約530坪の広大な敷地内に建つ築70年になるお住まいの建て替えは「庭を楽しめる暮らし」を目指したものでした。設計の初期の段階から打ち合わせに加わり、建物の設計と一体になって「風格と品格」をコンセプトに、外構と庭をデザインしていきました。
設計担当者が敷地をどう読み解いて建物を計画したのか、ご家族に、どんな毎日をご提供したいと考えているのか――その意図を理解しそれを完成させるために、そして時には、設計者が短所になるかもしれないと危惧しているものをカバーすることができるように、プランニングを進めます。
家づくり単独ではなく、建物の建て替えと庭のリニューアルを合わせて500坪を超える敷地全体の再設計が求められました。外構担当として打ち合わせの早い段階から加わり、既存の樹木や庭石などを活かしてデザイン作業を進めました。
新しい建物のLDKからの庭の眺めは、この建て替え計画の最大のポイントです。大きな開口部からは以前からある樹木が懐かしく眺められるように計画しました。
一部が市の保存樹にもなっているクロマツはできるだけ残したいというご要望でした。敷地の西側を中心に残すことで、この敷地のシンボルとして引き立てるだけでなく、庭と建物への西日の影響を抑えました。道路側の外構はガレージ棟の入母屋屋根の雰囲気を引き継ぎ、水平ラインを強調した和のデザインです。
外構デザインのイメージをお客さまと共有することは簡単ではありません。とくに植栽は、植えたときが完成ではなく、時間をかけてゆっくりと成長して、当初想定した姿に変わっていきます。計画のプレゼンテーションは、室内側から見た完成時のスケッチなどを使って理解いただきやすいようにしています。
リビングに続けて月見台を設けました。イロハモミジなど、以前からの美しい庭木を間近に楽しんでいただけます。この月見台の完成イメージもスケッチを描いてお伝えしました。
庭の散策をゆっくりと楽しんでいただけるように、新たに東屋を設けました。園路を広い幅で設けているのは、将来の車椅子での通行も楽にできるようにという考えからです。建て物と同様、庭も10年後、20年後の利用場面も考えておくことが求められます。
完成後の姿をお伝えするため、できるだけスケッチを描くようにしています。イメージが共有できれば、細部のお打ち合わせもスムーズです。また完成してから、考えていたものと違うといった行き違いも起こりません。
イメージが湧きにくいということは、複数の候補がある時の選択や決断が難しいということでもあり、お客さまは迷われます。そのときは「もし私の家なら」と考え、理由とともに私なりの判断をお伝えします。常に真剣に、責任を持って考えを突き詰めることが提案者としての責任だと思っています。
以前の庭にあった池は手入れが大変だったこともあり、沼のように淀んでいました。しかし、広い庭に水景はぜひ備えたいものです。そこで、新たに水深の浅いせせらぎをつくりました。常に水が動いているので、清潔な環境を保つことができます。
新たなせせらぎは心地よい水音を響かせながら庭をめぐります。以前からある灯籠や庭石を、せせらぎのほとりに配置しました。
庭を眺めながらゆったりとした時を過ごすリビング。新緑や紅葉など、四季それぞれの景色を楽しむことができます。シンプルな空間が庭の美しさを引き立てます。
ガラス窓を開ければ葉擦れの音や野鳥のさえずり、せせらぎの水音が耳に届きます。庭と一体になって過ごせるダイニングです。
炉を切った広間の茶室。長くお茶に親しまれている奥さまがお茶会を開かれています。
広間の茶室の並びには流儀の作法に従った水屋も設けています。
クロマツの高木が西日を遮る役割をはたすことで、足下には苔が自生し、風情のある庭が生まれました。
門から玄関まで、風格のある延段でお客さまをお迎えします。
既存のイロハモミジが鮮やかに紅葉し、建物を美しく彩ります。
外構の塀の一部に御影石を使い、門扉にはヒノキを使いました。「風格と品格」というこのお住まいのコンセプトを受け継いだデザインです。