すでにお子さまは独立され、これからの時間をご夫婦で静かに過ごされる住まいへの建て替えでした。敷地の周辺は緑が豊かで、すぐ脇を緑道が走る素晴らしい環境です。Uさまご夫婦は、この環境を活かして四季を楽しみながらゆったりと過ごしたい、とお考えでした。
お客さまのご要望を伺うことはとても大切ですが、私は、その細かい内容を伺う前に、この土地で、ご家族にどのような住まいが一番似合うのか、それを考えてまずご提案することから始めます。それはお客さまの、新たな気付きにつながることもあります。
敷地は豊かな緑の中にあります。この眺望をどこまで住まいに取り入れることができるか、それが設計のテーマでした。また、それをより楽しんでいただけるように、生活の中心となるLDKは眺めのよい2階に配置しました。
リビングよりもダイニングで過ごす時間が長いと伺い、ダイニングを2階の南側にゆったりとした広さで確保しました。造作工事でつくった収納キャビネットは、その後ろに位置するリビングとの間仕切りの役割を果たしています。
リビングは、光の穏やかな北側に配置し、天井も低めにして落ち着いた空間にしました。また、こちら側にもよい眺めがあるので、それを楽しんでいただけるように大きな窓を設けています。
「ここまでが設計の仕事で、後はインテリア担当や外構担当の領域だ」と切り分けて考えることはしません。窓の外にどんな景色が広がればよいか、それを引き立てるためにインテリアはどういう仕上がりであるべきか、それも考慮して設計していきます。
窓辺に使ったのは、筒状の立体的な形を連続させたレースのシェードです。まるで日本の障子のように、美しい木の影を映し出します。
そこからどんな景色が見えるか、常に外部の環境も意識しながら窓を設けていきます。階段ホールの外にも美しい緑の眺めが広がっているので、大きな窓を設けました。サッシの枠が眺めを妨げないように、壁全面を一枚のガラス窓にしています。
夕暮れが近づくと室内の照明の存在感が増していきます。天井面をすっきりと見せるために、できるだけダウンライトの使用は避け、一本の溝を掘ってそこにスポットライトを配置しました。
無駄な線や凹凸などが出そうな時は、細部を検討して一つひとつ丁寧に納め、解決していきます。そうすることが、空間の心地良さを、より深く味わっていただけることにつながると思っています。
シェードは立体的なつくりなので、左右に引き分けた時に厚みが出ます。そこですぐ横に位置する壁を、シェードを畳んだ時の幅と同じだけ室内側に張り出させ、その厚みが目立たないようにしました。
北側にも美しい眺めが広がるので、高窓を設けました。窓の上のラインは天井の一番高いところに、左のラインも壁の一番端に重ねてすっきりさせ、外の景色だけを楽しんでいただけるようにしています。
北の天井は、昼は窓から入る自然光によって、夕方以降は窓の下に設けられた間接照明の光を受けて、光のグラデーションをつくります。それを美しく映し出すように、天井をすっきりとした面として仕上げました。
2階の西側には、木々の眺めが楽しめるように大きな開口部を設け、さらにその中央は大きな1枚ガラスにして、サッシの枠が目立たないように配慮しました。主役は外の景色です。
2階のLDKは、勾配天井の大きな空間を造作した収納家具で仕切っています。ダイニングは明るく開放的に、対照的にリビングは落ち着いた空間に、それぞれ性格を分けています。
寝室は1階に配置しました。ベッドの上は天井を下げて間接照明を設けています。枕元に近い窓は、あえて小さくし、気持ちよく眠れる落ち着いた空間にしました。
バス・洗面は1階の寝室のすぐ側に配置しています。ご夫婦だけの生活であることから、細かく仕切らず、ゆったりと使っていただけるようにしています。
照明器具はできるだけ空間に組み込み、また、間接照明を多用して器具の露出を避けました。そうすることで空間をすっきりとまとめています。
ご主人がお仕事をされる書斎です。机や書棚のほか、お仕事の合間に横になって休めるソファなどを設けました
近隣の街並みに溶け込むような建物にしたいというUさまの配慮を受け、手前の植栽スペースを残しながら、建物の位置を近隣とそろえました。外観の装飾も極力控え、以前からそこに立っていたような穏やかな佇まいとしています。