何がお客さまの家づくりのきっかけであり、テーマなのか、私はそれを知ることからスタートします。そして「新しい家ではこんな過ごし方をしたい」というご要望を伺い、敷地条件の下でどうしたらそれが実現できるかを考えていきます。その時、設計担当として一番大切にしているのは、お客さまとの信頼関係。お客さまが、この設計でよかったと心から満足してくださる住まいを敷地に立ち、周囲を歩き、デザインや細部の納まりを徹底的に考え抜くことを通して、ご一緒につくりあげていきます。
「4人家族が楽しく暮らす住まいにしたい。好みのシンプルなデザインでかっこよく」というご要望をいただきました。敷地は道路に沿って横に長い変形地で、周囲は比較的建て込んでいます。敷地条件を丁寧に読み取ることからスタートしました。
まず建築地を訪ね、日の差し方や風の吹き方、視線が抜ける方向などをみます。同時に私は、周囲を歩きます。そこがどんな街であり、お客さまがどういう景色をみながら出かけ、帰宅されるのかを知るためです。新しい住まいは、デザインも、そしてお客さまの暮らしも、街に溶け込むものにしなければならないと思うからです。
住まいの中で移動しながら見えてくる景色の美しさや、次に見えてくるものへの期待感をつくることも、空間づくりの大切な要素です。このドアの向こうにどんな景色が広がるか、階段を上がりながら何が見えてくるか――ご家族の毎日の暮らしを想定しながら設計を進めます。
建物には多くの線があります。省けるものはできるだけ省き、また、高さをそろえ、幅なども細かく検討します。それはお客さまが生活を始めても気づかないことかもしれません。しかし、気づかない、気にならないということがすぐれたディテールなのであり、見せ場となる空間を引き立てる役割を果たすと思っています。
「玄関ドアを道路から見えないようにできないか」――設計の最後の最後にいただいたご要望でした。壁を立てる案もありましたが、納得がいかず試行錯誤を重ね悩みに悩んで今の形が生まれました。少し部屋が狭くなるのですが、お客さまも「これでいきましょう」とおっしゃってくださいました。たまたまご夫婦と私が同学年であり体験してきたもの、価値観などについて共鳴できることが多かったからかもしれません。玄関ドアのことも含めて、打合せはいつも楽しく、「かっこよく」という命題に向かってご一緒に歩みました。これからもかっこよく暮らしてください。ありがとうございました。