まず敷地に立ち、お客さまがそこでどのように暮らしたいと望んでいらっしゃるのか、そのために、どのような空間が必要なのか、それを考えることから設計が始まります。もちろん、建物は単独で成り立つものではありません。外観は、庭や外構と切り離して考えることはできず、室内空間は、窓の外に見える景色やインテリアの仕上げと一体です。庭や植栽、外構を専門とする担当者や豊かな知識を持ったインテリアコーディネーターとともに、一棟の住まいを、快適にそして美しく整えていきます。
お仕事で多忙な毎日を送られているIさま。住まいに求められていたのは“休息”でした。庭を眺めながらのんびり過ごされるのがお好きで「京都龍安寺の石庭もいいね」とお話しされていたのをヒントに、暮らしの中でいつも庭が楽しめる住まいを考えていきました。
同じ敷地はひとつもありません。その広さや形だけでなく、道路の接し方、隣家の位置や大きさも千差万別です。日の当たり方、風の吹き方も異なります。敷地にどういう特徴があり、いちばん居心地のよい場所はどこか、その見極めが設計の第一歩です。
設計にあたっては、ご要望をしっかり理解することが必要です。しかしそれは「リビングは何帖にしますか」と伺うことではありません。お客さまの心の奥にある暮らしへの思いを受け止め、それを設計者として形にすることが大切だと思っています。
住まいは建物だけでは成り立ちません。そこに照明が施され、家具が配置されてインテリアが整い、庭がつくられ外構が設けられて初めて完成します。設計担当者は建物だけを設計するのではなく、その全体をコントロールする役割を持っていると思っています。
お打ち合わせでは、家づくりのことを離れていろいろなお話しをさせていただき、Iさまのお好きな物やお人柄を知ることで思い切ったご提案をさせていただきました。特にこのお住まいでは、建物とインテリア、庭、外構を一体のものとしてデザインしていくことが重要でした。設計の早い段階から、専門的な知見を持つ外構担当者、インテリア担当者と打ち合わせの機会を持ち、その全体を私がコントロールしていきました。私どもに「庭を楽しみながらのんびりしたい」というポイントをお伝えくださった後は、要所を締めながらも、思い切って任せてくださったIさまと奥さまに感謝しています。これからもご家族みなさまとともに年輪を重ねていく住まいと成熟していく庭を存分に楽しんでいただければ幸いです。本当にありがとうございました。