Project|商業複合施設「VISON」|新卒・中途採用情報|住友林業

Project story #03

VISON


INTRODUCTION
2021年7月、三重県多気町に日本最大級の商業複合施設「VISON(ヴィソン)」がグランドオープンした。住友林業グループは「VISON」の中核となる宿泊施設「HOTEL VISON」の開発・運営に参画し、一部施設の基本設計をはじめ資材納入や植栽工事などを担当。住友林業グループの長い歴史の中で、初めてホテル運営事業へ取り組むことになった。新規事業への挑戦であることは確かだが、地域活性化・地方創生への貢献という、これまで住友林業グループが掲げてきた理念の実践でもある。「VISON」プロジェクトの全貌を紹介する。

常務執行役員
生活サービス本部長
髙桐 邦彦 Kunihiko Takagiri
1981年入社 法学部卒

入社後、複数の部署を経て、北海道支店配属。約5年半、木材・製材の営業に従事した。その後、大阪勤務を経て営業開発部にて新規事業に取り組む。その中で、全国の地域に密着した、工務店が家を建て住友林業がノウハウと部材を提供する新しいビジネスモデル(イノス)を立ち上げた。イノス事業部長を経て、2010年、リフォームを担う住友林業ホームテック㈱社長に就任。2015年、賃貸管理業務を行う住友林業レジデンシャル㈱社長に就任。2020年より現職。

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使

三重県多気町――三重県のほぼ中央に位置するこの町は、古来より伊勢本街道、和歌山別街道、熊野街道が通過する交通の要地として発展、県内の海産物や農産物の集積地でもあった。しかし20世紀後半から、他の多くの地方自治体同様に人口減少、高齢化が進んでいる。この状況が継続すると、地域集落の維持や地域資源の保全ができず、限界集落を作り上げてしまう恐れもある。多気町は、こうした課題を解決し地域の活性化を促すため、多角的な検討を進めた結果着手したのが、商業複合施設「VISON」プロジェクトである。三重県や多気町といった行政と住友林業グループを含む複数の民間企業、三重大学などの教育機関が協力して推進する「産官学」一体の地域活性化事業だ。
住友林業グループが「VISON」への参加を打診されたのは、2017年。それは、「VISON」の中核施設となるホテルの開発・運営事業への参加要請だった。住友林業グループとして初めての試みであり、ホテル開発・運営に関するノウハウ・知見の集積はなかったが、地域活性化に資するプロジェクトであったため参加を決めた。住友林業グループは、これまで地域経済の発展・雇用の創出を通じて、地方創生に貢献する活動を進めてきた。また、地域社会と協働で、植林によるカーボン・オフセットを実施するなど、地域活性化支援を社会的使命ととらえ積極的に取り組んできた。今回も、そうした取り組みの延長線上にあると判断。同年8月には、具体的な建物の基本計画が開始されたのである。翌2018年、ホテル開発・運営事業への正式参画を決定、生活サービス本部が担当することとなった。生活サービス本部は、社会課題の解決や多様なライフスタイル・価値観に寄り添う事業を通し、高い公益的価値を生み出すことをミッションとしており、具体的には全国20ヶ所の介護施設運営や保険事業を営むグループ会社を統括している。生活サービス本部長の髙桐邦彦は、今回の住友林業グループの「VISON」への参加について、「住友林業グループらしさ」を指摘する。

「住友林業は330年の長い歴史を有しています。建築木材などを調達する銅山備林経営から始まり、植林・山林事業、近代に入ってからは木材・建材を中心とした商社事業に着手し、その後現在の中核事業である、木造注文住宅事業に進出しました。さらに近年は、米国・豪州市場で分譲住宅事業や集合住宅・商業施設を扱う総合不動産開発事業を展開、また建築廃材、林地残材などを燃料とした木質バイオマス発電事業も手がけています。いわゆる多角化してきたわけですが、それらはその時代時々の本業から派生した分野に進出しています。それによって会社が変わることで、成長し発展を遂げてきました。今回のホテル開発・運営事業もその変化の流れの中にあると思っています。ホテルは人が滞在する場所ですから住宅との親和性は高く、既存の事業リソースを活かせる分野。地域活性化に貢献するという大きな目的に加え、ビジネス的側面を見れば、これまでの当社の歩みの新しいカタチと言えると思います。」(髙桐)

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宿

商業複合施設「VISON」の全体像を示しておきたい。ちなみに「VISON」という名前の由来は「美しい(VI)村(SON)」=美村だ。「VISON」は東京ドーム24個分にあたる約119haの広大な敷地の中にある。宿泊施設のほか、温浴施設、産直市場、レストラン、ショップ、オーガニック農場など70以上の店舗や施設が軒を連ねており、豊かな山海の幸に恵まれた三重の「癒・食・知」を体験できる。これらの中で、三重県産の山海の美食が一堂に集結した国内最大規模の産直市場「マルシェ ヴィソン」。建物の基本設計は住友林業が担当した。緩やかなカーブを描くダイナミックな屋根と連続する大断面木構造が特徴であり、一度見たら忘れられないインパクトがある。
そしてこの「VISON」の中核となるのが、住友林業グループが参画した「ホテルエリア」だ。「野に遊び、野に学べ」をコンセプトにした宿泊施設で、山の斜面に建つホテル棟は5タイプ155室、1棟独立型のヴィラが6棟、1棟ごとに異なるデザイナーが演出した4棟40室からなる旅籠ヴィソンで構成されている。いずれも木の温もりを感じる内装、自然と調和した心地良い空間が演出されている。この中で、住友林業グループはヴィラ棟の基本設計を担当した。「離れ」をイメージしたヴィラは各棟に多気の自然を一望する露天風呂と外居間が設けられており、和モダンでハイエンド、ラグジュアリーな滞在を楽しめる。ポイントは三重県産木材をはじめ約7割は国産木材を使用していることだ。三重県は地元の森林を守り育てるために、県産材の利用拡大に取り組んでおり、宿泊施設での県産材の使用に対して、「三重県木づかい宣言」登録書が授与された。またホテル棟は、客室に室内と同じ広さのテラスを設けているが、テラス及びホテル廻りの植栽も住友林業グループが担った。テラス植栽では隣接した部屋で同じ植栽が並ばないようにレイアウトしたことで躍動感溢れる外観を演出している。さらに、客室カードキーの木質化、各宿泊施設への木質造作家具及び木質内装建材、インテリア全般の提案・納入なども担当しており、住友林業グループの調達ネットワークや建築ノウハウが活かされている。「木」にこだわる住友林業らしさが反映された施設となった。

