ニュースリリース
(2016年)

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2016年04月08日

~花の色が白色から桃色に変化する、新品種の可能性~
御神木“北野桜”の組織培養による苗木増殖に成功
昨年の紅和魂梅に続き、貴重木の保護に取り組む

  北野天満宮(宮司:橘 重十九 本宮:京都市上京区)と住友林業株式会社(社長:市川 晃 本社:東京都千代田区 以下、住友林業)は、京都・北野天満宮社務所前にあり、開花の進行とともに花の色が変化する珍しい品種である御神木"北野桜"の保護と増殖を目的として、北野桜の増殖に関する研究開発を進めてまいりました。このたび、バイオテクノロジーのひとつである組織培養法によって、この貴重な桜を後世に引き継ぐ苗木の増殖に成功しましたので、お知らせいたします。
  開花後は白色から桃色へと、開花の進行に合わせて変化する"北野桜"は、樹齢70年以上と推定され、当社の桜DNAデータベースと遺伝子情報を照合したところ、合致する品種がなかったことから、新品種の可能性が高いと考えられます。

※住友林業は、2011年3月に国立研究開発法人森林総合研究所、国立遺伝学研究所、財団法人遺伝学普及会と共同で、DNAマーカーによる識別技術を活用してサクラの栽培品種を確実に識別する手法を確立。250以上あるといわれているサクラの栽培品種の中で、DNAを入手できた約200品種についてのDNAデータベースを作成しました。これにより、確実にサクラの栽培品種を識別することが可能となり、同時に、長い歴史を持つ栽培品種間の関係を明確にすることが可能となりました。

■謡曲「右近」にも謡われる北野右近馬場はかつて桜の名所であった

  天暦元年(947年)、菅原道真公をお祀りする全国およそ1万2千社の天満宮・天神社の宗祀(そうし)(総本社)として創建された北野天満宮は、菅原道真公ゆかりの地であり、古くより学問の神として広く信仰を集めています。  本宮において、嵯峨天皇大同二年に開かれた右近の馬場は、右近衛大将であった御祭神菅原道真公の好まれた場所であり、桜狩が行われた名所として伝えられています。この右近の馬場を舞台とした謡曲「右近」は、女神を主役として御代を寿ぐ春を代表する曲となっています。

■かつて史跡御土居(おどい)に桜が植えられていた


謡曲「右近」の舞台を今に伝える

  本宮には、豊臣秀吉公が築城した歴史的遺構「史跡御土居」の一部が現在も残されています。御土居には、かつて桜が植えられていたことが本宮の古文書等から明らかになっており、境内の桜が満開であると伝える記述なども確認されています。しかしこの桜は、昭和初期の室戸台風で甚大な被害を受け、残念ながら現在では数本が残るのみとなっており、"北野桜"はその名残と考えられています。

■組織培養による増殖を行なった背景とこれまでの経緯

  北野天満宮では、近年世界中で猛威を振るうPPV(プラムポックスウイルス,ウメ輪紋ウイルス病)の梅への感染など不測の事態が発生する前に、"御神木 紅和魂梅"など貴重なウメを後世に引き継ぐべく、様々な樹木の組織培養・苗生産技術の成功実績を持つ住友林業に梅の組織培養による増殖の技術協力を依頼すると同時に、大変珍しい桜である北野桜についても、酸性雨や温暖化など急激な環境変化により、樹勢が衰え始めていたことからその保護と増殖のため、組織培養による増殖を依頼しました。組織培養法の中でも、"茎頂(けいちょう)"という芽の先端組織を材料に用いた「茎頂培養法」という手法で増殖した苗は、対象となる樹木の樹齢と比較して"幼若化(若返り現象)"すると言われています。貴重な樹木の保護・保存および後世への承継の観点より、本組織培養法を選択し、2014年に同桜の増殖に関するプロジェクトをスタートさせました。研究開発に携わった住友林業筑波研究所では、これまでに成功した桜や梅などの培養実績や文献を参考に実験を繰り返し、2年の歳月を経てこのたびの成功に至りました。

■今後の取り組み

~組織培養からDNA品種鑑定、そして"北野の名所"を後世に~


幹や枝が傷ついた社務所前の
"北野桜"


  このたび、組織培養で増殖した苗は、"北野桜"の保護に加え、京都の文化の継承にも寄与するものです。北野天満宮と住友林業では、今後も本宮の景観を維持・継承し、皆さまに京都を楽しんでいただけるよう、引き続き努力してまいります。

【ご参考資料】

■御神木" 北野桜 "について

・出所不明。推定樹齢は120年。樹高約8m、直径約2m。
・幹は、根元付近から大人の胸の高さ程度まで芯が腐り、空洞となっている。
・中には根が形成されているものの、外部にむき出しの為、樹勢の衰えが危惧されている。

■北野天満宮でのこれまでの取り組み

2009年 "御神木の梅"の組織培養による増殖に着手
2014年 "御神木の桜"の組織培養による増殖に着手
2015年 "御神木の梅"の組織培養による増殖に成功、"紅和魂梅(べにわこんばい)"と命名
2016年 "御神木の桜"の組織培養による増殖に成功、"北野桜(きたのざくら)"と命名
引き続き、北野天満宮内の貴重な梅の組織培養による増殖を継続中

■組織培養法による増殖技術概要

【組織培養の流れ】

冬芽を採取し、その中から芽の分裂組織(茎頂(けいちょう)部)だけを顕微鏡下で摘出する。
茎頂部を試験管に移し、北野桜用に開発した培養液を中に入れ培養することにより、大量の芽(多芽体(たがたい))を生産する。
多芽体を固体培地で培養することにより、多芽体から芽を伸長させる。
伸長した大量の芽(シュート)を1本ずつ切り分け、発根を促す培養液を添加した人工培養土に植えつけると、4週間程度で発根し、完全な植物体(幼苗)が再生される。ここまでは、無菌条件下で行なわれる。
外の条件に慣らすため温室内で育苗する(順化処理)。

写真1 多芽体(培養3ヶ月目)

写真2 多芽体(培養6ヶ月目)

写真3 人工土壌で発根した幼苗
(培養8ヶ月目)

写真4 一般の土壌で育成中の苗木

以上

《リリースに関するお問い合わせ先》
北野天満宮社務所
TEL:075-461-0005

住友林業株式会社
コーポレート・コミュニケーション室 大西・平川
TEL:03-3214-2270

《名木の増殖・利活用に関するお問い合わせ先》
住友林業株式会社
森林・緑化研究センター 中村
TEL:03-3214-3635