家は、住む人が自分の「居場所」と感じるところ。その無意識で自然体の心地よさを、何よりも大事にしたいと思っています。自分が設計した家に、夕方、灯りがともり、ご家族の楽しそうな生活が見えたら、これほどうれしいことはありません。
「これから小さな子どもたちが成長していく10年を大切にして、子どもたちが思い出を残せる家づくりをしたい」とSさまは語りました。できるだけ同じ空間で、家族4人が心地よく過ごせる家――それがご要望でした。
住まいの最も大切な要素は、空間を満たす光や風、匂い、そして外の眺めだと思います。敷地の環境をしっかり読み込んで、窓の位置や大きさを工夫しました。
毎日の暮らしの中で、手に触れ、足で踏みしめる壁や床の素材は住まいの重要な要素です。可能な限り無垢材と天然素材を使い、心地よい空間をつくりあげます。
新しく家づくりに取り組まれる方は皆、そこで家族とどのような時間を過ごすか、さまざまな想いを抱いています。それを共有し、また、担当者としての私の考えも示しながら、一緒に実現していくこと。それが設計という仕事だと思います。
最初にお会いしてから竣工まで、家づくりに真剣に取り組まれたSさまと正面から向き合い、互いに学びあう充実した時間を過ごしました。家は、住む人の哲学はもちろんですが、設計する者の思いも表現されます。お互いが哲学を共有し、本当に必要なもの、思い切って挑戦したいことなどを一緒に見つけていくことができれば、すばらしい家づくりになります。Sさまとの家づくりで、それを実感することができました。