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Project story04

脱炭素設計をスタンダードに、
キーワードは
エンボディドカーボン。

Project Name
クラウド型エンボディドカーボン計測 LCAソフトウェア
Project Vision
木材建材商社部門による
建てるときのCO2排出量を
効率的に見える化
Outline
建てるときに排出されるCO2を“見える化”するソフト「One Click LCA」の日本単独代理店契約を定結。建物のCO2排出量や炭素固定量を計算できるソフトで、木材や低炭素建材の利活用を推進し、建設業界全体で脱炭素化を目指しています。
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木材建材事業本部ソリューション営業部LCAチーム マネージャー
鈴木 俊一郎 Shunichiro Suzuki
2001年入社 教育学部卒

入社以来、建材の流通事業に関わり、北関東営業所や東北支店でパネルや建築資材の販売営業に携わる。2014年から4年間はオーストラリアに駐在し、大手ビルダーで住友林業子会社のヘンリー・プロパティーズ・グループで流通事業の立ち上げに参画。2018年に帰国後はソリューション営業部の中で、将来的に必要とされる本部機能強化や重点メーカーとの施策等の営業戦略に関わり、2022年の本プロジェクトの立ち上げからリーダーを任命され、現職に至る。

STORY -- 1

CO2

2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、建設業界では「暮らすときのCO2排出量(オペレーショナルカーボン)」と「建てるときのCO2排出量(エンボディドカーボン)」、二つのCO2排出削減を目指す脱炭素化の取り組みが求められている。国土交通省は2023年に「2030年のエンボディドカーボン算定義務化」に言及し、日本でも脱炭素の動きが加速し始めている。全世界のCO2排出量のうち、建設部門の占める割合は約37%(※)と言われている。さらに内訳は約70%が「暮らすときのCO2排出量(オペレーショナルカーボン)」で、残り30%が「建てるときのCO2排出量(エンボディドカーボン)」である。「暮らすときのCO2排出量」は既に、ネットゼロエネルギーハウス・ビルディング(ZEH・ZEB)の普及により削減が進んでいるが、今後は「建てるときのCO2排出量」の削減が課題となる。つまり、「建てるときの脱炭素化」である。

この建設分野のCO2排出量削減に向けて、すでに欧米を中心に国際的な枠組みが形成されている。また、海外の投資家や企業などからは国際規格に準拠したCO2排出量開示や、LEEDなどグリーンビルディング認証に対するニーズが高まっている。ヨーロッパでは2025年以降、すべての建材で温室効果係数の開示が要求され、2027年以降は、建物のエンボディドカーボン算定と算定結果の開示が要求されることになる。
こうした国際的なエンボディドカーボン情報開示の動きについて、当社は海外のサプライヤーやパートナー企業から情報提供を受けており、当社筑波研究所でも10年以上前からLCAに関する研究を進めてきた。日本ではエンボディドカーボン算定がなかなか認知・定着しない中、住友林業の脱炭素事業において、自社のみならず、社会全体のCO2の吸収・固定に寄与し、業界の全網羅的な取り組みとして、脱炭素建築のスタンダード化を推し進めるプロジェクトを構想。世界140カ国に普及しているエンボディドカーボン算定ツール『One Click LCA(Life Cycle Assessment)』を日本市場に広めていくパートナーに名乗りを上げ、2022年よりOne Click LCA社と日本単独代理店契約を締結した。日本市場に適合するようにカスタマイズを行い、同年8月に日本版ソフトウェアを発売している。
「One Click LCA」はフィンランドのOne Click LCA社が開発するソフトウェアで、欧州を中心に広く普及しており、業界トップクラスのシェアを誇る。ISOや欧州規格を含む世界60種類以上のグリーンビルディング認証に対応している。同製品では、建設にかかる建築資材の調達から、輸送、建設・施工、改修、廃棄に至るまで、「建てるときのCO2排出量(エンボディドカーボン)」を精緻に算定することが可能である。

※出典:global alliance for building and construction(2021)

