1年を春夏秋冬の4つに分けたものを「四季」、24に分けたものを「二十四節気」、72に分けたものを「七十二候」といいます。
七十二候は細やかな自然の移ろいに目を向けた暦で、鳥や花、気象などの様子で季節を表現しているのが特徴。
この記事では、72ある候のうち春を表す第十候~第二十七候について解説します。
「二十四節気」は、太陽の高さが最も高くなる「夏至」と最も低くなる「冬至」、その中間にあって昼と夜の長さが等しくなる「春分」「秋分」を基点として、太陽の動きをもとに1年を24等分したもので、それぞれ約15日間です。
「七十二候」は、それをさらに「初候」「次候」「末候」に3等分した約5日間を表した暦。鳥や花、気象などの様子でそれぞれの季節が表現されており、農業や漁業、日々の生活の「目安」になってきました。
二十四節気の始まりは「立春」なので、七十二候の第一候もそこからはじまります。今回は「春分」から夏になる直前の「芒種」までの第十候~第二十七候についてご紹介します。
なお、二十四節気と七十二候の一覧は記事末尾をご覧ください。
昼の長さと夜の長さがほぼ同じ長さになる「春分日」。この日から約15日間、次の「清明」の前日までが二十四節気の「春分」にあたります。
「春分」の期間は、七十二候では第十候~第十二候にあたります。春らしい気候が安定する季節、花が咲き小動物が活発になる様子が表わされています。一つずつ見ていきましょう。
スズメが繁殖期を迎え、巣作りを始める頃。
田畑や人家のすぐそばに棲息するスズメは古くから日本人にとって身近な存在で、スズメの巣づくりは春を感じさせるものだったのでしょう。「雀の巣」「雀の子」は春の季語にもなっています。
春の陽気に誘われて、桜の花が開き始める頃。1981年~2010年の東京都の桜の開花日は3月25日で、まさに「暦通り」となっています。
季節の変わり目で大気が不安定になりやすく、遠くで雷が鳴り始める頃。雷雨は、田畑にとっては「恵みの雨」。雷の放電現象によって空気中の酸素や窒素が雨に溶け込み、天然の肥料になるからだそうです。そう考えると、雷で暦を表したのも納得がいきますね。
「春分日」をはじめとした春の行事について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
>>四季を楽しむ暮らし ~春の歳時記~
暦の上では「晩春」にあたる時期。すっかり暖かくなった空気の中、鳥たちが伸び伸びと飛び回る季節です。
東南アジアなどで越冬したツバメが、日本に戻ってくる頃。玄鳥はツバメの別名です。春になったらやってくるので、「春告げ鳥」とも呼ばれています。ツバメは害虫を食べてくれる益鳥として、農家から大切にされました。
冬鳥の鴻雁(コウガン)が北へ帰って行く頃。鴻雁とは、渡り鳥の「ガン」のこと。冬を日本で過ごしたガンは、ツバメと入れ替わるようにシベリア方面に帰ります。
10月には再び日本へやってくるので、10月上旬には「鴻雁来(こうがんきたる)」という暦も。渡り鳥が規則正しくやって来てまた去っていく様子は、人々が季節を感じる目安になっていました。
空気が潤い、雨の増える時期。冬の乾燥した空気から春の訪れとともに水分量が増え、日差しも強くなってくるので、雨上がりには虹が出るようになります。
冬本番の間は姿を潜めていた虹が見え始めると、季節の移ろいを実感します。
様々な穀物をすくすくと育ててくれる雨の季節「穀雨」。暦にも植物に関連した言葉が並びます。
だんだんと暖かくなり、水辺の葭 (アシ) も芽を吹きはじめる頃。「アシ」はイネ科の多年草で「ヨシ」とも言います。水辺に広く自生し、葦簀(よしず)や茅葺屋根の屋根材などに使われる、生活には欠かせない植物でした。
霜が降りなくなり、苗が成長を始める頃。農家にとって作物を枯らす霜は大敵であるため、この候を新たな農作物を育て始める目安としていました。
晩春から初夏にかけて、大輪の花を咲かせるボタンが咲く頃。ボタンの花は、春の終わりと夏の訪れを知らせます。
ちなみに、ボタンはその華やかな姿から、「百花の王」と称されています。
旧暦では4月からが「夏」。旧暦4月、新暦では5月5日頃が二十四節気の「立夏」で、春分と秋分のちょうど中間にあたります。
暦の上では夏でも、本格的な暑さはまだ訪れません。青々とした新緑や賑やかな生き物が、目や耳を楽しませてくれる季節です。
繁殖期を迎えたカエルが鳴き始める頃。カエルは様々な国で縁起の良い生き物とされており、日本でも「玄関先でカエルが跳ねると幸運の前兆」だと言われています。
冬眠していたミミズが、地上に出てくる姿を見かけるようになる頃。ミミズは土の中を動いて耕し、土を食べてその糞が肥料となるなど、畑の土作りには欠かせない存在です。
竹笋(タケノコ)が生えてくる頃。現在日本で見られる主なタケノコは、江戸時代に日本に入ってきた「孟宗竹」と、細く竹細工などに使われる「真竹」があります。
