都内の駅に近い敷地でのご自宅の計画でした。Kさまご夫婦が求められたのは賃貸併用住宅とすること。東西を3階建てのアパートに挟まれるという厳しい条件の下、お仕事の関係で建築に明るいご夫婦と一緒に、最適な答えを探っていきました。
設計は敷地を読み解くことから始まります。しかしそれは方位や道路との関係だけではありません。高低差や眺めなど、あらゆることを検討します。具体的なプランニングに進む前に、敷地の魅力を最大限に引き出す建物のあり方、その可能性を徹底的に探ります。
道路側は、ほぼ全面をガラス窓にして光を採り入れています。太い外枠で安定感のある堂々とした表情をつくりました。ブルーとグリーン、そして黄色の縦のラインが外観のアクセントです。
3階に設けたK邸のリビング。バルコニーから光と風を採り込みます。正面の窓が、外の緑を1枚の絵のように切り取って空間を彩ります。メイプルの床がリビングをさらに明るくしています。
バルコニーはプライバシーが守られた心地よい外部空間です。読書はもちろん、時には食事の場所にもなります。ガラスのドアを左右2カ所に設けているので、リビングや水まわりからもすぐに出られます。
住友林業は注文住宅事業を本格的に始めて40年以上になり、設計事例の蓄積も豊富で実例集も数多くあります。過去の事例は貴重な“財産”であり、私も図面や実例集などを読み込み、お客さまとの打ち合わせ資料として活用しています。
私にとって過去の事例は、住友林業のさまざまな設計ノウハウが詰まった “参考書”です。お客さまから「こんなイメージにしたい」と伺ったときには、ご希望に合うものを実例集の中から示してお客さまと共通認識をつくる素材にしたり、イメージをさらに具体化するために使っています。
壁を中から外へと連続させ、室内空間の広がりを強調する手法は、お客さまとの打ち合わせの中で「ぜひやってみよう」と決めたものでした。外観のワンポイントのアクセントになりました。
Kさまの賃貸併用住宅は、各戸が1階に独立した玄関をもつ形式です。そのため4つの玄関ドアとインターホン、ポストが道路側に並びますが、住宅の設計ノウハウを活かし、植栽や天然石などを使って外構を美しく整えました。
私は“完成形”をご提案するよりも、お客さまとお話しながら、設計案を一緒につくりあげていくことを自分のスタイルにしています。お客さま自身が気付いていない“要望”もしっかりつかみとり、1つだけではなくいくつもの答えを用意したいと思っています。
3階の自宅部分のダイニングとキッチン。ご夫婦のアイデアでコンロをダイニングテーブルに組み込み、空間を効率的に使っています。北側の大きな窓から、明るい光が入ります。右の引き戸はランドリーコーナーや浴室に続きます。
3階のバルコニーから採り入れた光を、階段を通して2階に届けるために、階段の上部を“グレーチング”と呼ばれる簀(す)の子状のものにしています。ビル用の部材に詳しいご主人の発案でした。
2階の賃貸住戸のリビング。大きな窓から光が差し込み、明るい空間となっています。窓のブラインドはあらかじめ備え付け、全室共通にして外から眺めたときの美しさを演出します。
賃貸住宅としての魅力を高めるために、外観デザインは重要なポイントです。木造の一般的なイメージを超えたボックス型のシャープなデザインにしました。植栽やアプローチの工夫で、その表情をやわらげています。
住戸ごとに色の異なるビビッドな3色の壁を室内から外に延長し、この建物のシンボルにしています。
インテリアにも、ビビッドカラーの壁紙を使って空間のアクセントにしています。コンロを組み込んだテーブルに合うように、椅子も高いものを選んでいます。
3階のバルコニーはタイル貼り。愛犬と一緒に過ごす場所としても快適です。もちろん、ワンちゃんもお気に入りの場所。
2階の賃貸住戸の玄関。1階にある玄関から2階に上がります。左右の鮮やかな色の壁が気持ちを弾ませてくれます。
2階の賃貸住戸の内部。手前のリビングと奥に見える寝室の間にキッチンと水まわりを配置。コンパクトな間取りで暮らしやすいと評判です。