「ととのう」というサウナ用語は、サウナを日常的に利用しない人でも、一度は耳にしたことがあるでしょう。
冷めやらぬサウナブームに伴い、日本のサウナ文化の原点でもある北欧のサウナへの関心が高まっています。
ところで、日本に深く根付くお風呂の文化と北欧生まれのサウナ文化には、意外な共通点があるのはご存じですか。
この記事では、北欧の伝統的なサウナ文化と日本のお風呂文化を比較します。
双方の魅力を知り、忙しい日常をより豊かにする国内外の癒しの文化について、知見を広げましょう。
北欧のサウナ文化と日本のお風呂文化
「ととのう」というサウナ用語は、サウナを日常的に利用しない人でも、一度は耳にしたことがあるでしょう。
冷めやらぬサウナブームに伴い、日本のサウナ文化の原点でもある北欧のサウナへの関心が高まっています。
ところで、日本に深く根付くお風呂の文化と北欧生まれのサウナ文化には、意外な共通点があるのはご存じですか。
この記事では、北欧の伝統的なサウナ文化と日本のお風呂文化を比較します。
双方の魅力を知り、忙しい日常をより豊かにする国内外の癒しの文化について、知見を広げましょう。
北欧での暮らしに、サウナは欠かせない存在です。
たとえば北欧諸国の一つであるフィンランドは、人口550万人に対して、約330万もの公営および私営のサウナがあるといわれています。
世界で最も、1人当たりのサウナの数が多いのがフィンランドです。
ここでは、そんなフィンランドのサウナ文化について、次の観点で見ていきましょう。
●北欧におけるサウナの起源と役割
●北欧のサウナの種類
●現代の北欧におけるサウナの役割
フィンランド語の「sauna」は、世界中で愛されるサウナの語源です。
フィンランドをはじめとする北欧諸国では、サウナは古くから、生活の一部として親しまれてきました。その歴史は古く、サウナの発祥は、およそ2000年以上前にさかのぼるともいわれます。そして発祥当初の北欧におけるサウナには、宗教的・儀式的な意味合いがありました。
たっぷりの蒸気を浴びるサウナは、心身を清める神聖な場所として認識されていました。驚くことに、出産や病気の治療、死後の準備のための場所としてもサウナが利用されていた、という記録もあります。フィンランドや他の北欧地域で、サウナが神聖視されていたことがわかるでしょう。
また寒冷な気候が続く北欧では、サウナは単に身体をあたためるためのものではなく、コミュニティや家族が集まり、社会的な交流を深める場でもありました。家族や友人知人が集まって一緒にサウナを楽しみ、会話し、絆を強める場です。
寒さが厳しい北欧にあって、サウナを楽しむひとときは、冷え切った体をあたため、たっぷりの蒸気に満たされることで心身を癒す時間として、長く引き継がれています。
サウナ発祥の地とされる北欧諸国では、さまざまな種類のサウナがあります。
その中でも、代表的なものを厳選してご紹介しましょう。
中でも北欧のサウナとして広く知られているのが、フィンランド式とも呼ばれるロウリュウサウナです。
ロウリュウサウナでは、サウナ室の中にストーブ(キウアス)があり、そこで石を熱します。灼熱の石に水をかけ、発生した温かい蒸気(ロウリュウ)でサウナ室を満たすのが、ロウリュウサウナの特徴です。
北欧、特にフィンランドのサウナの多くは、木造です。蒸気によって香ばしい木の薫りがサウナ室に広がり、リラクゼーション効果を高めます。
蒸気に満たされた、足元がやっと見える程度のほの暗いサウナ室は、神聖な場所として大切にされたサウナの起源を彷彿とさせる空間です。そして心穏やかに、仲間と交流する場という役割も果たします。
北欧諸国では公共の温浴施設だけでなく、個人の住宅にサウナを設置しているケースを多く見受けます。
北欧におけるサウナは非日常の空間ではなく、日常のワンシーンです。
健康増進のほか、心身のリラックス、家族や友人との交流など、さまざまな目的で楽しまれています。
さらに、豊かな自然を生かしたサウナが増えているのも、現代の北欧のサウナの特徴です。
サウナといえば「サウナ→水浴び→休憩」の流れですが、水浴びの代わりに湖や川に飛び込むこともあります。
最近では、シャワーで済ませる人も増えていますが、やはりゆっくりくつろぎたいときは、湯船にたっぷりのお湯をためてお風呂時間を楽しみたいものでしょう。
ただ、この浴槽にお湯をためて浸かる習慣は、日本以外の国ではあまり見かけない文化です。
日本のサウナでも入る前にシャワーを浴びますが、北欧でも同様に、サウナに入る前にシャワーを浴びて汗や汚れを洗い流します。
しかし、浴槽にお湯や水をためて浸かる習慣はありません。
そんな日本固有のお風呂の文化について、見ておきましょう。知っているようで知らなかった、新しいお風呂の魅力を発見できますよ。
「お風呂」というと、浴槽にお湯を張って湯船に浸かるイメージがあるでしょう。しかしお湯に浸かる文化が庶民の日常にまで広まったのは、江戸時代頃からといわれています。現代にも息づく日本のお風呂文化は、実は比較的歴史が浅い文化です。
