「新築であってもずっとそこに建っているような雰囲気があり、室内も長く暮らしてきたような親しみを感じる家に」というご要望をいただきました。素敵なライフスタイルと暮らす力をお持ちのご夫婦に、存分に楽しんでいただける住まいを考えていきました。
住宅はそのお客さまだけのものです。他の誰のものでもありません――当たり前のことですが、私はその原点を大切にしたいと考えています。そして、住む人のための、住む人に似合う設計になっているかどうかを考えます。
「玄関ドアを開けたらすぐリビングでいい」というお話があり、独立した玄関ホールは設けていません。土間空間の壁に自転車をハンギングしたり、リビング側に木製のパーティションを追加されたり、お二人のアイデアでお二人らしい住まいになりました。
ご夫婦がいろいろ工夫して楽しく毎日を過ごしていただけるように、明るく、ぬくもりのある吹き抜けの大きな“箱”を用意しました。床はビンテージ加工を施したオークです。
吹き抜けに面した2階の階段ホールは、いろいろな使い方ができるようフリースペースとして広く取りました。1階の気配が伝わり、上と下で会話もできる場所です。
私は平面図があまり好きではありません。設計を考えるときは、ご家族の動きを想定しながら、ここで何が見え、そこから進んだときにどんな情景に切り替わっていくか、空間の中で風景がどう展開していくかを想像しながらイメージをつくり、それを平面図にまとめるようにしています。
玄関を入ると、目の前に高い窓から光が注ぐ大空間が広がり、その一角でお二人がくつろいでいる――そんなシーンを思い浮かべながら吹き抜けのリビングをつくりました。
リビングに進むと木の天井が広がり、その下にダイニング、そしてキッチンがみえてきます。リビングのソファとキッチンに分かれていても会話が弾みます。
2階のホールから見下ろした1階。この住まいは、寝室と水回りにしかドアがありません。いつでもどこにいてもお互いの姿や気配を近くに感じることができます。
私だからご提案できたことがあったろうか? 私のおすすめがお客さまにとって新しい発見になり、暮らしのイメージや夢を膨らませるお役に立つことができたろうか? 私はいつもそう振り返ります。私とお客さまとの出会いが、お互いにとって楽しく価値のあるものになったときに、いい設計が生まれと思うからです。
この土地に決められた理由の一つは、2本の道路に接する角地であることでした。そこで玄関はあえてコーナーに設け、ドアも斜めに大きく構えました。
1階の洗面スペースは現場で造作したオリジナルのデザインです。床と壁のタイルはご主人が選びました。ご一緒につくりあげた空間です。
階段は本を手に取ってページをめくるベンチであり、観葉植物の鉢を置いたり、ハンギングしたりしてインテリアを彩るスペースにもなります。
壁一面の書棚はご夫婦の当初からのご希望です。階段と一体にデザインしました。棚の高さはご夫婦がお手持ちの本がきれいに収まるように細かく設定。インテリアを引き立てるブルーのアクセントクロスをご提案しました。
吹き抜けの一角に設けたスチールの階段は、1階と2階をつなぐ機能以上の存在。階段を降りながら見えてくるシーンが毎日を楽しく演出します。
ダイニングとキッチンの天井はあえて低めにして木を張りました。吹き抜け空間は対照的に包み込まれる安心感があります。天井には鉢をハンギングするスチールのバーを付けています。
左に見えるのはお手持ちのカップボード。寸法を測りここに収めました。正面のパントリーは壁に彩り豊かなクロスを使ってキッチン空間のアクセントにしました。
ハイサイドライトで光を採り入れた明るい洗面スペース。タイルやペイントでコーディネートを楽しみました。小物の一つひとつもお二人がそろえたものです。
角地という敷地の特徴を活かして、玄関はコーナー部に設けました。ガレージ側にも 住まいに入る出入り口を設けています。
もう一人(一匹)大切な住人がいました。主寝室でリラックス。