ニュースリリース(2015年)

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2015年06月18日

九州大学
住友林業株式会社
国立研究開発法人森林総合研究所

樹木種子の発芽率を飛躍的に向上させる選別技術を開発
-コスト削減で林業の成長産業化に貢献-

概要

  九州大学大学院理学研究院の松田修助教と、住友林業株式会社、国立研究開発法人森林総合研究所らは共同で、赤外波長域(可視光に近接する長波長側の光域)における反射率に基づいて、発芽が期待される樹木の充実種子を効率的に選別する技術を開発しました。本技術は、主要な造林樹種において発芽する種を高い確率で選別でき、苗木生産のコスト低減につながるため、新たな森づくりの推進力となります。農山村地域においては、林業の成長産業化に大きく貢献することが期待されます。
  本研究成果は、2015年6月17日(水)午後2時(東部夏時間)に、米国オンライン科学誌『PLOS ONE』に掲載されます。


図1 スギ・ヒノキの充実および
不稔種子における外観と内部構造

■背景

  日本は国土面積の3分の2を森林に覆われた、世界でも有数の森林資源保有国です。とりわけ、産業利用を目的として造成された人工林は、全森林面積の4割にも達しています。国産材の供給量を増やし、林業の成長産業化を進めるためには、人工林の資源を積極的に活用し、伐採跡地を更新(再造林)することが欠かせません。こうした対策を円滑に進めるためには、苗木の生産コストを低減する必要があります。
  主要な造林樹種であるスギやヒノキでは、発芽に必要な構造や成分を欠く不稔種子(発芽しない種)が形成される頻度が高く、また、その頻度は採種地や採種年により大きく変動します。従来、種子の選別は、外観(肉眼選)や大きさ(篩選)、重さ(風選)、密度(水選)などの特性を手がかりに行われてきました。しかし、上記の樹種では、充実種子と不稔種子との間でこれらの特性が似通っており、両者を効率的に選別することは不可能でした。

 

■内容

  充実種子と不稔種子は、内部の構造を観察することにより、容易に見分けることができます(図1)。しかし、種子を一度解剖すると、発芽の能力は失われてしまいます。研究グループは、構造や成分の違いを非破壊的に検出するための手段として、異なる化合物が異なる波長の赤外光(※1)を吸収する性質をもつことに着目しました。
  解析の結果、充実種子は不稔種子よりも、1,730 nm(ナノメートル)付近の赤外光を反射しにくい(吸収しやすい)性質をもつことが明らかとなりました。すなわち、この波長の光を照射した際に、赤外線カメラに「暗く」映る種子ほど、充実種子である可能性が高いことになります(図2)。この基準を用いることにより、95%を上回る高い正確性で充実種子を選び取ることに成功しました(図3)。


図2 可視〜赤外波長域におけるスギ・ヒノキの
充実および不稔種子の反射スペクトル


図3 赤外反射スペクトルに基づくスギ・ヒノキ充実種子の選別パフォーマンスの評価
(論文記載のデータから更なる改良を加えた方法による結果)

■効果

  本研究成果により、種子の利用効率と育苗にかかる労働生産性を飛躍的に高めることが可能となりました。また、一粒播種機(※2)などの農林業機械を併用すれば、種まきから苗木の出荷に至るまでの全工程を自動化できる可能性もあります。

■今後の展開

  充実種子の自動選別機(選別ライン)を開発し、本技術の実用展開を進めることにより、高発芽率が見込まれる種子を全国的に供給できる体制が整うことが期待されます。また、選別した充実種子(休眠状態のものを含む)を早期かつ同期的に発芽させるため、発芽誘導処理技術の開発を進めています。

■研究について

  本研究は、農研機構生研センターによる「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業(うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)」、倉田記念日立科学技術財団、柿原科学技術研究財団の支援により行われました。

■論文・特許

論文名:Determination of seed soundness in conifers Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa using narrow-multiband spectral imaging in the short-wavelength infrared range. PLOS ONE (2015)
http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0128358

著者:Osamu Matsuda1, Masashi Hara2, Hiroyuki Tobita3, Kenichi Yazaki3, Toshinori Nakagawa4, Kuniyoshi Shimizu4, Akira Uemura5, Hajime Utsugi3

・近赤外光を用いた樹木の種子選別方法 特願242184(2014):原 真司2、松田 修1、上村 章5、宇都木 玄3、飛田 博順3

・著者/出願者の所属機関:1九州大学大学院理学研究院、2住友林業株式会社 筑波研究所、3森林総合研究所、4九州大学大学院農学研究院、5森林総合研究所 北海道支所

■用語解説

(※1)赤外光:

光は電磁波の一様態ですが、その性質は波長によって大きく変化します。私たちの目に見える可視光は、波長が380〜780 nmの範囲にあり、それに近接する光は、短波長側が紫外光、長波長側が赤外光と呼ばれます。赤外光の波長域では、生体を構成する有機物が、化学構造に依存した固有の反射(吸収)スペクトルを示します。このため、目視では識別が困難な物質間(たとえば塩と砂糖、水と油など)の相違も、赤外光を用いて容易に見分けることができます。また、透過性が高いため、種皮等の薄い層を隔てた内側の性質を調べるのにも適しています。

(※2)一粒播種機:

それぞれの苗床に種子を一粒ずつ播く(一粒播種する)ことのできる精密性を備えた自動播種装置。一粒播種により、間引きや移植といった手間のかかる工程を省き、育苗コストを抑えることができます。ただし、このような育苗方式には、高い発芽能をもつ種子の利用が不可欠となります。

以上

《お問い合わせ》
(研究に関すること)
九州大学
大学院理学研究院 助教 松田 修(まつだ おさむ)
TEL:092-642-2743

(報道担当) 住友林業株式会社
コーポレート・コミュニケーション室 森永・佐藤
TEL:03-3214-2270

森林総合研究所
広報普及科 宮本 基杖(みやもと もとえ)
TEL:029-829-8372

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