Project - Project #02

日本における建設業界の脱炭素化を目指す。
資材の調達から建設、廃棄まで、
建てるときのCO₂排出量を見える化。

日本における
建設業界の脱炭素化を
目指す。
資材の調達から建設、
廃棄まで、建てるときの
CO₂排出量を見える化。

木材建材事業本部

建設業界の脱炭素化
プロジェクト

Interviews

インタビュー

建設業界のCO₂排出に歯止めをかけたい。
その想いで、最重要課題である脱炭素化に挑んだ。

建設業界のCO₂排出に
歯止めをかけたい。
その想いで、
最重要課題である
脱炭素化に挑んだ。

地球温暖化を食い止めるため、世界各国でCO₂排出量の削減に向けた取り組みが行われていますが、実は建設分野のCO₂排出量は全世界のあらゆるCO₂排出量の約37%※も占めています。さらにこの内訳は、約70%が「暮らすときのCO₂(以下、オペレーショナルカーボン)」で、残り30%が「建てるときのCO₂(以下、エンボディドカーボン)」となっており、この両者の削減が、世界の最重要課題である建設分野の脱炭素化にとって急務となっています。日本では建設分野のCO₂排出量の削減として、特にZEBやZEHの普及などによるオペレーショナルカーボンの削減が進んでいます。例えば、省エネ製品の導入や、太陽光発電など再生可能エネルギー機器を導入すると電気代を抑えることができるなど、オペレーショナルカーボンの排出量削減は利用者にとって経済的メリットが生じやすく、推進しやすい傾向があったためです。前述の通り、脱炭素化に向けた動きが世界的に加速する今日、日本においてもオペレーショナルカーボンのみならず、エンボディドカーボンの排出量削減も求められるフェーズに差しかかってきています。すでに諸外国では、エンボディドカーボン排出量の算定や開示を法制化するなどさまざまな取り組みが行われている一方、日本では依然としてエンボディドカーボンの取り組みが遅れています。この状況を一刻も早く解決すべく発足したのが、本プロジェクトです。
※出典 global alliance for building and construction(2021)下記グラフを参照

当社が注目したのは、フィンランドのOne Click LCA社が開発した「One Click LCA」というツールです。建築資材の調達から、輸送、建設・施工、改修、廃棄に至るまで全工程のCO₂排出量を精緻に算定することができるソフトウェアです。欧米を中心に約170カ国で利用されており、ISOや欧州規格を含めた世界の80種類以上のグリーンビルディング認証に対応している国際基準に準拠したツールで、当社でも2021年初旬から筑波研究所で利用していました。実際に利用する中で、算定結果の信頼性や、算定に必要な幅広いデータベース選択や入力項目の精緻化などの柔軟性、また効率的にデータ入力ができる点などからその有用性を実感していました。日本でこのツールが普及すれば、日本の建設業界全体の脱炭素化を促進できるはず、と考え、取引先の協力を得てOne Click LCA社と接触しました。先方からは日本独自の算定手法が普及している日本市場において国際規格の「One Click LCA」が普及するのか、加えて戸建住宅を手がける住友林業が、デベロッパーやゼネコン、住宅メーカーに対して営業を行えるのかという点に懸念が示されました。そこで、当社は木材建材の専門商社として培ってきた流通網があること、そこでは長い歴史をかけ、各取引先と信頼を紡ぎ、すでに多数の取引実績があることを定量的に明示しました。そして何より、脱炭素社会を目指す当社だからこそ、当社だけでなく日本全体がこのツールを必要とする社会にしていかなければならないこと、当社がその起点となり使命を果たすことを熱意を持って伝えた結果、日本単独代理店契約が実現しました。世界の産業別CO₂排出率

エンボディドカーボンの排出量削減の重要性が
理解されないという壁が立ちはだかる。

エンボディドカーボンの
排出量削減の重要性が
理解されないという壁が
立ちはだかる。

「One Click LCA」を日本市場に適合するようにカスタマイズを行い、2022年8月に日本版ソフトウェアを発売開始しました。「One Click LCA」を普及させるべく、まずはデベロッパーやゼネコン、設計事務所などへ営業を開始しました。しかし、当初から大きな壁が立ちはだかりました。エンボディドカーボン排出量の算定がいかに重要か、という認識が当社の想定よりも低く、その算定に取り組もうとする企業はほとんどありませんでした。提案しても、「エンボディドカーボン排出量の算定や削減が、建物の価値向上や会社の利益にどうつながるのか」「今でさえ人手不足が課題なのに、なぜ手間をかけて算定しなければいけないのか」といった疑問が数多く寄せられました。また、日本では無料の国内ツールを使用することが主流だったため、海外の有料算定ツールに対する抵抗を示す企業もありました。

