「4人家族が楽しく暮らす住まいにしたい。好みのシンプルなデザインでかっこよく」というご要望をいただきました。敷地は道路に沿って横に長い変形地で、周囲は比較的建て込んでいます。敷地条件を丁寧に読み取ることからスタートしました。
まず建築地を訪ね、日の差し方や風の吹き方、視線が抜ける方向などをみます。同時に私は、周囲を歩きます。そこがどんな街であり、お客さまがどういう景色をみながら出かけ、帰宅されるのかを知るためです。新しい住まいは、デザインも、そしてお客さまの暮らしも、街に溶け込むものにしなければならないと思うからです。
お客さまのお好みであるシンプルな外観デザインを、奇抜になりすぎないように配慮しながら古い街並みに馴染ませました。前の道路は車や人の通行量が多いことから、道路側の窓は2階だけにしてプライバシーに配慮しています。
建物を引き立て、街並みに溶け込ませる役割を果たすのが植栽です。そのスペースは外観のデザインと同時に検討します。自然な樹形の高木を少し傾けて植えることで、緑のアーチのような形をつくりました。
住まいの中で移動しながら見えてくる景色の美しさや、次に見えてくるものへの期待感をつくることも、空間づくりの大切な要素です。このドアの向こうにどんな景色が広がるか、階段を上がりながら何が見えてくるか――ご家族の毎日の暮らしを想定しながら設計を進めます。
道路側には玄関ドアを見せないアプローチを工夫しました。奥右手が玄関ドアです。子どもさんが道に飛び出さない安全性と、外からアプローチの先が見えないミステリアスな雰囲気の演出と、二重の効果があります。木製の軒天井やタイルがシンプルな外観のアクセントです。
階段は、2階から採り入れた光の通り道でもあります。玄関から2階のリビングまでは距離がありますが、上から注ぐ光に導かれながら、次にどんなシーンが展開するかを楽しみにしながら歩けるようにしました。
建物には多くの線があります。省けるものはできるだけ省き、また、高さをそろえ、幅なども細かく検討します。それはお客さまが生活を始めても気づかないことかもしれません。しかし、気づかない、気にならないということがすぐれたディテールなのであり、見せ場となる空間を引き立てる役割を果たすと思っています。
ソファやダイニングのイスに座ると、やさしい表情の木の折下げ天井の先に見えてくるのは空だけです。隣家の窓が目に入らないようバルコニーの壁を高めにしました。室内の水平のラインもすっきりとまとめ、また、手すりもできるだけシンプルで細いものを選んで、景色が楽しめるようにしました。
キッチンに設けた7つのガラスのペンダントは奥さまのこだわりです。ペンダントが空間の主役になるように、窓台の線なども細くすっきりと整えました。7つの照明器具のそれぞれの高さや位置は現場でシミュレーションを重ねて決めたものです。
キッチンをオープンスタイルにしたことから、リビングやダイニング側からもキッチン後ろの壁や収納が目に入ります。収納の取手もシンプルなラインだけになるよう配慮しました。
2階の階段上の照明は、あえて大きな丸形のペンダントを選びました。イメージは“満月”です。手すりとの重なり具合も考えて高さを決めています。
2階LDKの床はウォルナットです。窓にはウッドブラインドを採用しました。木のぬくもりあふれる空間を、タイルやレンジフード、キッチン、手すりの黒が引き締めます。
1階の奥に確保したご主人の書斎。音楽を聴いたり読書をしたり、ご主人が自分の時間を楽しむ場所です。床は無垢のチークです。
玄関の階段横に設けた土間収納の扉は全面鏡張りにして空間を広く見せています。枠がまったく見えないように納まりを工夫しました。
ミラーの扉を左にスライドするとエントランスクロークが現れます。
キッチンの後ろに奥さまコーナーとクロゼットを設けました。“隠れ家”のような魅力的な空間です。壁と天井のクロスは奥さまのお好きなピンク。元気が出るカラーです。
トイレのアクセント壁に、あえて大きめのタイルを選びました。色は深い赤、目地はチャコールグレーというおしゃれな配色です。丸いペンダントライトをコーナー寄りに吊りさげました。