新しい住まいを完成させるのは、建築士でもインテリアコーディネーターでもありません。それは、そこにお住まいになるご家族。私たちがご提供するのも、デザインや形ではなくこれから始まるご家族の楽しい時間であり、暮らしです。だから私は、あえて余白を残すことがあります。棚だけおつくりすることもあります。その空白はご家族の大好きなもので、少しずつ、ゆっくりと埋めていっていただきたい。住まいが完成した後も、そのお手伝いができれば幸せです。
レストランを経営され忙しい毎日を送られているM様ご家族。お嬢さまと3人で休日をくつろいで過ごす住まいを計画され、豊かに水を湛える池に臨む土地を購入されました。ここでご家族がどう過ごされるのかを考えながら、インテリアコーディネートを進めました。
ご家族が新しい住まいでどんな暮らしをされるのか。何を大切にして、どんな時間を過ごされるのかを考えます。そこから「この場所には、この家具を」「壁はこの素材で」と、ご提案のイメージを深めていきます。
インテリアを完成させるのは、私ではなくお客さまです。ここに絵を掛けよう、ここに小物を置こうと、楽しみながら毎日を過ごしていただきたいと思います。絵を飾る壁や小物を飾るカウンターなどの「余白」を残すようにしています。
床の木の色が少しずつ濃くなっていったり、ソファの革が柔らかくこなれていったり、床や壁の素材、家具は、日を追って味わいを深めていきます。ご家族の思い出を刻みながら、空間に馴染んでいく素材の表情を楽しんでいただきたいと思っています。
池を眺めながらゆっくり過ごしたい--そのご要望を受け、設計担当者が設けた窓際の“特等席”。そこに革張りのソファを選びました。また、ご夫妻とお嬢さまの3人が、思い思いに過ごす場所にふさわしいと考えて、ダイニングには「ヴェンタリオテーブル」をご提案しました。当初は別のデザインのものを考えられていたのですが、採用を決断してくださり、今では「この家のためにあるようなテーブル」とおっしゃっていただいています。竣工後も「この壁に似合う絵はなんだろう?」などとご相談をいただくことがあります。住まいをご家族で楽しまれるだけでなく、私も加えていただけることをとても幸せに思います。時を経て少しずつ成熟し、美しさを深めていく住まいをどうぞいつまでもお楽しみください。