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Strengths


W350

1991年の設立以来、筑波研究所は、
木に関する先進的で多彩な研究開発に取り組んでいる。
そんな中、住友林業が2018年に発表した「W350計画」。
これは、創業350周年を迎える2041年までに、
人と木、様々な生き物が共生する
「環境木化都市」をつくるという研究技術開発構想。
いわば、「街を、森にかえる」壮大な構想であり、
夢を現実のカタチにする挑戦(研究技術開発)が、
筑波研究所で始まっている。
ここでは主要施設を中心に、進められている研究開発の一端を、
業務グループのチームマネージャー
鴻池孝宏に案内してもらった。

本日、ご案内を担当するのは

筑波研究所 業務グループ 兼
企画グループ チームマネージャー
鴻池 孝宏 Takahiro Konoike

1995年:建築技術職として入社
2009年:旧商品開発部配属。
2013年:筑波研究所配属、現在に至る。



2019年10月、筑波研究所に新研究棟が完成しました。木造3階建ての木質感溢れる新研究棟は、「W350計画」に向けた要素技術を実装した研究拠点であり、同時に、「木を科学する」先進技術や木に関する幅広い情報を発信する拠点とも位置付けられています。コンセプトは「オリジナルのポストテンション技術による象徴的な空間」「避難安全検証による豊かな内装」「涼温房設計によるゼロ・エネルギー化計画」「特殊緑化・オフィス緑化の実験・実証」の4点。いずれも「W350計画」の要素技術として重要なものです。
「オリジナルのポストテンション技術による象徴的な空間」は、壁柱は縦横1200mm、厚さ390mmのLVL(単板積層材)を市松状に積み上げ、LVLの中に鋼棒を通し引張力を加えて剛性を高めることで実現しました。「ポストテンション技術」とは耐力部材に通した高強度の鋼棒やワイヤーロープに引張力を与えることで部材間の固定度を高める技術であり、高い剛性を実現。さらに、構造体を「木の現し(木造建築で柱や梁などの構造材が見える状態で仕上げる手法)」とすることで、温かみのある空間を実現しました。
「避難安全検証による豊かな内装」における技術としては、準耐火60分大臣認定を取得した合わせ梁を採用。火災時の避難経路等避難安全性能は、全館避難検証法ルートCの大臣認証を取得しました。それにより、内装制限等の緩和を受けることで設計の自由度を確保、梁や柱を現したオフィス空間が生まれています。また、木造建築物を対象とした全館避難検証法の大臣認定を取得した国内初の物件です。
「涼温房設計によるゼロ・エネルギー化計画」とは、風や太陽を活かして心地良さを得る住友林業独自の「涼温房設計」です。屋上にはソーラーパネルを設置、木質ペレット焚吸収式冷温水機を熱源とする空調システムの導入で一次エネルギーを削減し、この建物で使われるエネルギーや温熱環境をシステム制御・運用することにより、ZEB(ゼロエネルギービル)を目指します。また吹き抜け上部に、四季を通して太陽光を1階のインナーコートヤードに導くルーバーを設置、吹き抜け内に上昇気流を発生させ自然通風を活用し効果的に換気するシステムを備えました。
「特殊緑化・オフィス緑化の実験・実証」では、住友林業の独自技術を活かし、外壁やインナーコート、屋上に緑地スペースを設置。オフィス環境の新たな緑化技術の研究・開発に役立てます。この空間では知的生産性向上に配慮した緑のレイアウト等を検証します。



筑波研究所には、第1から第3までの3つの温室、ゲノム選抜育種を行う育種実験棟などがあり、バイオテクノロジーをはじめ、多彩な育種、育苗の研究が進められています。その一つが「ゲノム選抜育種」。木の遺伝子情報を収集・解析し、精英樹(森林の中でとび抜けて成長が良く、その他の形質が優れている個体)を選別するための形質予測モデルに取り組んでいます。将来的には、予測モデルを活用し、優良木の短期育成を目指します。「W350計画」における超高層木造建築物に使用される木材は、強度や耐久性において高いレベルが求められます。一方で、都市の緑化技術への取り組みを発展させ、木造高層建築に適した緑化技術の研究も進めています。「W350計画」の高さ350m70階建て建物の外側4周は避難経路にもなっているティンバーインターフェイスがあり、各所に樹木が配置されることになります。高層階まで連続する緑は、都市での生物多様性を育む景観を構成します。従来の屋上緑化や壁面緑化を超えて、建物そのものが緑化されるといえます。
筑波研究所がコア技術の一つに、組織培養技術の取り組みがあります。桜の名所で知られる、京都市伏見区の真言宗醍醐派総本山醍醐寺のしだれ桜。豊臣秀吉が盛大な花見をしたことで知られる「太閤しだれ桜」の子孫と伝えられています。1990年代後半、樹勢が衰え枯れ死の危険性がありました。筑波研究所はその樹勢回復と後継樹種の研究に1999年から取り組み、2000年バイオテクノロジーを用いて、しだれ桜を組織培養により増殖し開花させることに、世界で初めて成功しました。いわゆるクローン桜であり、増殖した苗は2004年11月には醍醐寺境内に移植し、翌年4月には無事に開花。こうした組織培養技術によって、日本各地の名木や貴重木を次世代につなげる取り組みも行っています。

