
デザインには本来、「調整する」という意味も含まれています。ですから私は、設計の仕事は単に図面を引くだけでなく、調整まで含まれていると考えています。家づくりには営業担当やインテリア担当など多くのスタッフがかかわりますが、その中心にいるのが設計士で、お客さまとの窓口を含めたすべての「調整役」だと思っています。できるだけみんなを引き込んで、関わったスタッフ全員に幸せになってもらいたいですし、お客さまから「このチームでよかった」と思っていただきたい。そうなるように努めるのが、設計の仕事だと考えています。
建築士 中川 仁
大阪府Xさま邸
住宅地でありながら、北側に小学校のグランド、三方が道路というネガティブな要素が少ない土地でした。インテリアに造詣が深いご夫婦の要望は、「好きな椅子をたくさん置きたい」というユニークなもの。ふんだんに窓を設けて借景を取り込みつつ、吹き抜けのあるLDKや和室、ご夫婦それぞれの個室など、どこにいてもこだわりのインテリアを楽しめる住まいを実現しています。

大阪府Xさま邸
住宅地でありながら、北側に小学校のグランド、三方が道路というネガティブな要素が少ない土地でした。インテリアに造詣が深いご夫婦の要望は、「好きな椅子をたくさん置きたい」というユニークなもの。ふんだんに窓を設けて借景を取り込みつつ、吹き抜けのあるLDKや和室、ご夫婦それぞれの個室など、どこにいてもこだわりのインテリアを楽しめる住まいを実現しています。
エッグチェアが置かれたリビングは、2つの庭に面したオープンな空間です。吹抜けの上部と足元にも開口部を設けています。
リビングとつながるダイニング・キッチン。家電や食器は背面と側面の収納棚にすっきり納めています。奥には勝手口を設けた愛犬用の部屋も設けています。
ご主人の部屋の手前に設けたホールからの眺め。お気に入りのヴィンテージの椅子とテーブルでくつろぎながら、吹抜け越しの景色を楽しめます。
赤いスワンチェアを置くことを前提に、カーペットやデイベッドの色を決めたという奥さまの部屋。洗面器付きデスクを備えています。
せっかく自由設計で注文住宅を建てるのですから、そのご家族にジャストフィットするものにしたいと思っています。そのためヒアリングでは、家づくりの軸となるコンセプトを、形容詞で表現してもらうようにお願いしています。「リビングが〇畳ほしい」といった具体的な要望ではなく、「なぜ家づくりをしたいのか」、「どんな暮らしがしたいのか」という漠然とした、直感のようなものがいちばん大切だと思っています。
アイアンの階段越しに見える中庭が開放感をもたらす玄関ホール。LDKまで続く大判のネイビーのタイルも印象的です。
中庭にはバイオエタノール暖炉が組み込まれたテーブルを設置。軒が掛かっているため、天気が悪くてもアウトドア気分を楽しむことができます。
空を眺めながら入浴できる、大きな窓を設けた2階の浴室。窓を開けると気持ちよく風が吹き抜け、快適に過ごすことができます。
土地のネガティブな要素をポジティブに、ポジティブな要素はよりポジティブになるように設計したいと思っています。自分で現地に足を運んで体感してわかったこと、感じたことを大切にし、目立つものや奇抜なものでなく、その地域に馴染む建物になるように心がけます。
中庭に面した和室には繊細な縦格子戸を採用。縁側には、珍しい藍染めのフローリングを使用しています。
北側の芝生の庭も眺められる和室。ウォールランプが壁や天井を美しく照らし出しています。
ネイビーのタイルとグレーのバルセロナチェアの組み合わせがスタイリッシュ。ダイニング・キッチンの天井にはナラ、2階の天井にはアッシュを使用しています。
建物自体はできるだけシンプルにつくり、家具や外構などで色付けしていただくくらいがちょうどいいと考えています。お客さまの新しい生活の器をつくるまでが私たちの仕事で、ご家族にとってはそこからがスタートです。暮らしは20年、30年と続いていきますので、流行を追いかけるのではなく、本当にやりたかったことなのか、原点に立ち返って確認することも必要です。たとえば、素材を選ぶ際には経年変化を楽しめるものをおすすめします。何が本当に必要で何が必要でないのか、取捨選択をお手伝いするのも設計の仕事だと思っています。

玄関への階段とポーチは洗い出し仕上げに。室内にはネイビーのタイルが広がるので、あえて素材を変えることでサプライズ感を出しています。

緑道に面した南側外観。フェンスを立て、庭に植栽を配置することで、プライバシーを確保しています。

設計を終えて
ご主人とは、たまたま好きなインテリアショップが同じで好みが似ていたこともあり、打ち合わせも設計もとても楽しかったです。お互いに意見を出し合うことで、相乗効果によりどんどんよくなっていった気がします。私が設計したというより、ご夫婦との合作という感覚が強いです。こだわりが詰まった家を、センスよく住みこなしてくださっているのもうれしく思います。
取得資格
一級建築士
これから住まいづくりをする方への
メッセージ
多くの情報に振り回されずに、自分たちは何を大事にしたいのか、どういう暮らしがしたいのかを、家づくりのスタートの段階からじっくり考えてみてください。たとえば、「カッコいい家がいい」と思ったら、どうしてカッコいい家に住みたいのか、もう一歩踏み込んで考えてみてはいかがでしょうか。深く掘り下げていくと、明確に言語化できなくてもその考えにたどり着いた理由や判断材料があったはずです。それを大切なポイントとして、家づくりを楽しんでいただければと思います。