【木の効果】
研究成果ライブラリー

住友林業
E21
  • 安らぎ効果
  • 学習・成育効果

子どもも感じている木の効果

ここがPoint!
  • 3種類のボールを満たしたプールで比較
    木のボール、プラスチックボール、ゴルフボールを満たしたプールに、目隠しした子どもに入ってもらった際の心拍変動を比較した。
  • 木のプールではリラックス状態に
    先入観のない子どもたちでも、木のボールに触れたり香りを嗅いだりしたときにはリラックス状態になった!
  • 主観と生理応答で違いも
    子どもたちはヒノキの香りを臭い!と言っていたが、生理応答ではしっかりリラックス効果が見られたことも重要なポイント。
ヒノキのボールプールに入る前後のHF(副交感神経活動)の測定結果

1.背景・目的

現在、木材利用の声が高まってきており、木の空間は落ち着く、やすらぐ、といった主観的な評価を得ている。しかし、木が人に与える影響について客観的な検証が十分ではない。本研究では、木が子どもに与える影響について、素材の異なるボールプールを用いて、心理的および生理的な影響の検証を通して、木の新たな価値を探ることを目指した。

2.実験概要

実験準備

写真1に示すように、ヒノキのボール、プラスチックのボール、ゴルフボールの素材の異なる3種のボールを準備した。3種のボールの直径は約40mmとした。準備したボールにそれぞれのプールを用意し、プールをボールで満たした。図1にプールの概要を示す。プールの形状は8角形であり、1辺680mm、対辺までの距離1642mm、深さ460mmを同室に3つ準備した。写真2に実験室の内観を示す。プールの上には24mm厚の蓋を準備し、3つに分けた蓋のうち、中央の蓋のみ動かせるようにした。

写真1 ボールの概要(木、プラスチック、ゴルフ)
写真1 ボールの概要(木、プラスチック、ゴルフ)
図1 プールの概要
図1 プールの概要
写真2 実験室内観
写真2 実験室内観

被験者

被験者は、小学1~3年の男女19名(男子10名・女子9名 平均年齢7.3±1.0歳)とした。

実験項目

本研究内で実施した実験項目4種を示す。
1.心拍変動性(HF 成分(副交感神経活動)、LF/(LF+HF)(交感神経活動))
2.脳活動(近赤外分光分析法(NIRS)、左前頭部)
3.唾液アミラーゼ活性
4.音声感情分析

実験手順

写真3に実験の流れを示す。最初に、被験者と両親に実験の目的と手順について説明し、同意書にサインをもらった。同意後に、被験者に着替えてもらい、体重、身長を測定した。被験者を車いすに座らせ、1.心拍変動性を測定するセンサーを被験者の胸部に、2.脳活動を測定する NIRSセンサーを被験者の前額部に装着した。本実験の前に、紙のボールで満たしたプールで実験の手順を体験してもらいながら被験者に説明を実施した。被験者を車いすからプールの蓋を全て閉じた状態でプールの蓋の上に移動させた。写真3-aおよびbに示すように、アイマスクを着け、横になった状態で、2分間安静にしてもらい、その間1.心拍 RR 間隔、2.脳活動を測定した。2分経過後に、3.唾液アミラーゼ活性を測定した。その後、写真3-cおよびdに示すように、プールの中央の蓋を開け、被験者の姿勢を維持させた状態でプールの中に被験者を担ぎ入れ、2分間安静にしてもらった。安静中に再度、1.心拍 RR 間隔と2.脳活動を測定し、安静終了後には3.唾液アミラーゼを測定した。最後に、プールの中に被験者が安静にしている状態で6つの質問を保護者から被験者へしてもらい、被験者の回答をマイクで録音することにより、4.音声感情分析を行った。全ての測定が終わった段階で、被験者を再度持ち上げてプールから出した。一つのプールでの測定が終了した段階で、被験者には5分間の休憩をとってもらった。この手順を各プールで繰り返した。被験者がプールに入る順番はランダムであり、それぞれのプールに1度ずつ入ってもらい、プールに入る前後の生理・心理状態を測定した。

写真3 実験の流れ
写真3 実験の流れ

3.結果

統計的に有意傾向のあった1.心拍変動性、4.音声感情分析について報告する。

1.心拍変動性

図2に心拍変動性の解析結果を示す。プールに入る前の安静開始時からプール内における安静終了時のR-R間隔を周波数分析することにより、交感神経経動と副交感神経活動について解析した。解析結果を比較したところ、プラスチックボールのプールとゴルフボールのプールでは、統計的に有意な差は見られなかったが、副交感神経活動の指標(リラックス指標)であるHF成分の値が、木のボールプールでのみプールに入った後に高くなる傾向が見られた。

図2 心拍変動性の解析
図2 心拍変動性の解析

4.音声感情分析

マイクで収録した音声を、音声感情分析ソフト(ST Emotion SDK,PST 社)を用いて、5つの感情(喜び、怒り、悲しみ、平常、興奮)の割合を分析した。音声感情分析とは、発話単位ごとに音声を周波数分析することにより、音声と脳活動の相関から感情を10段階で認識することができる分析手法である。図3に、ボールプールごとの悲しみの割合を比較した結果を示す。これは、ボールプールごとに音声に含まれる感情のうち、悲しみの割合を発話数で平均した結果を示し、木のボールプールとプラスチックボールプールの比較では、統計上有意であった。

図3 ボールプールごとの悲しみの割合比較
図3 ボールプールごとの悲しみの割合比較

4.考察

素材の異なるボールプールでは、子どもの心拍変動性および音声感情分析について、それぞれの変化が見られた。心拍変動性解析は、木のボールプールではリラックスした生理状態を誘発させる傾向があることがわかる。また、音声感情分析では、子どもが感情や好みを口頭で適切に表現することは難しいが、触覚や嗅覚を通して素材から子どもへ良い影響を与えることが可能である結果が示された。本研究では実験全体を通して、視覚を遮断しているため、これらの結果は触覚および嗅覚による反応であると考えられる。
今回の結果により、子どもが木のボールプールに入ることにより、素材の触覚や嗅覚を通した良い影響が与えられ、リラックスした状態が誘発される可能性が示された。
今後は、子どもだけでなく大人や高齢者など、それぞれの年齢層に対して訴求可能な有効な木の効果を検証する研究を継続していく。

引用文献:
「木のボールプールが子どもに与える生理・心理的影響」日本建築学会大会 環境工学I (2015) 73-74, 2015-09-04