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住友林業がソフトウェア販売代理を担うビジネスは初めて。本プロジェクトは木材建材流通を手がける木材建材事業本部ソリューション営業部が担うこととなり、LCAチームはソフトウェアOne Click LCAの販売、日本版カスタマイズ、カスタマーサポート等を請け負っている。つまり、ソフトウェアの機能・使い方のサポートや、ソフトウェアの日本語訳、導入提案、導入後のフォローまで全てを担っている。建築資材の営業などを行ってきた鈴木をはじめ、立ち上げメンバーの3人はソフトウェアの知識も建築系の知識もゼロ。唯一、筑波研究所で10年以上LCAの研究をしてきた専門職を加え、プロジェクトは4名でスタートしたが、大方想定されていた通り、困難続きの船出となる。
まず、日本ではエンボディドカーボンの認知が低く、そもそもCO2排出量算定に取り組む企業が限られていた。取引先に接触しても、CO2排出量の見える化や算定は「必要なし」と面談に繋げるだけでもひと苦労。さらに日本では建築学会の指針をベースとしたExcelのツールが研究者や担当者の間で普及しており、業界全体が海外のツールを受け入れることに消極的だった。国土交通省も建築学会の動きを推進・支援し、海外製の算定ツールの提案に対して、最初は懐疑的な声も多く、どこへ行っても、なかなか思うように話が進まない現実にぶち当たった。

「One Click LCAはゼネコンと設計事務所、さらにその関係先であるサブコントラクターなどが販売先です。発売前から主要大手に営業を始めましたが、まだ時期尚早というか、エンボディドカーボン自体が日本にほとんど定着していないことを痛感しました。なおかつ、建築学会で開発されたLCAツールは無償です。One Click LCAは100万円の有料ソフトですので、『100万円を出して、CO2を算定する意味や価値』を伝えることは非常に難しく、海外の事例をもとに説明してもその価値をほとんど理解していただけませんでした。」(鈴木)

鈴木たちはアプローチ先をデベロッパーやテナントなど、脱炭素の見える化を企業の社会的責任として必要とする側に対しても積極的にアプローチを始めることに。説明の機会を設け、欧州など海外におけるエンボディドカーボン算定に対する取り組みを積極的に発信し続けた。2022年11月にはOne Click LCA社のPanu社長を招き、住友林業本社で大手デベロッパー、ゼネコン、有識者を対象にしたセミナーを開催。海外における脱炭素の取り組みに追随すべく日本でも積極的な取り組みが求められること、One Click LCAが日本の建設業界にとって有効な算定ツールであることなどを説明、講演は大きな反響を得た。その後も国土交通省主催のセミナーでの講師対応や、関連ソフトウェア企業とのタイアップセミナーなど、少しでも機会があれば露出を高めながら、One Click LCA認知に取り組んでいる。

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エンボディドカーボンの認知拡大に苦戦する一方、住友林業がOne Click LCAを通じた脱炭素化に取り組むことに対して、共感の声も届いた。長い歴史の中で大造林計画を通じて自然環境と共生しながら事業を展開してきたこと、自然素材である「木」を軸とした木材流通や木造戸建住宅の事業に対する評価や信頼が取引先からは伝わってきた。やはり、住友林業が手掛けるLCA事業だからこそ期待値も高いことをプロジェクトメンバーも肌で感じた経験だった。

「最初に興味を持ってくださったのは、すでに英語版のOne Click LCAを導入されていたゼネコンでした。日本版をリリースするとすぐに切り替えていただいて、すでにかなり深く使いこなしていただいています。日本では、まだエンボディドカーボンの算定を要求される事が少ない為、今もOneClickLCAの導入を断られることの方が断然多いです。しかし、環境配慮型の建築に対する意識が高い取引先を中心に、賛同の声もいただき始めています。現在、大手ゼネコンのトップ20社の半数以上がすでにOne Click LCAを導入いただいています。」(鈴木)

LCA導入には現場レベルで「誰が担当するのか?」という課題もある。建物に使用する資材名と資材数量を入力する作業がメインだが、通常は設計や積算担当が知見を持ってはいても、本来業務で手一杯なのがどこも現状だ。One Click LCAを利用した算定効率化の提案は随時行っているものの、前述のように担当者がいない、専門知識がないという顧客には、LCA算定を代行してレポートを作成する「LCA算定受託サービス」を提供している。2023年2月から始めたところ、ゼネコンや設計事務所だけでなく、デベロッパーや金融機関、投資会社などからも反響があった。自分たちの対象としている建物のCO2排出量をテナントやステークホルダーに示さなければならないという理由からニーズが広がり、想定を超えて利用が拡大し始めている。またテナント自ら、例えば世界的規模で展開するファストフードチェーンや衣料品チェーン、オーガニックコスメブランド、通販事業会社等が、日本で運営する店舗のCO2を見える化するため、One Click LCAの利用価値を認めている。

