和室に設けた地窓。障子越しのやわらかな光や障子に映る木の影を楽しみます。
庭を囲む回廊の素材はスギ。年月を重ねて少しずつ色が変わってきました。ご主人も無垢の板が味わいを深める様子を楽しまれています。昼寝にも読書にも最高の場所です。
回廊と庭をつなぐのは自然な風合いが美しい天然石を使った沓脱石(くつぬぎいし)。モミジが新緑や紅葉で目を楽しませてくれます。