日本は陽光と水と緑に恵まれ、美しい四季が繰り返す豊かな風土を誇る国です。住まいに求められてきたのも、その風景に溶け込み、光や風を、いつも身近に感じられることでした。安全や快適性、耐久性、プライバシーが求められる現在の家づくりでも、そのことに変わりはありません。常に四季とともに暮らし、自然の豊かな表情に癒される日本ならではの住まいをいかに実現するか。一棟一棟、お客さまのご要望を伺いながら考え続けています。
歴史ある寺社建築の広縁に腰を掛けて、ぼんやりと庭を眺めるのが好きだとおっしゃったIさま。年を重ねて味わいを増す素材を厳選しながら、どこからでも庭が楽しめる回廊風の広縁のある住まいを、ご一緒につくりあげました。
縁側で室内と庭が緩やかにつながり、室内にいながら外の自然と一体になることができるのは、日本の住まいのすばらしい要素です。そのつながりを、常に大切にしたいと思っています。
建具の開け閉めで空間が自在に変化するのも、日本の住まいの特徴です。開け放った空間は、視線が奥まで通り、風も抜けて、気持ちのよい場所になります。
空間を構成するのは、床と壁、天井、建具です。空間を心地よいものとしてつくりあげるために必要なのは、それらの要素を細部まで丁寧にデザインすること。それに尽きます。新たに何かを持ち込み、過剰に装飾することではないと思っています。
Iさまご夫婦は、京都のお寺によくお出かけになるなど、和の落ち着いた佇まいがお好きでした。ただし和風といっても、決まり事の多い典型的な「数寄屋建築」ではなく、室内と庭のつながりや光と影の表情の豊かさ、熟成していく素材の美しさといった和の要素を取り入れたいとお考えでした。敷地をじっくり拝見し、そのご要望の実現にはこれしかないと考えたのが、庭を囲むL字型の建物配置であり、そこに回廊風の縁側を設けた住まいでした。縁側での昼寝や夕涼み、玄関先でのご近所とのお茶飲み話……懐かしくて楽しい暮らしの場面が次々と現れる新しい住まいで、ご家族の笑顔の日々が、一日また一日と積み重ねられていくことを心から願っています。