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HOTEL VISON



「VISONは本来2020年にオープンする予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、大幅な予定変更を余儀なくされました。そのような中でも、社内外以外の関係者と協力しながら、プロジェクトを円滑に進めることが自分の役割と自覚していました。VISONは産官学の様々な関係者が関与するプロジェクトですから、心がけたのは関係者とベクトルを合わせて調整すること。意見や考え方の相違も多々ありましたが、乗り越えるに当たっては信念や熱意を持って、粘り強く交渉を進め、関係者の合意形成を進めていきました。だから、オープンを迎えたときは安堵感とともに、大きな喜びがありましたね。」(髙桐)

2021年、「VISON」は「マルシェ ヴィソン」を皮切りに、3期に分けて順次オープンした。最後のオープンは「HOTEL VISON(3施設全体の呼称)」で同年7月。一つの節目ではあるものの、ホテル運営としてはここからがスタートであり、新たな挑戦の始まりである。「HOTEL VISON」の運営は、住友林業(株)、シティホテル・リゾートホテルを経営するH.I.S.ホテルホールディングス(株)、地元三重県で複合温泉リゾート施設を運営する(株)アクアイグニスの3社が出資するヴィソンホテルマネジメント(株)が担う。お越しいただくお客様に関しては、当初の見込みよりも近県からの来場者が多く、テレビをはじめとしたメディアで数多く取り上げられていることから、その認知度は高い。「VISON」の来場者が増えれば、宿泊客も確実に増加することが予想される。そのうえで大切なことは「ホスピタリティマインド」の醸成だ。

「私たちはご来館いただいたお客様にサービスを提供するわけですが、サービスとは時として提供者目線の一方通行になりかねません。またマニュアルに沿った画一的なものとなる恐れもあります。私たちはお客様の期待に応え、さらに期待を超えるサービスを提供していきたい。それがホスピタリティだと考えています。つまり、一人ひとりのお客様に合わせた心からのおもてなしです。その実践が多くのお客様に愛され、また来たいと思っていただけることにつながっていくと思っています。スタッフ全員がそのマインドを持つことが、HOTEL VISONを運営していく核心部分と考えています。」(髙桐)

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住友林業グループが、なぜ宿泊事業を始めたのか。それは先述のように、その取り組みが地域活性化の貢献に資するものであるからだ。一方で、時代や環境の変化に応じて、これまでも多角化を進めてきたように、新たなビジネスモデルへの挑戦という意味合いもある。

「今後は、お客様と長く接点を持って継続的かつ安定的に収益を確保できるストックビジネスの確立が必要であると考えています。ホテル運営事業はその試みの一つ。始まったばかりであり、試行錯誤の日々ですが、お客様に宿泊体験を通じてハード及びソフトで、当ホテルのホスピタリティに触れていただき、既存事業へ誘引できればと考えています。」(髙桐)

さらに、今回のプロジェクトは、住友林業事業が約10年前から推進してきた中・大規模建築物の木造化・木質化とも関わりがある。2010年の『公共建築物における木材の利用の促進に関する法律』制定により、非住宅建築物の木造化・木質化が国策化されたことを受けて積極的に進められている事業だ。具体的には、小学校や保育園などの教育施設、老人ホームなどの高齢者施設や病院、オフィスや商業施設など中大規模施設の木造化・木質化を進めている。「VISON」のヴィラ棟、「マルシェ ヴィソン」の取り組みもその流れに位置付けることができる。こうした非住宅市場の開拓は戸建住宅市場の低迷が背景にあるが、それだけではない。建築物の木化は、温室効果ガスの削減に寄与するため、脱炭素に向けて効果的なインパクトを与えられる。森林資源の積極的活用とその循環(植林等)は、サステナブルな社会の実現に寄与するものなのだ。その意味で、今回の「VISON」プロジェクトは、地域活性化から地球環境保全までを視野に入れた、「木」にこだわる住友林業グループならではの取り組みと言える。最後に、今後の目標を髙桐に聞いた。

「VISONプロジェクトは、三重県が誇る伝統食文化の発信拠点になること、そして自然体験を通じ癒しと健康を提供し、地域活性化に寄与することが求められています。それらを通じてプロジェクトが訴求しているのは、環境共生の価値とその重要性です。今後、それらを広めていくことで、環境と両立した公益的価値、経済的価値の最大化につなげていきたいと思っています。」(髙桐)