「孟宗竹」は3~4月に、「真竹」は5~6月に生えてくるので、この暦のタケノコは「真竹」を指しているようです。成長の早いタケノコは、「すくすく育つ」という意味で子どものお祝い料理などに使われていました。
天気がよくなり、万物が成長をして満ち始める季節。春に種をまいた農作物たちが育ち始め、農家が満足する時期ともいわれています。暦の言葉にも、生命の息吹が感じられます。
カイコが盛んに桑の葉を食べ始める頃。養蚕をしている農家にとっては、カイコに食べさせるための桑の葉の収穫が日課となる季節です。養蚕は農家の生計を助けるもので、第二次世界大戦前までは、約4割の農家が養蚕に携わっていたそうです。
蚕が桑の葉を食べると雨が屋根を打つような大きな音がするので、この音も季節が巡ってきたことを感じさせるものだったのでしょう。
ベニバナが咲きほこる頃。化粧品の原料や染料として知られるベニバナには、源氏物語の登場人物名としても知られる「末摘花」の別名があります。
麦が熟して、収穫する頃。夏なのに「秋」が使われることに違和感があるかもしれませんが、ここでの秋は「実りの時期」の意味。麦の収穫期を「麦秋(ばくしゅう)」と言い、夏の季語にもなっています。
「芒(のぎ)」とは、イネ科の植物の穂先にある針のような毛の部分のこと。「芒種」とは稲や麦など、芒のある穀物の種まきをする時期という意味で、6月6日頃です。
現在では6月にはすでに田植が終わっていますが、昔は稲の苗を水苗代といって水田で育てていたため今よりも生育が遅く、田植えは6月に入ってから行うものでした。
カマキリが孵化する頃。カマキリは肉食性が強く害虫を駆除してくれるため、農業にとっては益虫。有機農法の一つとして「カマキリ農法」を取り入れているところもあるそうです。
ホタルが光り始める頃。かつては腐って蒸れた竹の根や草がホタルになると信じられていたため、ホタルには「朽草(くちくさ)」の別名があります。
ホタルは1週間前後の短い間だけ成虫として飛び回るため、季節を知らせる目安となっていました。
青々と大きく実った梅の実が、黄色く色付き熟し始める頃。黄色く熟した梅の収穫時期です。この時期に収穫された梅は梅干などに加工され、大切な保存食となっていました。
ちなみに、6月の雨を「梅雨」というのは、梅の実が熟する時期に降る雨だから。今も梅干しや梅酒作りといった「梅仕事」を初夏の楽しみにしている人は多いのではないでしょうか。
「梅仕事」について気になる方は、ぜひこちらの記事も読んでみてくださいね。
>>くらしの歳時記「夏」~七夕やお盆など夏の季節行事の由来や起源~
七十二候の第十候~第二十七候には、寒く冷たい冬を乗り越え、春を迎えた生命の息吹が感じられる言葉が並んでいます。暦の言葉をヒントに気象や鳥、草花、虫たちに目を向けてみると、季節の移ろいをより豊かに感じられるかもしれません。
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二十四節気と七十二候の関係は、こちらの表をご覧ください。
二十四節気 | 七十二候 | |||
---|---|---|---|---|
立春 | 東風解凍 | はるかぜ こおりをとく | 第一候 | 2月4日頃 |
黄鶯睍睆 | うぐいす なく | 第二候 | 2月9日頃 | |
魚上氷 | うお こおりをいずる | 第三候 | 2月14日頃 | |
雨水 | 土脉潤起 | つちのしょう うるおいおこる | 第四候 | 2月18日頃 |
霞始靆 | かすみ はじめてたなびく | 第五候 | 2月23日頃 | |
草木萠動 | そうもく めばえいずる | 第六候 | 2月28日頃 | |
啓蟄 | 蟄虫啓戸 | すごもりのむし とをひらく | 第七候 | 3月5日頃 |
桃始笑 | もも はじめてさく | 第八候 | 3月10日頃 | |
菜虫化蝶 | なむし ちょうとなる | 第九候 | 3月15日頃 | |
春分 | 雀始巣 | すずめ はじめてすをくう | 第十候 | 3月20日頃 |
桜始開 | さくら はじめてひらく | 第十一候 | 3月25日頃 | |
雷乃発声 | かみなり すなわちこえをはっす | 第十二候 | 3月30日頃 | |
清明 | 玄鳥至 | つばめ きたる | 第十三候 | 4月5日頃 |
鴻雁北 | こうがん かえる | 第十四候 | 4月10日頃 | |
虹始見 | にじ はじめてあらわる | 第十五候 | 4月15日頃 | |
穀雨 | 葭始生 | あし はじめてしょうず | 第十六候 | 4月20日頃 |
霜止出苗 | しもやんで なえいづる | 第十七候 | 4月25日頃 | |
牡丹華 | ぼたん はなさく | 第十八候 | 4月30日頃 | |
立夏 | 蛙始鳴 | かわず はじめてなく | 第十九候 | 5月5日頃 |
