ニュースリリース(2012年)

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2012年4月25日

~ 総本山仁和寺(にんなじ) 御室桜(おむろざくら)研究プロジェクト ~
“泣き桜”の組織培養による苗木増殖に成功
四十九世門跡在任時に新品種発見の可能性から“揚道桜(ようどうざくら)”と命名

総本山仁和寺(住職:南 揚道 京都市右京区 以下、仁和寺)の境内中門をくぐると左手に広がる“名勝御室桜“は、株立ちで人の背丈ほどまでにしか成長しないため、目の高さで花が咲くという特徴があります。美しい京都の春の最後を彩る遅咲きの桜として、その名が知られており、UNESCO(国際連合教育科学文化機関 本部:パリ)の世界文化遺産に「古都京都の文化財」としても登録されています。

その中でも最後に花を咲かせるのが、通称“泣き桜”という桜です。この桜は、仁和寺以外では育てられていないと推測され、しかも仁和寺境内にも1本しかないという大変珍しい桜であることから、その保護と生態解明のため、苗の増殖に取り組むこととなりました。

住友林業株式会社(社長:市川 晃 本社:東京都千代田区 以下、住友林業)は、筑波研究所(所長:梅咲 直照 所在地:茨城県つくば市)において、“御室桜(御室有明)”に続き、この“泣き桜”の増殖に関する研究開発を進め、この度、バイオテクノロジーの一手法である組織培養法によって、この貴重な桜を後世に引き継ぐ苗木の増殖に成功しましたので、お知らせいたします。

正保3年(1646年)に行なわれた伽藍再建の際に植えられたと伝えられている“御室桜”の個体は、既に樹齢360年を超えるとも推定され、近年樹勢の衰えが顕著となっています。仁和寺は、その成長の謎の解明と美しい景観を維持管理することを目的に、京都府文化財保護課および各行政機関と協議の上、住友林業グループ、千葉大学園芸学部(藤井 英二郎教授)と共同で、2007年4月に「御室桜研究プロジェクト」を発足させ、以来、成長調査、土壌・根系調査、苗木増殖、DNA鑑定等の調査研究を実施しています。2010年1月には組織培養により、“御室桜”の中で中心的な品種である“御室有明”の増殖に成功し、増殖した苗木が植栽可能な大きさに生長したため、本年2月に“御室有明”の第一号苗を仁和寺名勝内に植栽しています。今回増殖に成功した“泣き桜”は新品種である可能性が高いことから、仁和寺では“揚道桜(ようどうざくら)”と命名していく方針です。

■“御室桜”と“泣き桜””―新品種の可能性―

“御室桜”という桜は、仁和寺境内の名勝指定内にある桜の総称であり、複数の品種で構成されていますが、その9割以上は“御室有明”という品種です。この“御室有明”の中にも、一重咲きから八重咲きまで様々な個体が存在します。遅咲きの“御室桜”の中でも最も遅く花を咲かせることで知られ、通称“泣き桜”と言われている桜があり、これまでその生態については詳細な調査研究がされておらず、未解明な点が多い桜とされています。この“泣き桜”を、独立行政法人森林総合研究所等により開発された約200品種分の桜のDNAデータベース*に照合したところ、仁和寺名勝指定内の各桜およびデータベースに収録された品種とは明らかに違いがあり、新品種である可能性が高いことが判明いたしました。これまで、この桜は通称名で呼ばれてきましたが、創建以来第四十九世門跡となる現門跡の南 揚道在任の際の発見であることから、正式な品種名を“揚道桜(ようどうざくら)”として検討していく予定です。

“御室桜”と“泣き桜”の外観上の大きな違いは、“御室桜”の枝や幹は上に向かって伸びるのに対して、“泣き桜”は横に広がるように伸びる点と、花の時期が“御室桜”は4月上~中旬であるのに対して、“泣き桜”は4月中~下旬である点です。DNAのデータベース照合の結果に加え、花や葉などの形態観察等今後の調査を重ね、両者の相違点の詳細を明らかにしていく方針です。

