海外でも木造オフィスは
従業員の満足度を高める!
- 海外のオフィスで比較
メルボルンに建つ実際のオフィスにおいて、コンクリート主体の空間から木材の露出が多い「ティンバーリッチ」空間へ移転した前後で、従業員のさまざまな指標を比較した。 - 海外でも木造オフィスで生産性上昇
海外でも、移転後は快適性・健康感・生産性が上昇、ストレス値の低下を確認した。 - 環境要因の影響がありそう
環境測定の結果、調湿挙動・木視率・VOC濃度など環境要因が影響していると推測される。

1.背景・目的
バイオフィリックデザイン(自然とのつながりを屋内に取り込む設計)は、気分・満足度の向上やストレス低減、生産性の改善に寄与し得ると報告されている。一方で、既存研究には交絡要因の多さ、学生被験者中心、定量分析の不足など方法論上の課題が指摘される。本研究は、職場における木材利用に焦点を当て、実オフィスでの移転前後比較により、木質要素の多い環境がオフィスワーカーの主観的生産性・健康感・快適性にどのように関連するかを探索的に検証することを目的とした。
2.研究概要
オーストラリア・メルボルン州にて実施したフィールド型パイロット研究として、同一参加者が「非木造オフィス」から「木造(ティンバーリッチ)オフィス:T3 Collingwood」に移転する前後に、アンケート(屋内環境満足度〔温熱・空気・照明・音環境等〕、建物・屋内イメージ、総合快適性、健康感、生産性、ウェルビーイング、CASBEE-Office Health等)と客観指標としての毛髪コルチゾールを測定し、移転前後の2時点が揃った23名を解析対象として比較した1)。
また、木造・木質内装がヒトに与える効果(快適性・健康感・生産性)に寄与し得る物理メカニズムの手掛かりを得るため、温湿度・光・音・空気質・床かたさ・材料視認量などの屋内環境質を系統的に追加計測した2)。


3.結果
自己申告による屋内環境質満足度において、温度、太陽のまぶしさ、昼光、健康、全体的な快適さで有意な向上が認められた。屋内環境への印象についてポジティブな回答をした人の割合が84%から100%に向上(図1)した。建物内にいる時「より健康と感じる」と回答した人の割合が52%から70%に向上(図2)した。生産性の評価では、移転前の非木質オフィスで「建物により生産性が向上」と回答したのは全体の43%だったのに対し、移転後の木造オフィスでは75%に達した(図3)。屋内環境質満足度項目のうち「建物で感じる健康」は、生産性評価とのあいだに有意な正の相関が示された。毛髪コルチゾールは有意差は確認されなかったものの、平均317.2→286.4pg/mgに低下(ストレス低下方向)した。
屋内環境質を計測した結果を以下に示す。
温湿度:全館空調下で室内は概ね安定した結果を示した。図4に室温分散および相対湿度分散を示す。室温分散は RC が小さく(蓄熱性)、相対湿度分散は木造が小さい(調湿機能)対照的挙動を示した。メルボルン大学のTemperature Settings Guidelinesに示されている快適範囲(温度:21~26°C、相対湿度:30~60 %)への適合割合は、RC造フロア59.1%(=室温61.3%×相対湿度96.5%)、木造フロア63.4%(=室温63.9%×相対湿度99.1%)となった。
VOC:測定結果を図5に示す。いずれのフロアからもモノテルペン類が検出された。木造フロアの主要構造材であるヴィクトリアンアッシュ(柱梁)やラジアータパイン(CLT床)はテルペン類を放出することが知られており、Lv.7(木造空オフィス)の測定結果は、これらの木材に起因していると考えられる。Lv.4(RCフロア)からも同様にモノテルペン類が検出されていが、これは空調の影響により木造フロアのVOC成分がRCフロアに拡散された影響と考えられる。Lv.6やLv.9(木造入居オフィス)はLv.7(木造空オフィス)よりも2.3~2.8倍程度高い濃度となったが、これは柱梁・CLT床に加えてテナントが設置した木製の什器等が影響していると考えられる。
木視率:木造フロアの平均木視率はLv.6=12.2%、Lv.9=39.8%となった。Lv.6の結果は主に現し柱と梁に起因。Lv.9は、柱梁に加え、床仕上げ材にも木質建材を用いたことに起因する。
4.まとめ・考察
木造オフィスへの移転後は、屋内環境品質(温熱・昼光・音環境等)への満足度が概して高まり、総合快適性・健康感・生産性も上昇した。また、毛髪コルチゾールの平均値低下(ストレス低下方向)を確認した。本研究はパイロット研究であり、対照群・無作為化がないこと等から、因果推論は限定的である。一方で、同一建物における屋内環境質の追加測定により、先行研究で観察された主観的改善(快適性・健康感・生産性)および毛髪コルチゾールの平均低下の背景となり得る環境要因(調湿挙動・木視率・VOC 動態)を提示した。今後は因果設計と長期・多サイト・多モーダルの連関で、一般化と限界条件の精緻化を図る。
- 出典・参考文献:
- 1) “Understanding the effects of timber rich workplaces on occupants perceived productivity and health: a pilot study”. Scientific Reports (2025) 15:39480. https://doi.org/10.1038/s41598-025-22934-y
2)『木造オフィスがヒトに与える効果:T3 Collingwoodを対象とした追試・拡張フィールド研究』(2026年度 日本建築学会大会)