日本でお風呂の習慣が始まったのは6世紀頃、仏教が日本に伝来した頃に中国から伝わった、という説が有力です。
仏教では入浴を「七病を除き、七福が得られる」と説いています。健康に良く、また僧侶の身体を清めるための重要な宗教儀式の一つとして、お風呂は活用されていました。
お風呂の文化は、時代が下るにつれて、徐々に貴族をはじめとする身分の高い人たちの間で発展します。しかしいつの時代も、大きな湯船にたっぷりのお湯を沸かすのは、容易なことではありません。そのため、浴槽のお湯に浸かるお風呂ではなく、蒸気で身体の汚れを浮かせて洗い流す蒸し風呂が主流であったとされています。
江戸時代に、庶民の間に銭湯の文化が広がった当初も、大きな浴槽いっぱいに水を張り、お湯を沸かすのは、容易ではありませんでした。初期の銭湯は、従来の蒸し風呂に、浴槽に足を浸す程度の湯を加えて下半身を浸し、上半身だけ蒸気を浴びる「戸棚風呂」と呼ばれる仕組みを採用していました。
江戸時代以降、井戸水を利用する技術が発展するにつれて、たっぷりの水で浴槽を満たし、湯を沸かして浸かる、現代のお風呂のスタイルが確立しました。
現代の日本におけるお風呂は、欠かせない日常生活の一部です。また、ストレス解消やリフレッシュ効果が期待できることでも、注目されています。
さらに、健康志向の高まりを受けて、湯船に浸かる日本のお風呂文化の意義が見直されつつあるのはご存じですか。
湯船に浸かって深部体温、つまり内臓の温度を高めておくことは、良質な睡眠を取るために欠かせないことが、さまざまな研究からわかっています。忙しい日々でシャワーで済ませることが常になっているなら、今夜は温かい湯船にゆったり浸かって、1日の疲れを癒してみませんか。
北欧のサウナ文化と日本のお風呂文化には、いくつもの共通点があると同時に、違いもあります。
ここでは、次の3つの観点で、北欧のサウナ文化と日本のお風呂文化を比較してみましょう。
●文化的背景
●社会的役割
●健康効果
北欧のサウナは、自然と人間との調和を意識したものとして根付いています。凍えるほど寒い季節にも、たっぷりの水蒸気で体をあたため、心身ともにリフレッシュを図ることが可能です。
また宗教儀式が起源にあるように、北欧のサウナには精神的・肉体的な浄化を目的とする傾向があります。これは、日本でブームになっているサウナの「ととのう」にも通じるといえるでしょう。
日本のお風呂も、古来は宗教儀式の一つとして神聖視されていました。しかし庶民の日常に浸透するにつれて、身体的な浄化やリラクゼーションといった心身の健康促進を期待する側面が強くなっています。
現代では、日本にお風呂の文化が伝来した当初の、宗教儀式としての入浴という概念は、ほとんど残っていません。むしろ、日常に根付いた癒しのひとときとして、日本人の生活に溶け込んでいます。
日本のお風呂は、心身を解き放ち開放する場です。たとえば大浴場などでお風呂に入る際は家族や親しい人と楽しく会話しながら、和やかな時間を過ごします。銭湯で湯上りに、腰に手を当てながら冷えたビン入り牛乳を飲むのは、銭湯の定番のスタイルでしょう。
銭湯や温泉の文化は、開放的なコミュニケーションの場としてのお風呂文化の、象徴的な存在です。
一方の北欧のサウナでは、私語は慎み、静かに入るのがマナーです。ただし、押し黙って過ごすのとは異なります。親しい人と一緒にサウナに入れば、談笑することもあるでしょう。しかし、あくまでもゆったりくつろぎながら静かに言葉をかわす程度にとどめます。
北欧のサウナとは、蒸気に満たされた暖かい空間で不要な情報を制限し、自分の心身とじっくり向き合うひとときを楽しむ場です。開放的な雰囲気にあふれた日本のお風呂文化と異なり、静かにそして丁寧に言葉を紡ぎながら、緩やかに心をかよわす時間を過ごすのが、北欧のサウナといえます。
北欧のサウナ文化、日本のお風呂文化ともに、心身のリラクゼーションに加えてさまざまな健康効果がもたらされることが分かっています。代表的な効果を比較したものが、下の表です。
北欧のサウナ文化、日本のお風呂文化のいずれにも共通する健康効果がいくつもあることに、驚かれたでしょう。ただ、体へのアプローチ方法は、次のように異なります。
北欧のサウナと日本のお風呂はいずれも、アプローチの方向性は異なりますが、体を健やかな状態に整える方法として愛されてきました。それぞれの地域の気候や風土にフィットするよう試行錯誤を繰り返しながら確立された、後世に伝えたい、素晴らしい文化です。
北欧のサウナと日本のお風呂は、それぞれに異なる文化や歴史を背景に持ちながらも、リラクゼーションと健康促進に優れた効果をもたらす方法として親しまれてきました。「温かさ」を通じて心身のストレスを解消し、血行を促進することで心身を癒す点で、優れたリラクゼーションとケア方法です。
北欧のサウナも日本のお風呂も、現代の忙しい生活において、身体と心をリセットし、健康を維持するための素晴らしい文化といえるでしょう。北欧と日本、それぞれの歴史や文化的な背景を感じながら、改めて北欧のサウナや日本のお風呂を体験してみてはいかがでしょうか。新たな視点や感動を見いだせることでしょう。