ご夫婦とも書き物をされるお仕事です。別に仕事場もお持ちですが、新しいお住まいにも、それぞれの書斎を必要とされていました。そしてなによりも、落ち着いた和の雰囲気のなかで、ご夫婦で、またご友人とゆったりとくつろげることを望まれていました。
一口に「和風」あるいは「モダンな感じ」といっても、その意味するものは、お客さまによって異なります。どんなイメージをお持ちなのか、照明器具や家具などの“パーツ”を一つひとつ選びながら、それを理解していきます。
写真中央のオリエンタルな雰囲気のスタンドを選ばれたことをヒントに、お客さまが望む「和」のイメージをつかんでいきました。明治から大正にかけて建てられた和洋折衷の住宅のような「懐かしい空間」をつくりました。
薄い布越しに提灯のようなぼんやりとしたあかりがこぼれ、大柄の花模様が透けてみえるスタンドです。「西洋が考えた和」のような独特の雰囲気があります。
スタンドに使われているものと同じ生地を見つけ、それをクッションカバーに使いました。
お客さまが求める空間をつくりあげるために、窓まわりの演出や照明器具、ソファなどをご提案します。これまでお客さまが使ってこられなかったようなものであっても、少し範囲を広げてご提案するようにしています。
玄関前には格子のベンチを造り付けにしたお茶室の「待合(まちあい)」のようなスペースがあります。ここに唐草模様のペンダント照明をご提案しました。
この照明は、「和」のイメージが具体的になる中で、私がこのお住まいにぴったりだと感じていたものです。ぜひどこかに使っていただきたいと考えていました。
インテリアの一つひとつの要素は魅力的でも、それが重なりすぎると効果が薄れてしまうことがあります。その場合は「足すよりも引く」ことを考えると、空間が落ち着きます。特に「和」の雰囲気にまとめる時は、大切な手法だと思っています。
「襖には何か模様がほしい」と伺っていましたが、それが目立ってしまうと空間全体の落ち着いた雰囲気が失われます。無色のさつきの柄を選びました。同じ高さにある地窓の光を受けて、模様が控えめに浮かび上がります。
離れの浴室の脱衣場は屏風風のスクリーンを立てて、空間をやわらかく仕切りました。固定した壁を立てない--これも「引き算」の一つといえるかもしれません。
玄関の照明は壁に溶け込むようなシンプルなものを選びました。控えめなデザインと光が、壁面のすっきりとした表情を引き立てます。
白と黒でシンプルにまとめたリビング空間です。窓まわりは障子を使っています。レトロな雰囲気のソファも、この空間のイメージを決める大きな要素になっています。
リビングに続く和室は掘りごたつのある落ち付いた空間です。照明は、和紙でできた柔らかいフォルムのものを選びました。
書斎にはご主人が趣味で集めたフィギュアを飾るための棚をデザインしました。網代天井や塗り壁、障子に似合うシンプルなものにしています。文机もこの空間に合わせてつくりました。
1階のトイレには奥さまのご要望の「下地(したぢ)窓」と呼ばれる装飾的な窓を組み込んだ壁を立てています。この窓のイメージをもとに、設計担当者と打ち合わせを重ねながら天然石のカウンターや壁のタイルなどをご提案しました。
笹の葉の生い茂る小径の奥に、まるで隠れ家のような佇まいの住まいがあります。
細い路地の突き当たりに外玄関が現れます。それまでの街の景色は一変し、昔懐かしい世界に入り込んだような錯覚を覚えます。