日が差したり、風が通ったり、美しい景色が広がったり…敷地には気持ちのよい場所が必ず存在します。それを見つけ、新たに建てる住まいとどう関係させるか、その場所に対して、住まいの各空間がどのようなつながりを持つことができるか。それらを考えることが、私の設計の出発点です。設計の力で気持ちのよい場所を日々の暮らしに取り込むことがお客さまに豊かな時間をご提供することにつながります。
「明るくて、風がよく通る家に」「庭を広く取り、庭を楽しみながら暮らしたい」――Sさまからのご要望でした。南に大きな庭を取ると同時に、門から玄関に至るゆったりしたアプローチと大きな中庭を設け、どの部屋からも庭を楽しんでいただける住まいにしました。
道路から門を経て玄関へ――アプローチはできるだけ長く取り、“公”から“私”へ気持ちの切り替えをする空間と時間を取りたいと思っています。敷地の広さに制約がある場合、長いアプローチは難しいのですが、敷地奥に玄関を設け、歩く距離を長めにするといった工夫で、アプローチを確保します。
“人は外界からの刺激を受けることで、生活を豊かにしていく存在だ”といわれています。1日の時間の変化や四季の移り変わりを感じることができると、心が豊かになります。もちろん、外に開けば開くほど外部からの視線への配慮が必要です。窓の取り方や塀、植栽などの工夫で内と外とを気持ちよくつなぎます。
空間を構成する素材には、歳月を経て味わいを増していく無垢材や石やタイルなどの自然素材を使いたいと思っています。経年変化は単に古くなることではありません。時間を内包し、積み重ねながら価値を増すことだと思います。
豊かなくつろぎのある住まいとは、どのようなものか。それを考え続けた設計でした。Sさまご夫婦はお若い頃から事業に打ち込まれ、会社を大きく育てられました。多忙な日々を送られたご夫婦の、満を持しての家づくりです。お好きな庭を眺めながら、ゆったりとくつろいでいただきたいと思いました。新しい住まいが完成してからは、庭いじりも存分に楽しまれていると伺っています。お選びいただいた素材はまだまだ新しすぎるほど。これからますます味わいを深め、価値を増していきます。家のどこにいても身近に庭を眺め、植栽の手入れを楽しまれながら、このお住まいで充実した日々をお送りいただければうれしく思います。