経営企画・財務担当役員メッセージ

川田 辰己

強固な財務体質を構築しながら長期ビジョンの実現に向けた成長戦略を実行していきます

2024年を最終年とする現在の中期経営計画では、強固な財務体質を構築し、成長投資と収益還元をバランスよく行うことを財務戦略の基本方針としています。KPIとして、自己資本比率40%以上、ネットD/Eレシオ0.7倍以下を維持しながら、脱炭素化などに向けた成長投資を行うとともに、ROE15%以上を安定的に実現することを目指しています。

中期経営計画における財務資本戦略

 長期ビジョン「Mission TREEING 2030」のPhase 1にあたる現行の中期経営計画は、将来の成長と脱炭素化への貢献に向けた基盤づくりの3年間と位置付けています。収益の柱となった米国住宅不動産事業の多角化や材工一括事業への参入、前回の中期経営計画で課題を残した国内住宅事業の「稼ぐ力」を回復させるとともに、脱炭素化関連事業への投資や取り組みを加速することで、長期ビジョン実現に向けた足場を固める計画です。収益基盤を構築しつつ、新たな成長分野への積極投資を進めていくためには、財務健全性の維持と資本効率を意識した利益成長を両立していくことが重要だと考えています。具体的には、自己資本比率40%以上、ネットD/Eレシオ0.7倍以下を維持しながら将来に向けた成長投資を行うとともに、ROEについては15%以上を安定的に実現するという高い目標を掲げています。

2022年12月期の振り返りと今後の見通し

 2022年12月期は、収益の柱である米国戸建住宅事業が好調に推移したことに加えて、円安の影響もあり、グループ全体の売上高は前期比+20%の1兆6,697億円、経常利益は同+42%の1,950億円、当期純利益は同+25%の1,087億円となりました。経常利益、当期純利益ともに過去最高益を更新し、経常利益については中期経営計画の最終年である2024年12月期の目標1,730億円を上回る結果となりました。ROEは、当期純利益が大幅に伸長したことで株主資本コスト(おおむね7%程度と認識)を大幅に超える19.4%となり、2021年12月期の実績20.2%に続いて、目標としている15%を大きく上回りました。

 今後、ROE15%以上を安定的に実現していくためには、当社の利益の7割から8割を占める米国住宅不動産事業における収益性の確保が必要となります。2023年12月期は、米国住宅市場が急激な金利上昇を背景に一時的な調整局面を迎えていることもあり、好調に推移した前期と比較して収益の低下は避けられない見込みです。一方で、米国住宅市場は、ミレニアル世代、Z世代など住宅購買層の人口増加と不足する中古住宅流通量を背景にタイトな需給関係が当面継続し、中長期的にも成長していく市場であると捉えています。そのような事業環境において、各地域の状況に応じた販売戦略を推進していくことで、一定の収益性は確保できると考えており、実際に今年に入り契約・販売は好調に推移しています。

 当社グループは、2023年1月には新たに米国フロリダ州に進出したほか、オプション契約やランドバンカーの利用などリスクを抑えた土地の確保、パネルの設計から製造、配送、施工までを一貫して提供するFITP※1事業の推進など、利益の伸長と収益性の向上および人手不足に備えた取り組みを積極的に進めています。また、米国住宅不動産事業以外においても、国内住宅事業における価格の見直しや生産合理化による収益性の改善、国内介護施設のファンドへの施設売却による保有資産の圧縮、さらに政策保有株の削減なども進めており、引き続き当社グループ全体で資本効率を意識した利益成長を目指していきます。

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財務健全性の維持

 中期経営計画の達成、長期ビジョンの実現を図るには、景気変動の影響にも耐えうる財務の安定性と健全性が前提となります。特に市場環境の影響を受けやすい米国住宅不動産事業が拡大している状況下において、その重要性は一層高まっています。当社はこれまで財務健全性の維持に向けた取り組みを進めてきており、事業拡大により有利子負債残高が増加する一方で、確実な利益の積み上げと適時に公募増資を行ったことで、自己資本比率は40%以上、ネットD/Eレシオも0.7倍以下を維持しています。