蚯蚓出 | みみず いずる | 第二十候 | 5月10日頃 | |
竹笋生 | たけのこ しょうず | 第二十一候 | 5月15日頃 | |
小満 | 蚕起食桑 | かいこおきて くわをはむ | 第二十二候 | 5月21日頃 |
紅花栄 | べにはな さかう | 第二十三候 | 5月26日頃 | |
麦秋至 | むぎのとき いたる | 第二十四候 | 5月31日頃 | |
芒種 | 螳螂生 | かまきり しょうず | 第二十五候 | 6月5日頃 |
腐草為蛍 | くされたるくさ ほたるとなる | 第二十六候 | 6月10日頃 | |
梅子黄 | うめのみ きばむ | 第二十七候 | 6月15日頃 | |
夏至 | 乃東枯 | なつかれくさ かるる | 第二十八候 | 6月21日頃 |
菖蒲華 | あやめ はなさく | 第二十九候 | 6月26日頃 | |
半夏生 | はんげ しょうず | 第三十候 | 7月1日頃 | |
小暑 | 温風至 | あつかぜ いたる | 第三十一候 | 7月7日頃 |
蓮始開 | はす はじめてひらく | 第三十二候 | 7月12日頃 | |
鷹乃学習 | たか すなわちわざをならう | 第三十三候 | 7月17日頃 | |
大暑 | 桐始結花 | きり はじめてはなをむすぶ | 第三十四候 | 7月23日頃 |
土潤溽暑 | つち うるおうてむしあつし | 第三十五候 | 7月28日頃 | |
大雨時行 | たいう ときどきにふる | 第三十六候 | 8月2日頃 | |
立秋 | 涼風至 | すずかぜ いたる | 第三十七候 | 8月7日頃 |
寒蝉鳴 | ひぐらし なく | 第三十八候 | 8月12日頃 | |
蒙霧升降 | ふかききり まとう | 第三十九候 | 8月17日頃 | |
処暑 | 綿柎開 | わたのはなしべ ひらく | 第四十候 | 8月23日頃 |
天地始粛 | てんち はじめてさむし | 第四十一候 | 8月28日頃 | |
禾乃登 | こくもの すなわちみのる | 第四十二候 | 9月2日頃 | |
白露 | 草露白 | くさのつゆ しろし | 第四十三候 | 9月7日頃 |
鶺鴒鳴 | せきれい なく | 第四十四候 | 9月12日頃 | |
玄鳥去 | つばめ さる | 第四十五候 | 9月17日頃 | |
秋分 | 雷乃収声 | かみなり すなわちこえをおさむ | 第四十六候 | 9月23日頃 |
蟄虫坏戸 | むし かくれてとをふさぐ | 第四十七候 | 9月28日頃 | |
水始涸 | みず はじめてかるる | 第四十八候 | 10月3日頃 | |
寒露 | こうがん きたる | 鴻雁来 | 第四十九候 | 10月8日頃 |
菊花開 | きくのはな ひらく | 第五十候 | 10月13日頃 | |
蟋蟀在戸 | きりぎりす とにあり | 第五十一候 | 10月18日頃 | |
霜降 | 霜始降 | しも はじめてふる | 第五十二候 | 10月23日頃 |
霎時施 | こさめ ときどきふる | 第五十三候 | 10月28日頃 | |
楓蔦黄 | もみじ つた きばむ | 第五十四候 | 11月2日頃 | |
立冬 | 山茶始開 | つばき はじめてひらく | 第五十五候 | 11月7日頃 |
地始凍 | ち はじめてこおる | 第五十六候 | 11月12日頃 | |
金盞香 | きんせんか さく | 第五十七候 | 11月17日頃 | |
小雪 | 虹蔵不見 | にじ かくれてみえず | 第五十八候 | 11月22日頃 |
朔風払葉 | きたかぜ このはをはらう | 第五十九候 | 11月27日頃 | |
橘始黄 | たちばな はじめてきばむ | 第六十候 | 12月2日頃 | |
大雪 | 閉塞成冬 | そらさむく ふゆとなる | 第六十一候 | 12月7日頃 |
熊蟄穴 | くま あなにこもる | 第六十二候 | 12月12日頃 | |
鱖魚群 | さけのうお むらがる | 第六十三候 | 12月17日頃 | |
冬至 | 乃東生 | なつかくれくさ しょうず | 第六十四候 | 12月22日頃 |
麋角解 | さわしかのつの おつる | 第六十五候 | 12月27日頃 | |
雪下出麦 | ゆきくだりて むぎのびる | 第六十六候 | 1月1日頃 | |
小寒 | 芹乃栄 | せり すなわちさかう | 第六十七候 | 1月5日頃 |
水泉動 | しみず あたたかをふくむ | 第六十八候 | 1月10日頃 | |
雉始雊 | きじ はじめてなく | 第六十九候 | 1月15日頃 | |
大寒 | 款冬華 | ふきのはな さく | 第七十候 | 1月20日頃 |
水沢腹堅 | さわのみず こおりつめる | 第七十一候 | 1月25日頃 | |
鶏始乳 | にわとり はじめてとやにつく | 第七十二候 | 1月30日頃 |