「やはり、デベロッパーにとって国際準拠というのはすごく重要なキーワードです。テナントとして海外の企業が入居しているケースや、海外の投資家がその建物に投資するケースもありますから。最近だと、デベロッパーが、ゼネコンに対してOne Click LCAの契約を推奨してくださったり、通知文書の中に『One Click LCA使用のこと』という指示を入れてくださったりしていて、これまでの努力が実を結び、徐々に普及し始めていることに喜びを感じています。とはいえ、まだまだ普及途上ですので、日本中のゼネコンやサブコンにまで更に幅広く浸透させていきたいです。」(鈴木)

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使

2022年の初めからスタートしたプロジェクトも、実は2023年の後期から、急に潮目が変わってきた。国土交通省が建設分野の脱炭素化に向けた取り組みの中で、「2030年のエンボディドカーボン算定義務化」の指針を発表するなど、CO2算定の必要性についての認知が広がりつつあるのだ。業界では、海外製品よりも、日本国内で整備された算定ツールを利用したいとの根強いニーズはあるものの、One Click LCAは国際準拠したツールである点、BIM(Building Information Modeling)のデータとプラグイン機能を通じて効率的にデータ連携し、脱炭素化に向けた企業努力を定量化出来る点などから、高く評価されている。この特徴を強みとして、いよいよ普及拡大のチャンスを迎えている。

「社内関係者の協力を得て、国土交通省など公的な機関への働きかけを非常に重視してきました。国のルール作りを行っている会議やワーキングにLCA算定ソフトに関わる企業を代表し、積極的に参加しています。日本で新たに策定されるLCA枠組みが国際規格に準拠した内容になるように、またOne Click LCA等の国際ツールも認められるように活動を進めてきました。最近は国土交通省の資料の中にOne Click LCAを利用した算定結果が記載されることもあり、国際準拠ツールという位置づけで認知してもらえるようになったのだと実感しています。また、ユーザーがニュースリリースを出す際に、One Click LCAで計算したデータを開示するなど、対外的にも目にすることが増えてきました。今後、ユーザーの脱炭素取組PRにOne Click LCAが利用され、ユーザーの営業活動に貢献できることを期待しています。」(鈴木)

今後の目標は、ソフトウェア販売に加え、LCAに絡む課題解決のための新規事業の構築・推進もプロジェクトの重要なテーマであり、前述した「LCA算定受託事業」や「EPD取得サポート事業」の3事業を現在、プロジェクトの柱として推進中だ。
EPD(Environment Product Declaration)とは、環境製品宣言の略称で、原材料調達から廃棄までの製品の全ライフサイクルに亘るCO2排出量などの様々な環境影響を可視化した、ISOに準拠した環境認証ラベルを指す。EPDを取得することで、製品の環境への影響を定量的に表すことができ、建築資材メーカーにとっては脱炭素製品のアピールとなる。また、その製品を使用するゼネコンや設計事務所にとっては、EPDが増える事によりOne Click LCAでより精緻な計算ができるため重宝されることになる。こうした連携する各種LCA事業を通じて、建設業界におけるエンボディドカーボンの見える化や削減に貢献していくことが今後の方針である。
住友林業は2022年に発表した長期ビジョンにおいて、木を中心とした「森林」「木材」「建築」における事業モデルを通じた脱炭素取り組みを対外的に発信している。「建築」分野においては、「One Click LCAを通じた脱炭素設計のスタンダード化」を重点施策に掲げており、LCA事業の推進は住友林業の長期ビジョン実現に向けた重要パートとなっている。
プロジェクト3年目の現在、メンバーにはLCAやスタートアップ事業に魅力を感じて転職してきたキャリア採用の4名がジョイン。大手ゼネコンなどで設計・積算・BIMの経験や資格を持つ心強いメンバーで9名体制となったが、事業がどんどん広がっており、さらに大きなプロジェクトへと成長しそうな勢いだ。

「プロジェクトの目的から言ったら、まだまだ道半ば。One Click LCAを業界のスタンダードにするには今の10倍以上の普及拡大が必要です。当社にてOne Click LCAを取り扱うからこそ、単なるソフトウェア販売に留まらず、そこから住友林業の木造建築物の価値拡大や、流通部門における木材やEPD製品の利用拡大に繋げ、さらに総合的な事業の価値拡大に繋げていくことに、真摯に取り組んでいきたいと思います。」(鈴木)