「桜を眺めながら過ごしたい」――そんなお言葉からスタートした設計です。苦楽をともにしながら人生を歩まれてきたご夫婦お二人のためのゆとりある住まい。桜を望む庭に開放された吹抜けの大空間に寄り添う、優雅で透明感のあるインテリアをご提案しました。
インテリアの計画は、設計担当者による空間のデザインが終わってから始めるというものではありません。それは同時に進めていく作業なのだと思います。設計担当者がどういう空間をつくりあげようとしているのか、その意図に沿って、それを完成させるコーディネートを考えていきます。
庭につながるリビング。開放感あふれるシンプルな空間です。たたみ上げたシェードが目立たないように窓まわりをすっきりと整え、眺めを楽しんでいただくときに“ノイズ”となるものを極力減らしました。
玄関ホールは天然石と木で構成する素材感の豊かな空間です。レッドシダーを張った天井面をできるだけきれいに残すため、ダウンライトをボックスの中に収めました。
建築を学んだ時に覚えたミース・ファン・デル・ローエの言葉「LESS IS MORE」(より少ないことは、より豊かなこと)は今でもよく思い出します。インテリアコーディネートは、装飾的なものを足していく世界ですが、空間デザインの基本の一つはこの「LESS IS MORE」にあると思っています。家具を現場に合わせてつくるときの大切な指針でもあります。
キッチンとダイニングが並ぶ空間に、白い鏡面の扉を付けた壁面収納家具を造り付けました。取手をなくし、一枚の白い壁のように見せて空間に溶け込ませました。また上部にライン状に間接照明を設けているので、収納家具でありながら照明装置としての役割も果たします。
吹き抜けに面して設けた2階の書斎に、書棚を造り付けました。壁を手前側にふかし、その間に棚を設けた建築に溶け込むデザインです。
インテリアをつくりあげていくなかで私が心がけているのは、お客さまらしさを表現することです。お客さまには必ずお好きな色があるので、それを壁の色やクッションなどの小物に取り入れ、アクセントとして効果的に使うようにしています。
明るいブラウンのレザーソファは、Sさまご夫婦が愛用されてきたものです。しばらくはご新居で使われることが決まっていました。この色がインテリア計画のひとつのポイントとなりました。
2階の奥さまの寝室は、お手持ちのシャンデリアとブラケット照明を使うことが決まっていたので、それを前提に壁にはバニラホワイトの大理石、床には白く塗装したオークを合わせました。また、奥さまのお好きなピンクをクッションに使ってアクセントにしています。
書斎の下を隠れ家のようなスペースといわれる“ヌック”にしています。床を下げ、天井と壁を曲線にした包み込まれるような空間です。壁にはリビングのソファの色に合わせ、茶にゴールドを混ぜたような美しい色合いの和紙を張りました。
リビングは吹抜けの大空間。レッドシダーを張った天井が軒へと連なり、視線を外に誘います。床に使用したのは1億数千万年前のジュラ紀の地層から採石される趣のあるライムストーンです。
ご夫婦それぞれの個室を2階の吹抜けに面した位置に設けました。壁をガラスにしているのでお互いの気配を感じることができます。
2階のホールの一角に設けた和室。ご夫婦の大切にされてきた絵が美しく映えるオリエンタルな空間となりました。
ガラスをパーティションに使って広がりを持たせた洗面と浴室。バスコートが続きます。
階段は手すりにガラスを使い、側面の桁(けた)に石を張りました。空間を引き立てる美しいオブジェになっています。
間接照明を使ってやわらかな雰囲気に仕上げた洗面。スペースにもゆとりを持たせています。
庭に向かって大きな開口部を設けました。軒の出は1.8m。先端を鋼板でシャープに仕上げ水平ラインを強調しています。テラスの床にも天然石を使用しました。
日が落ちると間接照明の穏やかな光が室内を美しく浮かび上がらせます。
軒のシャープなラインが印象的なシンプルな外観デザイン。外壁には大判のタイルと天然石を採用しました。