お客さまは、さまざまなご要望をお持ちです。当然のことですが、それらは多岐にわたり、また、当初は優先順位も明確ではありません。お客さまとの対話を重ね、その価値観や想いを共有し、優先順位を分かりやすく示しながら、ご一緒に設計案をまとめていきます。お客さまの人柄がにじみ出るような、個性的で美しい一棟をつくりあげるために。
建ぺい率※が40%に定められた住宅地での新築です。空地(庭)として敷地の60%を残すことになりますが、それをいかに室内空間と融合させ、広がりとゆとりのある住まいにするかがテーマになりました。
※建ぺい率 敷地面積に対する建築面積(建物の上から平行光線をあてたときに地面にできる建物の影の面積)の割合。仮に50坪の敷地で建ぺい率40%であれば、建築面積は20坪が上限となります。
敷地の特徴を詳細に把握することは、設計の絶対条件です。道路との関係、日当たりや風向き、周囲の建物や街並、車や人の通行量……お客さまのご要望を念頭に敷地の状況をじっくりと観察していけば、どこにどのような用途の空間を配置すべきか、その答えが浮かび上がってきます。
室内空間が心地よいものであるためには、光がたっぷりと差し込み、また、窓の外に心安らぐ眺めが広がっていることが必要です。たとえ限られた面積であっても、外への広がりのある空間は、ゆとりを感じさせてくれます。
せっかく注文住宅を建てていただくのですから、「平均的」で特徴のない住まいではなく、お客さまのこだわりを貫いた「見せ場」のある住まいにしたいと思っています。お客さまをお迎えした際に「ここ、いいでしょう?」と自慢できるようなポイントをご一緒につくります。
将来は1階だけで生活できるように、というご夫婦のご要望から必然的に1階のボリュームは大きくなりました。しかし建ぺい率の関係で敷地の60%は空地として残さなければなりません。そのため、室内空間の広がりや居心地に寄与するようにいかに庭を取るかが、設計のポイントになりました。Kさまご夫婦と一緒に考えたその答えが、2枚の大きなタイル壁の内側に確保した南と東の2つの庭です。近隣の方からも「『すてきな家を建ててくれてありがとう』と感謝された」と伺いました。私も大変うれしく思います。ご夫婦がこよなく愛するイギリスの住宅のように、この住まいが年月を経てますます味わいが増していくことを楽しみにしています。