INTERVIEWインタビュー

木や緑に関する様々な分野の最前線にいる人々。
いま何を考え、どのような未来を見ているのでしょうか。

Vol.2木の効用を、
デザインする。

STUDIO KOSUKE ARAKI デザイナー 荒木宏介
資生堂 宣伝・デザイン部 デザイナー 村岡 明

Material ConneXion Tokyo 主催
MATERIAL DESIGN EXHIBITION 2018展示品
Collaborate with Kosuke Araki & Akira Muraoka
写真:成尾和見

筑波研究所の木の効果・効用に関する情報、検証データなどをもとに、デザイナーの荒木宏介氏、村岡明氏が木の卓上パーティションと天蓋を創りました。
無機質な空間に木目の優しい色合いを活かし、作業効率の向上、リラックス効果などの木の効用を手軽に付加できる作品で、イタリア・ミラノで開催された世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク(2019年)」に出展しました。

木の効用・効果(一部)

①思考力を持続させる
②緊張を和らげ、集中力を持続
③脳を活性化する水平の木目
④ストレスを溜まりにくくする
⑤時の流れを短く感じさせる
⑥目に優しい反射光
⑦記憶の想起

STUDIO KOSUKE ARAKI デザイナー 荒木宏介

資生堂 宣伝・デザイン部 デザイナー 村岡 明

住空間に新しい可能性を
もたらすもの。

荒木:

筑波研究所が蓄積した木の効果・効能を取り入れた新しいプロダクトを創るという今回のプロジェクトのお話をいただいたときに思ったことが2つあります。
1つ目は、見た人が “これは何だろう”と興味を持ってもらえる新しさのあるプロダクトにする必要があるということです。
木という素材自体はすでに親しまれているものです。例えば、器のような見慣れたものでは、木の効果・効用を取り入れていたとしても興味を持たれることなくスルーされてしまいます。
2つ目。住友林業は、高さ地上350mの木造超高層建築物の実現をめざすW350計画を進めています。
その計画の根幹を担う筑波研究所のデータを使用するのだから、私たちが創るものも空間にまつわるものが良いのではないかと考えました。

村岡:

木材が使われていない空間は、オフィス、病院などたくさんあります。それらは無機質な空間であることが当たり前でしたが、最近では木質化を進めるところも増えているようです。
でも、建築後に木質化するのはなかなかできることではありません。
今回創ったパーティションや天蓋は、建築後の木質化を推進し、オンからオフ、オフからオンへと気持ちを切り替えたり、ストレスがやわらぐ環境をより多くの人に提供することにつながります。

Material ConneXion Tokyo 主催
MATERIAL DESIGN EXHIBITION 2018展示品
Collaborate with Kosuke Araki & Akira Muraoka
写真:成尾和見

天蓋の下に、自然と人が集まった。

荒木:

パーティションや天蓋の木目の方向にも意味があります。木目が横向きの場合は集中力が増し、縦向きの場合はリラックス効果が得られるというデータがあります。
縦横の方向は設置する空間によって使い分けられるようにし、木が持つ可能性を活用できるようにしています。

村岡:

例えば、オフィスでも今は集中したいから横、今はリラックスしたいから縦、のように使い分けが可能です。
ミラノサローネの会場では、パーテーションと天蓋のある空間で来場者がどのような行動をとるかを観察できました。
天蓋の下で、人が自然と集まってきて、会話がそこで生まれていったり、そこで人が休憩をしたり。木が持つ効果・効能のリアルな検証ができました。

研究とデザインのシナジー。

荒木:

普段デザインする中で、使う素材やエネルギーが循環しているかどうかを気にしています。
木材に対して私が可能性を感じているところは、育つということです。
例えば、石油、石材は掘り起こしたらその後、人間の生きている時間軸のレベルでは元に戻っていかないものですが、木材は私たちが生きている中のライフスパンに対してすごく相性の良いものだと思っています。伐採したとしても植樹していくことでその環境は継続していきますし、未来に最も適した素材であるなというところは感じています。
これから、木に関する研究データをデザインし、住空間に活かしていくケースは増えていくと思います。
そういった意味でも今回研究データを提示され、それをプロダクトとしてデザインすることができたのは価値のあることだと思っています。