W350

「ポストテンション構造」は新研究棟に加えて、耐火検証棟にも導入されています。この施設から生まれた商品の一つが耐火構造部材「木ぐるみCT」です。名前は、木によって包まれ、組み合わさった(combined)材木(timber)の特徴を持つことを表しています。一般に流通している木材を耐火被覆に用いることでコストを抑えた、耐火構造部材を開発しています。万が一の火災の後には被覆層を交換できるような仕様として、建物をそのまま使い続けられるように考えています。
耐火検証棟には大型多目的炉があり、実際の建物を想定し、多様な部材の防耐火の実験を行っています。大型多目的炉の温度は1000℃以上にもなり、ISOの規格にのっとった実験が可能です。炉を持っていることで、迅速に研究開発ができるなど、研究開発の大きな武器になっています。耐火部材の研究が目指すのは、長時間火にさらされても燃え止まる技術開発です。耐火性能は「1時間耐火」「2時間耐火」「3時間耐火」とそれぞれの時間、火にさらされても荷重支持の構造材に変形や溶融、破壊などの損傷を及ぼさないことで性能が評価されますが、「W350計画」で建築される70階の木造超高層建物は「3時間耐火」の認定を受けなければなりません(15階以上は「3時間耐火」)。「3時間耐火」の耐火材料を生み出すことは、筑波研究所の避けては通れない重要なテーマとなっています。



構造実験を行う通称“ビッグラボ”は、木造建築の構造に関わる研究開発の拠点であり、ここから日本で初めて、木造住宅でラーメン構造(柱と梁の接合部を固く留め、変形を抑えた構造)を可能にした住友林業独自の「ビッグフレーム構法」が生まれています。ビッグフレーム構法は、主要構造材に通常の5倍ある大断面集成柱を採用し、構造材に埋め込まれた金属同士のメタルタッチ接合で、構造躯体を強固に一体化する工法です。構造用合板を使用した構造と同等の耐震性を確保しつつ、大開口や大空間を実現し、開放感溢れる住まいをつくることが可能となります。大空間をつくり出し建物の強度を高めるという、一般にトレードオフとなる要素を両立させる技術がここから生み出されました。強靭で、設計自由度が高い木の住まいを実現する「ビッグフレーム構法」はさらなる進化を続けています。ビッグラボでは、ビス一本の引き抜き実験から実物大の構造体を用いた実験まで幅広く実施しており、万能試験機では静的加力試験、振動試験機では動的な振動実験を実施するなど、シミュレーションでは得られないデータを取得し、強度や耐震性を検証しています。
「W350計画」の高さ350m70階建ての超高層木造建築において、注目を集めるのがその構造です。鉄骨やコンクリートではなく木造で、そもそも高い建物がつくれるのかどうか。耐震性など強度に不安はないのかどうか。先に紹介した「オリジナルのポストテンション技術」はその壁をクリアする要素技術のひとつですが、さらに木構造の可能性を広げるために、筑波研究所ではポストテンション技術の他に「木鋼ハイブリッド構造」も開発しています。これは木材と鋼材を適材適所の考え方で組み合わせた柱・梁部材やブレース(筋交い)部材の開発です。柱や梁などで組まれた軸組にブレースを入れることで、地震・風などの横からの風に対して建物が変形するのを防ぎ、鉄骨構造に劣らない強度を確保するというもの。この「木鋼ハイブリッド構造」の開発は、超高層木造建築の核心部分とも言えるものです。

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今回は、筑波研究所の主要施設を通して、「W350計画」に向けた研究開発の一部を紹介しましたが、筑波研究所の取り組みはこれだけに留まるものではありません。「資源グループ」「材料グループ」「建築住まいグループ」「木のイノベーショングループ」「住宅技術商品開発センター」「企画グループ」「業務グループ」の7つのグループそれぞれが研究開発を進めています。たとえば「材料グループ」では、水に強い木質ボードや高耐候性木材やオリジナル塗料の研究開発。あるいは「木のイノベーショングループ」では、木や緑が持つ特性と、それらが人の体に与える影響を科学的に検証し、快適な住まいづくりに活かす取り組みも行っています。各グループの研究開発が有機的に連携して「W350計画」は推進されています。
今後、耐火・耐震・耐久性能のさらなるレベルアップ、建築コストの徹底した削減、新たな部材や構法の開発など、街を、森にかえる「環境木化都市の実現」を目指し、筑波研究所の挑戦は続きます。

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