*独立行政法人森林総合研究所は大学共同利用機関法人国立遺伝学研究所、財団法人遺伝学普及協会、住友林業と共同で、2011年3月にDNAマーカーを用いた桜の栽培品種を識別する手法を確立してデータベースを作成しています。

■組織培養による増殖を行なった理由

“御室桜”の苗木づくりは、これまで萌芽枝(ほうがし)の中から発根した枝を選別し、株分けする方法を採ってきましたが、“泣き桜”は萌芽枝をほとんど出さないため、株分けができず、苗の増殖が行われてこなかったと考えられます。

通常、桜の苗木は接ぎ木により増殖されますが、“泣き桜”は樹勢が衰えているため、枝があまり伸長せず、そのため接ぎ木に適した状態の良い枝はほとんど採取することができません。さらに、屋外で育てる接ぎ木苗は、病虫害が発生した場合、被害が蔓延し枯死する危険性もあります。しかし、組織培養法による増殖では、培養条件を開発することができれば、1つの芽からでも多くの苗の増殖が可能であり、また無菌の試験管内で増殖を行うため、病虫害による被害の心配もありません。さらには、培養液を交換していくことで、半永久的に保存することが可能であり、貴重な名木を未来永劫受け継いでいくには最適の方法と考えられます。

筑波研究所では、“泣き桜”という希少な桜を後世に引き継ぐために、組織培養法の一手法である茎頂培養法を採用し、苗木の増殖技術を開発することとしました。茎頂培養法は、芽の分裂組織である“茎頂”を顕微鏡下で摘出し培養する方法ですが、茎頂は自然条件下でもほぼ無菌状態と言われているため、雑菌汚染の心配も少なく、また仮に増殖対象の植物が病虫害に冒されてしまった場合でも、病虫害が苗に継承されない画期的な方法です。加えて、この方法で苗木を増殖すると、突然変異が起こる可能性が非常に低いことから、“泣き桜”の特徴をそのまま受け継げる可能性が高くなります。

■今回の組織培養法による増殖概要

① 冬芽を採取し、その中から芽の分裂組織(茎頂(けいちょう)部)だけを顕微鏡下で摘出する。

② 茎頂部を試験管に移し、“泣き桜”用に開発した培養液を中に入れ、垂直に回転培養することにより、大量の芽(多芽体(たがたい))を生産する。

③ 多芽体を水平に旋回培養することにより、多芽体から芽を伸長させる。

④ 伸長した大量の芽(シュート)を1本ずつ切り分け、発根を促す培養液を添加した人工培養土に植えつけると、2週間程度で発根し、完全な植物体(幼苗)が再生される。ここまでは、無菌条件下で行なわれる。

⑤ 低温処理を2週間程度施した後、外の条件に慣らすため温室内で育苗する(順化処理)。

“泣き桜”の組織培養による増殖は、これまで報告事例がなく、一から条件を解明する必要がありましたが、“御室桜”の増殖条件が参考になったため、今回は開発に着手してから約2年で成功することができました。

■今後の取組み

住友林業100%出資の総合緑化専門企業である住友林業緑化株式会社(社長:徳永完平 本社:東京都中野区)が、平成15年に総本山仁和寺の庭園の維持管理を受注し、樹木の整備に着手したことを契機として、筑波研究所では、樹勢の衰えの顕著であった“名勝 御室桜”の貴重な名木を後世に引き継ぐ研究に取り組んでいます。

増殖した苗は、仁和寺境内への植栽も予定しており、京都の春をさらに彩ることに役立てていくとともに、“泣き桜”の生態解明を進めていきます。住友林業では、今後も関係各位と協力を行い、これらプロジェクトの成果をもって、“名勝 御室桜”を後世に渡って楽しんでいただけるよう、庭園の維持管理に努めて参ります。

以上

【本リリースに関するお問合せ先】

住友林業株式会社
コーポレート・コミュニケーション室
TEL:03-3214-2270

住友林業株式会社 筑波研究所
TEL:029-847-0151

【御室桜の拝観に関するお問合せ先】

総本山 仁和寺
http://www.ninnaji.or.jp/
TEL:075-461-1155

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