河野 訓子 インテリアコーディネーター

河野 訓子 暮らしを楽しむための余白を考える

新しい住まいを完成させるのは、建築士でもインテリアコーディネーターでもありません。それは、そこにお住まいになるご家族。私たちがご提供するのも、デザインや形ではなくこれから始まるご家族の楽しい時間であり、暮らしです。だから私は、あえて余白を残すことがあります。棚だけおつくりすることもあります。その空白はご家族の大好きなもので、少しずつ、ゆっくりと埋めていっていただきたい。住まいが完成した後も、そのお手伝いができれば幸せです。

Design

大阪府 Mさま邸

レストランを経営され忙しい毎日を送られているM様ご家族。お嬢さまと3人で休日をくつろいで過ごす住まいを計画され、豊かに水を湛える池に臨む土地を購入されました。ここでご家族がどう過ごされるのかを考えながら、インテリアコーディネートを進めました。

ご家族が暮らしを楽しむ温かな空間をつくる

ご家族が新しい住まいでどんな暮らしをされるのか。何を大切にして、どんな時間を過ごされるのかを考えます。そこから「この場所には、この家具を」「壁はこの素材で」と、ご提案のイメージを深めていきます。

池の眺めが広がる大きな窓の横に、ゆったりしたソファを置きました。せっかくの眺めを隠してしまうことがないよう、左右に “溜まり”ができるカーテンではなく、上に畳み上げるシェードを採用しました。
この空間に置くテーブルを考えたとき、パリのデザイナー、シャルロット・ペリアンの「ヴェンタリオテーブル」がすぐに思い浮かびました。いろいろな場所に座ることができ、位置によって眺めが変わります。また、この不整形の形そのものが、空間を豊かにしてくれます。
「ヴェンタリオテーブル」は、人が真正面で向かい合うことがないようにデザインされています。テーブルに集まる人が、リラックスした気持ちで集う不思議な魅力を備えたテーブルです。

すべてを完成させず、余白を残す

インテリアを完成させるのは、私ではなくお客さまです。ここに絵を掛けよう、ここに小物を置こうと、楽しみながら毎日を過ごしていただきたいと思います。絵を飾る壁や小物を飾るカウンターなどの「余白」を残すようにしています。

LDKはどこにいても全体がみわたせる、ひとつづきの空間です。絵や小物、スタンドなどでインテリアをさまざまに演出していただけます。床は赤味がかった色あいが美しいチェリー。壁は自然素材の塗り壁。経年による変化も魅力です。
リビングとの間をタイルの壁で仕切って、落ち着いて過ごせる書斎を設けました。大きな戸棚を造り付け、机の周辺がいつもすっきりと片付くように配慮しました。
玄関ホールに設けた階段はスチール製のシンプルなデザインです。それに合わせて照明も小さなブラケットライトを2つ付けました。玄関土間から続く階段下のスペースは、季節に合わせたしつらえを楽しんでいただけます。

少しずつ味わいを深めていくものを選ぶ

床の木の色が少しずつ濃くなっていったり、ソファの革が柔らかくこなれていったり、床や壁の素材、家具は、日を追って味わいを深めていきます。ご家族の思い出を刻みながら、空間に馴染んでいく素材の表情を楽しんでいただきたいと思っています。

質感の豊かなタイルを壁に使い、ソファはしなやかな革張りのものを選びました。ソファのキャメルの色が、温かみのある空間によく似合います。
キッチン収納の扉材には、北海道・大雪山のナラを使っています。素朴で力強い木目が特徴です。この扉材も少しずつ変化し、味わいを深めていきます。
床も収納扉も、そしてテーブルも、すべて木の豊かな質感を楽しむことができます。ダイニングチェアも、木のやさしい表情をもったものを合わせました。
Photo gallery
玄関ホールはゆったりと確保し、LDKに向かって大きく開放しています。テラコッタ調の素朴な風合いのタイルが、突き当たりの書斎まで続きます。扉を設けており、玄関ホールから書斎までを独立させることができます。
ソファの革の質感、クッションや敷物に使っているキリムなど、素材の味わいが空間に温もりのある表情をつくります。
池とそれを囲む豊かな緑を楽しめるように、リビングには大きな開口部を設け、同じ床の高さでウッドデッキを連続させました。まるで別荘にいるように、日常を離れた時間を楽しんでいただけます。
2階のお嬢さまの部屋の読書コーナー。ウッドブラインドでやわらげられた光が、インテリアにやさしい表情をつくります。
1階玄関横に設けた畳の部屋。吊り押入の下に、小物を飾って楽しむスペースをつくりました。
片流れの屋根を組み合わせたシンプルな外観。外壁の落ち着いたベージュ色が、建物を風景に溶け込ませています。
天然の木を連続して立て、アプローチを道路からさりげなく区切っています。

池を眺めながらゆっくり過ごしたい--そのご要望を受け、設計担当者が設けた窓際の“特等席”。そこに革張りのソファを選びました。また、ご夫妻とお嬢さまの3人が、思い思いに過ごす場所にふさわしいと考えて、ダイニングには「ヴェンタリオテーブル」をご提案しました。当初は別のデザインのものを考えられていたのですが、採用を決断してくださり、今では「この家のためにあるようなテーブル」とおっしゃっていただいています。竣工後も「この壁に似合う絵はなんだろう?」などとご相談をいただくことがあります。住まいをご家族で楽しまれるだけでなく、私も加えていただけることをとても幸せに思います。時を経て少しずつ成熟し、美しさを深めていく住まいをどうぞいつまでもお楽しみください。

河野 訓子 インテリアコーディネーター