人は木を叩いて
音でも質感チェック
- 五感を使って木の印象を比較
本物、偽物が混ざった22種類の木材について、視覚、聴覚、触覚の印象を調べた。 - 視覚と聴覚では判断する内容が変わる
高級感やきれいさなどの判断には見た目が、リラックス感や快適性などの判断には叩いた時の音が役立っていた! - 音にも着目を
見た目や手触りだけでなく音にも着目することで、より木質建材の選択の幅が広がりそう。

1.背景・目的
我々は、視覚、聴覚、触覚をはじめとする様々な感覚を通して質感を感じている。例えば、ある物体がどのようなものか知りたい時には、様々な方向から眺めたり、叩いて音を聞いたり、手に取って触ったり、と様々な方法を使って、その物体についての情報を得ようとする。しかし、一つの物体について我々が感じる質感が、複数の感覚間で必ずしも一致しているとは限らない。例えば、中身と表面の物理特性が異なる加工品においては、このような傾向が顕著に見られる。現代では、高価な素材を模して安価な素材で偽物を作成する技術が発達しており、木ではない素材の上に、木目をプリントしたシートを貼った偽物の木材なども市場に多く出回っている。このような素材は、見た目の質感は木であるにもかかわらず、叩いて音を聞いたり、触ったりすると、木ではなく中身の材質そのものの特性が感じられ、違和感を覚えることがある。このような場合に、我々は全体としてどのような質感を感じるのだろうか?また、我々にとって、見た目も中身も同一の素材でできている本物の木材と、見た目と中身の質感が異なる偽物の木材は、どのように違って感じられるのだろうか?
このような、多感覚を組み合わせた場合の木の質感知覚の問題に取り組むにあたって、まずは、単一感覚による質感知覚の特性を良く知っておく必要がある。本研究は、特に、視覚、聴覚を独立に用いて様々な木の質感を評定させた結果を報告する。
2.実験概要
被験者
視力聴力正常な20歳から40歳の成人50名が実験に参加した(男性26名(平均年齢28歳、SD4.75)、女性24名(平均年齢29歳、SD4.42)、有意差なし)。本実験はヘルシンキ宣言に則り産業技術総合研究所人間工学実験委員会の承認を得て行われた。
実験刺激
樹種の選定、加工
Figure1に、本研究で使用された試験片セットを示す。本実験では、本物、偽物とりまぜて22種類の素材が用いられた。その内訳は、特殊加工を施さない本物の木材で樹種が異なるもの14種類、本物の木材で同一樹種(杉)だが加工が異なるもの4種類、偽物の木材(木ではない素材に木目シートを貼ったもの)4種類であった。サイズはすべて、幅60mm、長さ120mm、厚み9mmに統一した。
1.スギ、2.ヒノキ、3.マツ、4.ファルカタ、5.ポプラ、6.ラワン、7.メイプル、8.クリ、9.ウォルナット、10.チェリー、11.オーク、12.チーク、13.ブビンガ、14.コクタン、15.スギ圧縮材(圧縮率50%)、16.スギ熱処理材、17.スギ不燃処理材(薬剤付加)、18.スギ熱処理かつ不燃処理材、19.スギ柄オレフィン系シート+MDF(ラジアータパイン、ユリア系ライトタイプ9mm)、20.スギ柄オレフィン系シート+合板(広葉樹(メランティ、セラヤ、メルサワ等)9mm)、21.スギ柄オレフィン系シート+スチレンボード(9mm)、22.スギ柄オレフィン系シート+人工大理石(アクリル人工大理石、9mm)。木材は、すべて無垢材、無塗装で統一し、表面に同じ粗さのやすり(240番)でやすりがけをした。試験片の劣化や、材温の変化が質感に与える影響を排除するため、材温の変化が質感に与える影響を排除するため、実験期間中、これらの試験片は、温度が約25℃に保たれた部屋で24時間管理された。
視覚刺激
22種類の試験片セットのそれぞれを撮影した写真を提示した。
聴覚刺激
試験片セット22種をマレットで叩いた時の音を採録したものを提示した。Figure2に視覚実験と聴覚の実験風景を示す。
評価語
先行研究で用いられている評価語を参考に、23の形容詞対を選んだ(Table1)。
3.結果
視聴覚条件の結果(全実験参加者の平均値)を、視覚による評価(視覚条件の結果)、聴覚による評価(聴覚条件の結果)の二つの変数のみによって予測し、各項の重み(係数)を求めた。式を以下に示す。
VA=β0+β1Vonly+β2Aonly
VA:視聴覚条件の結果
Vonly:視覚のみ条件の結果
Aonly:聴覚のみ条件の結果
β0:切片
β1:視覚の重み
β2:聴覚の重み
価値形容詞の一つ一つについて、視覚と聴覚の重みを求めた結果を以下のFigure3に示す。エラーバーは95%信頼区間を表す。価値形容詞のうち、特に本物感、快適感、リラックス感、好き嫌いについては、視覚より聴覚の重み付けが大きくなる傾向が見られた。一方で、高級感、きれいさ、新しさ、洗練度、面白さについては、聴覚より視覚の重み付けが大きくなる傾向が見られた。丈夫さ、めずらしさについては、視覚と聴覚の重み付けがほぼ同程度になっていた。
4.考察
価値形容詞において、聴覚より視覚の重み付けが大きくなった形容詞群は、高級感や洗練度といった、やや分析的な価値に関るものであると考えられる。一方、視覚より聴覚の重み付けが大きくなった形容詞群は、快適感やリラックス感といった、やや直感的な価値に関るものであると考えられる。このことから、高次質感認知においては、視覚はやや分析的な価値、聴覚はやや直感的な価値の判断に貢献していると考えられる。
- 引用文献:
- 「自然な物体における視覚、聴覚、触覚の感覚間協応-木の質感知覚を例として-」日本基礎心理学会第33回大会、首都大学東京(2014/12/6)