設計担当者が、お客さまとともにどのような空間をつくり上げようとしているのか? 私も打ち合わせに加わり、時には設計担当者と対話し、あるいはひとりでじっと設計図面に向かいながら、今生まれようとしている空間がどのようなものか、どこから光が差し、風が抜け、その中でお客さまがどんな時間を過ごされるのかを想像します。設計案に込められた意図を受けとめながら、その美しさを引き立て完成させるのがインテリアコーディネーターとしての私の仕事。お客さまによく似合い、これからの豊かな暮らしの舞台となる空間を、ともにつくり上げていきます。
「桜を眺めながら過ごしたい」――そんなお言葉からスタートした設計です。苦楽をともにしながら人生を歩まれてきたご夫婦お二人のためのゆとりある住まい。桜を望む庭に開放された吹抜けの大空間に寄り添う、優雅で透明感のあるインテリアをご提案しました。
インテリアの計画は、設計担当者による空間のデザインが終わってから始めるというものではありません。それは同時に進めていく作業なのだと思います。設計担当者がどういう空間をつくりあげようとしているのか、その意図に沿って、それを完成させるコーディネートを考えていきます。
建築を学んだ時に覚えたミース・ファン・デル・ローエの言葉「LESS IS MORE」(より少ないことは、より豊かなこと)は今でもよく思い出します。インテリアコーディネートは、装飾的なものを足していく世界ですが、空間デザインの基本の一つはこの「LESS IS MORE」にあると思っています。家具を現場に合わせてつくるときの大切な指針でもあります。
インテリアをつくりあげていくなかで私が心がけているのは、お客さまらしさを表現することです。お客さまには必ずお好きな色があるので、それを壁の色やクッションなどの小物に取り入れ、アクセントとして効果的に使うようにしています。
インテリアコーディネートの仕事の魅力は、お客さまのライフスタイルをより豊かにする空間をご一緒につくっていけるところにあると思います。Sさまと、ヌックをどのように仕上げるのか、キッチン構成や素材、また大きな壁面収納をどのようなものにするか、設計担当と一緒に、細部にわたって打ち合わせを重ねました。照明器具のデザインや壁の色一つひとつで空間の趣は異なり住まい方も変わります。責任の大きな役割ですが、Sさまご夫婦のやさしく、あたたかいお人柄に助けられて楽しくお仕事をさせていただきました。お二人にお似合いの優雅な空間で、心地よいお時間を過ごしていただければうれしく思います。