会長メッセージ

市川 晃

 新型コロナウイルスによる社会経済活動の混乱が、ようやく正常化に向かいつつあります。しかし、地政学リスクの長期化に伴い、エネルギーや原材料価格の高騰が続いており、多くの資源を輸入に頼る日本においても、日常生活に大きな影響が出ています。また、米国金融機関の破綻を端緒とした米欧の金融不安が、世界の経済成長を鈍化させる懸念も強まっています。

 こうした不確実な時代において、当社グループは昨年、2030年のあるべき姿を見据えた長期ビジョン「Mission TREEING 2030」を策定し、新たな価値創造に向けた歩みをスタートさせました。それから1年、既存事業の継続的な成長とともに、「森と木の価値を最大限に活かした脱炭素化とサーキュラーバイオエコノミーの確立」「グローバル展開の進化」といった取り組みを着実に進めています。質の高い炭素クレジットを生み出す森林ファンドの組成、国産材の利活用を促進する木材コンビナートの整備、建設業界全体の脱炭素化をサポートする脱炭素設計のスタンダード化を軸とする住友林業の「WOOD CYCLE」には、多くのステークホルダーから高い関心が寄せられ、当社が果たすべき社会的責任の大きさを改めて強く感じています。

 当社グループの創業は、1691年の別子銅山開坑に伴い、燃料や坑木とする木材を調達するために森林経営を始めたことに遡ります。以来330年余にわたり、目先の利益を追わず、信用を重んじ、社会に利することを経営の根幹に据えて、事業に取り組んでまいりました。19世紀後半には、荒れ果てていた別子銅山を蘇らせるため、「大造林計画」を策定して大規模な植林を実施し、約100年かけて豊かな緑を再生させました。「自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならない」という「住友の事業精神」は、今なお、経営理念や行動指針に脈々と受け継がれています。

 先行き不透明な状況だからこそ、先人たちが重んじてきた公益との調和の精神を愚直に守り続けることが殊に大切だと考えています。当社グループは、再生可能な資源である木を活かして、幅広い事業活動を展開しています。これからも、時代の変化に柔軟に対応しながら、さまざまな社会課題の解決と、ステークホルダーの皆様とともに新たな価値創出に取り組み、持続可能で豊かな社会の実現に貢献してまいります。

代表取締役 会長

代表取締役 会長

市川 晃