筑波研究所が生み出した新しい技術の
普及拡大よって中大規模木造建築の実現へ。
母の実家が製材工場で、木とその香りを身近な存在として育ちました。大学の恩師も木質構造の専門家。前職の設計事務所では色々な構造の構造設計を担当していましたが、いずれはより多くの木質構造の建物に携わりたいと考えていました。そんな中、技術開発構想「W350計画」発表のタイミングで、住友林業にお世話になる機会があり、木質構造を手掛けたいという長年の想いがカタチになり、やりたいと思っていたことを実践できる場と感じて転職を決意しました。私が所属する建築住まいグループは、木造建築の技術開発に取り組んでいる部署です。その中で私がリーダーを務める技術普及チームは、筑波研究所が開発した技術の一般化や普及のために、本社の各事業本部をはじめとする展開先との協議や調整の実施、中大規模木造建築の実現のために必要な技術の検討や、適用先の検討を行っています。つまり、新しい技術をどう使うかを検討し、最終的には新技術を活用した中大規模木造建築物の実現に寄与すべき役割を担っています。スタートしてまだ日が浅く、目に見える成果はこれからですが、チーム内では、若手社員に構造設計の考え方などを指導しつつ、木質構造建築に係る技術のボトムアップに繋げる取り組みを進めています。
先進の技術を組み合わせ新たな木造建築物を。
建て替え需要をキャッチし「W30」の実現を目指す。
筑波研究所では様々な研究開発が進められていますが、私たちが普及に向けて取り組んでいる技術の一つが「ポストテンション耐震技術」。これは木質材料に通した高強度の鋼棒やワイヤーロープに緊張力を与えることで部材間の固定度を高める技術。そして、もう一つ普及を進めている技術が「木鋼ハイブリッド」。建物に木材と鋼材を組み合わせた柱・梁や木材で補剛した木鋼ブレースを配置したもので、地震などの揺れに対する力を負担出来ます。こうした技術を組み合わせて、各事業本部からお客様への提案を促し、中大規模の木質構造建築を拡大していきたいと考えています。具体的な第一歩として、現在私たちが注力しているのが、6~8階建てクラス、高さ20~30mの木造ビルの実現です。「W350計画」のロードマップ上のファーストステップと位置付けられ、「W30」と呼んでいるもの。その後、段階的に階層を増やし、最終的に「W350」を実現出来る技術開発を目指します。当面のミッションである「W30」の推進においてターゲットとしている一つが、バブル経済期につくられたオフィスビルを中心とした建て替え需要。首都圏は中高層建築中心ですが、「W30」は中層建築であるため、首都圏を含め郊外エリアを中心とした建て替え需要をキャッチし、従来の鉄筋コンクリート造や鉄骨造から木造建物への転換を提案し実現したいと考えています。
「SDGs」「地球温暖化防止」に寄与する木造建築。
「街を森にかえる」壮大なビジョンを目指して。
現在、社内事業部へアプローチするだけでなく、これまでのキャリアを通じて交流のある社外の建築関係者ともコミュニケーションをとって、積極的な普及活動を進めています。その際に問われるのは、「なぜ、鉄筋コンクリート造や鉄骨造ではなく、木造なのか」という点。つまり、私たちの普及活動では、木造の良さを訴求していくことが極めて重要な活動となります。私は木質構造建物の普及が、国連サミットで採択された「SDGs」(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)や、地球温暖化防止など環境保護の方向性に合致するものであることが、訴求ポイントの一つと考えています。木材は成長過程で大気中のCO2を吸収し、中に閉じ込めます。伐採された木材で建物を建てることはCO2を固定化することであり、さらに植林によって新たなサイクルがスタートする。木材は環境配慮に優れた天然の材料です。こうした、木材でつくる良さをアピールしていくことが重要な役割でると考えています。「W350計画」が目指す、「街を森にかえる環境木化都市の実現」のために、これまで培ってきたキャリアをフルに活かして、尽力していく考えです。
前職のあるプロジェクトで、CO2削減の提案を求められ、6階建ての公共建築物の上部2階を木造とすることを提案しました。過去に例のない構造だったので、繰返しシミュレーションや検討を行い、プレゼンテーションを行いました。眠れない夜が続きましたが、自分ではなく、相手のために行動するとき、本気度が試されると思います。最終的にこの提案は認められ、今もその自治体を代表する建築物となっています。