敷地と間取りの関係、つまり“ゾーニング”には、必然性があると思います。敷地と方位と近隣の状況、そしてお客さまの要望を含めて考えれば、必然として「あるべき空間」の場所が決まってきます。私はこの“ゾーニング”の作業に長い時間をかけます。ここに設計のすべてがあると言えるのではないかと思っています。
「寝室や子ども部屋などの個室は小さくていい。それより家族が一緒に過ごす空間を大切にしたい」というご要望がありました。周囲の豊かな自然、その光と風を楽しみながら、ご家族で伸び伸びと過ごしていただける空間とはどういうものか、それを住まいの他の空間とどう関係づけるか。ゾーニングが最大の課題でした。
視線が抜けると空間に広がりが生まれます。視線が通り、風の抜ける家は、いつも、どこにいても家族の気配が伝わるコミュニケーションの豊かな家になります。
昔から日本の家づくりは、障子の外に広縁があり、その外に濡れ縁があり、そして庭が広がるというように内外が段階的に連続していました。内と外をゆるやかに結ぶと、気持ちのよい場所がたくさんできます。
道路から玄関に近づくにしたがって、だんだん家の全貌が見えてくる。そんなワクワクするアプローチをつくりたいといつも思っています。豊かなアプローチは、おもてなしの一つでもあります。
自然体で過ごせる心地よい住まいになってほしい、そう願いながら設計しました。Kさんご夫婦は、お二人とも温厚でやさしく、お互いを大切にしあい、生活のなかでいろいろな趣味を楽しんでいらっしゃいました。ご夫婦の人柄そのもののような、お二人によく似合う家ができたのではないかと思います。この家がいつまでもご家族の暮らしを温かく支えるものであることを願っています。