 今後も、長期ビジョンで掲げた脱炭素関連事業への積極的な投融資の実行に加えて、米国住宅市場を中心とした販売用不動産の取得、不動産開発事業の拡大など、資金需要は増加するものと見込まれます。投資のタイミングや資金調達環境などに応じて財務指標は変化していくものと考えていますが、引き続き財務規律を保ちながら積極的な成長投資と財務健全性のバランスを両立していきます。

成長投資

 当社グループは、ROEやROICの向上を図るため、新規投資の定量的判断基準としてIRRやNOI利回りを採用しており、原則として、事業計画から算定されるIRRなどの効率性指標が国別、事業別に設定しているハードルレート(WACCなど)を上回ることを要件としています。

 中期経営計画における3年間の投融資は累計約3,000億円を予定し、そのうち、森林ファンド関連、木材コンビナート、海外非住宅建築などの脱炭素関連投資は620億円を計画しています。2022年12月期の投融資実績は総計626億円で、その主な内容は、米国における収益不動産開発、FITP事業の実現に向けたパネル製造事業会社の買収、国内外の住宅展示場、IT 関連投資などです。慎重に検討を進めた結果、実行を見送った案件もあったことから、1年目の進捗としては想定を下回りましたが、2023年は米国・アトランタ近郊におけるESG配慮型オフィス、ダラス近郊におけるマスティンバー建築の木造7階建オフィス、森林ファンドなどの案件を進捗させるとともに、引き続き、長期ビジョンで掲げた事業を推進、拡大するための投資を積極的に行っていきます。

販売用不動産の取得

 中期経営計画では、前述の投融資計画とは別に、販売用不動産についても、底堅い住宅需要が見込まれる米国を中心に取得を進める計画としていますが、在庫のリスクコントロールと回転率の向上を特に意識しています。

 リスクコントロールに関しては、運用ルールとして販売用不動産投資枠を設け一定の制限をかけることで、過剰な在庫水準にならないようマネジメントを行っています。投資枠の考え方としては、一定の損失が発生した場合であっても財務健全性を大きく毀損しない範囲としています。これらの考え方および運用ルールに基づいて販売用不動産の残高をコントロールしています。また、これまで米国における販売用不動産の取得資金については、現地の子会社が個々に金融機関から調達してきましたが、資金調達コストの低減等を目的として、2022年12月期に一部を親会社からの貸付に切り替えました。この貸付に対しては独自のコベナンツを設定することで、子会社の財務健全性の維持並びに販売用不動産の残高に対する統制を行っています。

 分譲事業を主体とする米国戸建住宅事業の拡大には、継続的に販売用不動産を取得していくことが欠かせません。引き続き成長戦略とともに在庫リスクをコントロールする仕組みにより、事業の健全な成長を図っていきます。

株主還元方針

 住友林業は、株主への利益還元を最重要課題の一つと認識し、これを継続的かつ安定的に実施することを基本方針としています。今後も、内部留保金を長期的な企業価値の向上に寄与する効果的な投資や研究開発活動に有効に活用することで、ROEの向上と自己資本の充実を図るとともに、経営基盤と財務状況およびキャッシュ・フローなどのバランスを総合的に勘案しつつ、利益の状況に応じた適正な水準での利益還元を行っていきます。

 当社のTSRを過去10年間で見ると、累積241.4%とTOPIXを上回って推移しています。近年では、2021年7月に実施した約350億円の公募増資を通じて得た資金も活用しながら成長戦略を進めてきたことが、利益の拡大や一株当たり当期純利益の伸長につながり、当社の株価および企業価値の向上につながったと考えています。引き続き、安定的・継続的な配当の実施と企業価値向上により、株主への利益還元を実施してまいります。

取締役 専務執行役員

取締役 専務執行役員

川田 辰己