E30
木の診察室は患者さんにも好評!
- 実際の大学病院で検証
大学病院の診療室を木質化し、20名のうつ病患者への臨床試験を実施。 - 木の診察室で快適な治療を
木質化した「木の診療室」では木の香りがうつ病の治療導入・継続のための後押しとして有効であることが示唆された。 - 今後の展開に期待
精神科などは比較的診察室に木質建材を導入しやすい環境であり、診察の快適性と治療の成果にも親和性が高いため、今後ますます木の診察室の採用が期待される。

1.背景・目的
森林を散策する「森林セラピー」はうつ病や不安障害への代替療法として知られており、森林の散策に抗うつ作用や抗不安作用があるとされている。森林の散策という行動そのものに運動療法様の効果がある可能性や森林の香りが効果がある可能性があるが、明確ではない。そこで本研究では、うつ病性障害を対象に木材を使用した治療環境がうつ病の治療に補助的な効果があるかどうかを探索した。
2.実験概要
- 対象は東京慈恵会医科大学附属病院精神神経科に通院中のうつ病性障害患者20名。
- 同科内の同じ広さの2つの心理療法室のうち、1つの部屋を木質化→床と机は無垢スギ材。壁はスギ突板張り不燃壁材とした。【図1】
- 木の心理療法室と通常の心理療法室でうつ病に対する認知行動療法を約16週間かけて実施。【図2】
- ハミルトンうつ病評価尺度※1や近赤外スペクトロスコピー※2(NIRS)等による観察・検査を行い、治療環境の違いが精神・心理療法の効果にどのような影響を与えるかを検証。
- 「室内の好ましさ」を測定するために①快適さ②香り③温度④空間⑤明るさの観点でそれぞれ7段階のスケールで測定。


- ※1 ハミルトンうつ病評価尺度:1960年にHamiltonによって発表されたうつ病の重症度を評価するための尺度。うつ病の症状に特徴的な項目について、医師などの専門家が項目ごとに評価をしていく心理検査。「抑うつ気分」、「罪悪感」、「入眠困難」など17項目を評価する。
- ※2 近赤外スペクトロスコピー:近赤外線を用いて、脳内ヘモグロビンの酸素化状態の変化を測定し、脳の血液量変化を基に脳機能を間接的に計測する手法。
3.結果
- ハミルトンうつ病評価尺度の17の評価項目の内5つの評価項目(抑うつ気分、罪悪感、入眠困難、食思不振、心気症)に関しては、心理療法室の違いに関わらず認知行動療法の効果が認められた。
- NIRSでは心理療法室の違いによる統計的な有意差は認めなかったが、室内の好ましさの測定では、香りの好ましさの7段階評価において「通常の診療室」の0点に対して「木の心理療法室」は0.889点と有意に高く、好印象につながった。【図3】
- 香りの好ましさは「抑うつ・不安」が強いほど高い傾向を示し、「香りがよい」と回答する割合が高かった。
- 今回の臨床試験の評価対象外であったが、治療にあたった病院関係者の方々から、木の診療室の方が疲れにくい等の良い評価を頂いた。
4.考察
うつ病の治療では、いかに適切な治療を導入し継続するかが重要な要素となる。今回の検証で木質化した環境、特に木の香りは好印象につながり、うつ病の治療を導入・継続していく上での後押しとして有効であることが示唆された。
- 引用文献:
- 「治療環境が精神療法の効果に与える影響に関する予備的研究:ランダム化比較試験」第120回日本精神神経学会学術総会