この壁を乗り越えるためには、「One Click LCA」導入の成功例を生み出す必要がある。そう考えた私たちは、木材建材事業/住宅事業/建築・不動産事業などによって培ったネットワークを生かし、各事業部と共に取引がある企業を1社ずつ訪問し、提案を重ねました。世界各国が脱炭素化に向けて動いており、今後エンボディドカーボンの排出量の算定・開示は避けては通れないこと、エンボディドカーボンの排出量削減を開示することにより、脱炭素化に向けた企業努力を定量的に発信できること、国際規格に準拠している「One Click LCA」なら、それを世界に向けて発信できることなどを丁寧に説明していったのです。「One Click LCA」利用の意義を理解していただくのは非常に難しいものでしたが、それでも諦めずに提案しつづけることができたのは、私含めてメンバー全員がこのソフトウェアの有用性と、利用することで脱炭素社会の実現に必ず貢献できると信じていたからだと思います。私たちの取り組みは日本の建設業界を大きく変えることにもつながるだろうという思いは、決して揺るぎませんでした。

企業の脱炭素化の取り組みを発信することが、
社会全体の意識改革につながっていく。

企業の脱炭素化の
取り組みを発信することが、
社会全体の意識改革に
つながっていく。

根気強く提案を重ねる中、国土交通省が「2030年のエンボディドカーボン算定義務化」の方向性を発表するなど、国としてもエンボディドカーボンに注目する動きが起きはじめたことは、「One Click LCA」導入意義の追い風にもなりました。少しずつ導入実績を積み上げていくことで、実際に導入しはじめた企業から、「他の建築構造のCO₂排出量と比較したい」「新築・建て替えの差異を算定したい」といった新たなニーズも生まれており、徐々に建設業界の意識改革は進みはじめていると感じています。また、「『One Click LCA』を利用して自社の企業努力を見える化したい」という声に対し、より低炭素の建材を利用することや、建材の運搬におけるCO₂排出量の削減を行うべく地産地消の建材を選ぶなど企業の注力ポイントを踏まえた算定方法を提案することで、「脱炭素化への姿勢が評価され、補助金事業に採択されました」や「『One Click LCA』を活用した新しいプロジェクトが始まりました」という声が届くなど、「One Click LCA」は単なる算定ツールにとどまらず、企業の事業推進や新規事業拡大の一助を担うことができるということにも気づきました。

また、こうしたCO₂排出量削減取り組みの発信は、企業のステークホルダーに向け、企業の価値を提示することにもつながっています。最近は環境や社会に配慮した事業を行っている企業に投資する「ESG投資」が世界的に広まりつつあることや、パリ協定に則り脱炭素化に向けた取り組みが強く求められていることなどを踏まえ、CSRを重視する投資家が増えてきています。今後、企業は脱炭素化の取り組みをさらに積極的に開示する必要があります。開示を求めるステークホルダーに対し、算定結果を開示するのみにとどまらず、企業による具体的な削減取り組みの実行とその努力を定量的に示していくことが重要となります。「One Click LCA」普及に向けた私たちの取り組みはまだまだ道半ばにありますが、脱炭素社会の実現に貢献していきたいと考えています。

One Click LCAを利用した 『新橋ぷらっとホーム』建設プロジェクト

持続可能な未来を築くために。
脱炭素設計のスタンダード化を目指す。

持続可能な未来を
築くために。
脱炭素設計の
スタンダード化を目指す。

今後も建設業界のCO₂排出量削減に向けて、さまざまなかたちで脱炭素化の意義や「One Click LCA」の魅力を伝えていきたいと考えています。しかし本プロジェクトの目指す先は、「One Click LCA」を多くの企業に使っていただくことにとどまりません。建物の全ライフサイクルのCO₂を削減するために、「One Click LCA」を利用しながらどのような設計とすべきか検討する場、つまり「脱炭素設計のプラットフォーム」を構築することです。このプラットフォームを通じて建設業界における脱炭素設計が当たり前になり、各企業がCO₂排出量を開示することで社会全体の脱炭素化が進むこと、そしてその先に持続可能な未来を築くことを目指します。

そして今後は、デベロッパーやゼネコンに対してだけでなく、一般の方々に対してもエンボディドカーボン排出量削減の重要性を伝えていきたいと考えています。すでに現在、住宅事業において「One Click LCA」を利用し、当社が提供している木造住宅がいかにCO₂排出量を削減できるかを見える化する取り組みを行っています。他にも、街の賑わい創出拠点 『新橋ぷらっとホーム』建設プロジェクトなど、一般の方々が環境配慮型建築に触れ、脱炭素社会の実現意義を考える機会に活用いただいています。
建設業界全体の脱炭素化を進める中で、木造建築および環境配慮型建築が地球環境にもたらす価値を発信していく。それが、木を軸に事業展開している当社の使命だと思っています。当社だけでなく業界、そして社会の未来のために、これまで築いてきたあらゆるアセットを活用し、脱炭素社会実現に向け邁進していきます。

PROJECT with Employees Who Moved the Future.
PROJECT with Employees Who Moved the Future.
RECOMMEND CONTENTS