長年にわたり世界を舞台に人材育成に携わってこられたKさま。人生の集大成として、日本の文化や心を伝える“国際セミナーハウス”のような別荘を計画されました。その想いにお応えするインテリアとは?――私にとっても大きなチャレンジでした。
住まいの新築という人生の大きなプロジェクトの中で、お客さまが何を求めていらっしゃるのか。いろいろな考え方、お好みの中から最もその人らしいものを選び出しご提案していくためには、まずお客さまの想いやお人柄、これまで歩んでこられた人生やこれからの夢をしっかりと受けとめることが必要だと思います。
和室には本美濃和紙を使った3mの特注照明をご提案しました。ちょうどユネスコの無形文化遺産に日本の手漉きの和紙技術が登録されたというニュースが報じられたときです。Kさまの「伝統の継承」という想いと共通するものがあると考えました。
「人が成長するには、仲間とのチームワークや良い刺激を与え合う人間関係が大切だ」というKさまのお話を念頭に、2階のラウンジはグラス片手におしゃべりをしたり、ソファでくつろいだり、大勢の人が自由なスタイルでコミュニケーションを楽しめるレイアウトを考えました。
ラウンジのペルシャ絨毯は「世界の文化はシルクロードを通って遠く日本まで伝えられた。世界はつながっている」というお話のきっかけにながればと思ってご提案しました。
インテリアコーディネートは、机上のデザインワークとして進めることも可能です。しかし私はできるだけ現地に赴き、その土地ならではの光や風、空気を体で受けとめ、また歴史を知るようにしています。家を建ててそこで暮らすということは、その環境の中で新たな関係をつくることだと思うからです。
2階ホールの窓は、この土地の花であるシャクナゲ、マメザクラ、アセビをデザインのモチーフにしたステンドグラスにしました。朝の光が静かなくつろぎの時をつくります。
建築地は標高800mの高原で、夜は深い闇に閉ざされます。その場所にふさわしい「原始的な灯し火」を照明計画のコンセプトにしました。2階ラウンジの勾配天井には時間を掛けて探したスペイン製のペンダントを吊りました。
玄関ホールには、たいまつのようなシンプルなデザインのブラケットライトを選びました。漆喰の壁が光をやさしく受けとめます。
家具や照明器具、カーテンなど、インテリアコーディネートは、ものを選んで組み合わせていくことです。一つひとつのものにどんな技や想いが込められているのか――表面的なデザインだけでなく、その成り立ちをお伝えすることを心掛けています。それが新しい発見につながり、より愛着を持っていただけることにつながるからです。
欄間には組子を採用しました。ダイニング側の長押(なげし)に入れた間接照明の透過光が細工の美しさをさらに引き立てます。
手洗いの鉢に用いたのは日本を代表する陶器である有田焼です。間接照明の光でやさしく照らしました。
数寄屋建築独特の下地窓の趣を楽しむ丸窓。竹を編み込んでいます。イサムノグチのスタンドを合わせました。
迫力のある吹抜けの玄関ホールにあわせ、シャンデリアで玄関ホールを演出しました。ステンドグラス越しに差し込む朝日に漆喰の壁が美しく浮かび上がります。床はマホガニー。西洋と東洋が出会った大正時代の洋館のイメージです。
1階ダイニングは12名の人が一堂に会してKさまのおもてなしの食事を楽しみ、さまざまな話題をめぐって議論を深める場所です。空間の大きな広がりを保つため間接照明をメインにしました。
ダイニングに置かれているのは樹齢1800年のローズウッドの一枚板のテーブルです。長さは4m。Kさまが8年前に購入されたこのテーブルが、建築設計やインテリアコーディネートの出発点になりました。
海外から招いたゲストに楽しんでもらうための岩風呂の温泉。Kさまは自然素材を身近に楽しむ日本の情緒を伝えたいとお考えでした。
岩風呂に加え、同じように日本の情緒を伝える檜のお風呂が用意されています。間接照明の手法でお湯の柔らかさと庭の灯籠を目立たせました。
ダイニングに連続して、同じく大人数で会食できる堀座卓の和室を用意しました。テーブルはケヤキの一枚板。樹齢800年の希少なものです。床柱も堂々としたケヤキです。
暖炉型のストーブが“山の家”らしい素朴であたたかな雰囲気をつくります。
2階のリビングにはバーカウンターを設けました。ゲストとともに優雅なひとときを過ごしていただけます。よく晴れた日は、孤を描く大きな連続窓の先に、遠く房総半島を見晴らすこともできます。
眺望を確保すると同時に、木々の間に見え隠れするように建物の建築位置が慎重に決められています。1階外壁は天然石張り。緑豊かな景観に馴染んだ佇まいです。