「環境木化都市の実現」を目指した
要素技術の検証の場。
「新研究棟」。
2019年10月、筑波研究所に新研究棟が完成しました。木造3階建ての木質感溢れる新研究棟は、「W350計画」に向けた要素技術を実装した研究拠点であり、同時に、「木を科学する」先進技術や木に関する幅広い情報を発信する拠点とも位置付けられています。コンセプトは「オリジナルのポストテンション技術による象徴的な空間」「避難安全検証による豊かな内装」「涼温房設計によるゼロ・エネルギー化計画」「特殊緑化・オフィス緑化の実験・実証」の4点。いずれも「W350計画」の要素技術として重要なものです。
「オリジナルのポストテンション技術による象徴的な空間」は、壁柱は縦横1200mm、厚さ390mmのLVL(単板積層材)を市松状に積み上げ、LVLの中に鋼棒を通し引張力を加えて剛性を高めることで実現しました。「ポストテンション技術」とは耐力部材に通した高強度の鋼棒やワイヤーロープに引張力を与えることで部材間の固定度を高める技術であり、高い剛性を実現。さらに、構造体を「木の現し(木造建築で柱や梁などの構造材が見える状態で仕上げる手法)」とすることで、温かみのある空間を実現しました。
「避難安全検証による豊かな内装」における技術としては、準耐火60分大臣認定を取得した合わせ梁を採用。火災時の避難経路等避難安全性能は、全館避難検証法ルートCの大臣認証を取得しました。それにより、内装制限等の緩和を受けることで設計の自由度を確保、梁や柱を現したオフィス空間が生まれています。また、木造建築物を対象とした全館避難検証法の大臣認定を取得した国内初の物件です。
「涼温房設計によるゼロ・エネルギー化計画」とは、風や太陽を活かして心地良さを得る住友林業独自の「涼温房設計」です。屋上にはソーラーパネルを設置、木質ペレット焚吸収式冷温水機を熱源とする空調システムの導入で一次エネルギーを削減し、この建物で使われるエネルギーや温熱環境をシステム制御・運用することにより、ZEB(ゼロエネルギービル)を目指します。また吹き抜け上部に、四季を通して太陽光を1階のインナーコートヤードに導くルーバーを設置、吹き抜け内に上昇気流を発生させ自然通風を活用し効果的に換気するシステムを備えました。
「特殊緑化・オフィス緑化の実験・実証」では、住友林業の独自技術を活かし、外壁やインナーコート、屋上に緑地スペースを設置。オフィス環境の新たな緑化技術の研究・開発に役立てます。この空間では知的生産性向上に配慮した緑のレイアウト等を検証します。
バイオテクノロジーによって、
森林資源の新たな価値を見出す。
「第一温室」
筑波研究所には、第1から第3までの3つの温室、ゲノム選抜育種を行う育種実験棟などがあり、バイオテクノロジーをはじめ、多彩な育種、育苗の研究が進められています。その一つが「ゲノム選抜育種」。木の遺伝子情報を収集・解析し、精英樹(森林の中でとび抜けて成長が良く、その他の形質が優れている個体)を選別するための形質予測モデルに取り組んでいます。将来的には、予測モデルを活用し、優良木の短期育成を目指します。「W350計画」における超高層木造建築物に使用される木材は、強度や耐久性において高いレベルが求められます。一方で、都市の緑化技術への取り組みを発展させ、木造高層建築に適した緑化技術の研究も進めています。「W350計画」の高さ350m70階建て建物の外側4周は避難経路にもなっているティンバーインターフェイスがあり、各所に樹木が配置されることになります。高層階まで連続する緑は、都市での生物多様性を育む景観を構成します。従来の屋上緑化や壁面緑化を超えて、建物そのものが緑化されるといえます。
筑波研究所がコア技術の一つに、組織培養技術の取り組みがあります。桜の名所で知られる、京都市伏見区の真言宗醍醐派総本山醍醐寺のしだれ桜。豊臣秀吉が盛大な花見をしたことで知られる「太閤しだれ桜」の子孫と伝えられています。1990年代後半、樹勢が衰え枯れ死の危険性がありました。筑波研究所はその樹勢回復と後継樹種の研究に1999年から取り組み、2000年バイオテクノロジーを用いて、しだれ桜を組織培養により増殖し開花させることに、世界で初めて成功しました。いわゆるクローン桜であり、増殖した苗は2004年11月には醍醐寺境内に移植し、翌年4月には無事に開花。こうした組織培養技術によって、日本各地の名木や貴重木を次世代につなげる取り組みも行っています。