経営企画・財務担当役員メッセージ

大谷 信之

長期ビジョンの実現に向けた成長戦略が着実に進捗
PBRが大きく向上

 長期ビジョン「Mission TREEING 2030」のPhase 1にあたる現行の中期経営計画では、強固な財務体質を構築し、成長投資と収益還元をバランスよく行うことを財務戦略の基本方針としています。事業規模拡大と脱炭素化などに向けた成長投資を行いながら、KPIとして自己資本比率40%以上、ネットD/Eレシオ0.7倍以下を維持するとともに、ROE15%以上を安定的に実現することを目指しています。

 2024年3月に経営企画、財務、サステナビリティ推進を担当する取締役に就任しました。これまでに、海外管理部長や経営企画部長などを務め、米国や豪州、アジアでの事業にも携わってきました。培った知見を活かしながら、当社グループの成長に貢献してまいります。

中期経営計画における財務資本戦略

 現行の中期経営計画では、収益の柱となった米国住宅不動産事業の多角化や、前回の中期経営計画で課題を残した国内住宅事業の「稼ぐ力」を回復させるとともに、脱炭素関連事業への投資や取り組みを推進しています。長期ビジョン実現に向けた足場を固める期間として、収益基盤を構築しつつ、成長分野への積極投資を進めていくことが必要であり、財務健全性の維持と資本効率を意識した利益成長を両立していくことが重要だと考えています。具体的には、自己資本比率40% 以上、ネットD/Eレシオ0.7倍以下と財務健全性を維持しながら将来に向けた成長投資を行うとともに、ROE15% 以上という高い収益性を安定的に実現することで、企業価値のさらなる向上を目指しています。

株主資本コストを上回るROE

 2023年12月期は、米国戸建住宅事業の伸長や国内住宅事業の収益性が改善したことで、売上高1兆7,332億円(期初計画差+1,352億円)、経常利益1,594億円(同+394億円)、当期純利益1,025億円(同+255億円)となり、ROEについても14.8%(期初計画11.8%)となりました。

 当社の株主資本コストは、おおむね7%程度と認識しており、ROEは株主資本コストを大きく超えて推移しています。ROE15%以上という目標については、円安が進行する中、純資産に含まれる為替換算調整勘定が増加しているため、計画策定時と比較してハードルは高まっていますが、目標の実現に向けて、まずは利益の7割から8割を占める建築・不動産事業の利益、特にその中でもウェイトが大きく収益性が相対的に高い米国戸建住宅事業における利益を伸長させていくことが重要だと考えています。

 米国住宅市場は、ミレニアル世代、Z世代など住宅購買層の人口増加と不足する中古住宅流通量を背景に、新築住宅のタイトな需給関係が継続しています。短期的には金利動向に左右されるものの、中長期的には引き続き成長していく市場であると捉えています。

 2023年には新たに米国フロリダ州に進出したほか、パネルの設計から製造、配送、施工までを一貫して提供するFITP※1事業の推進など、売上・利益の伸長と収益性の向上および人手不足に備えた取り組みを積極的に進めました。また、米国住宅不動産事業以外においても、ここ数年内で国内住宅事業における資材高騰に対応した販売価格の見直しや生産合理化による収益性の改善、国内介護施設のファンドへの施設売却による保有資産の圧縮、さらに政策保有株の削減なども進めています。政策保有株については、定期的に取締役会において、当社の企業価値向上につながるかを検証し、保有の合理性・必要性等を確認できないと判断した場合は、当該政策保有株式の縮減を行っています。2023年は8銘柄を売却し、その内6銘柄は完全売却しました。引き続き当社グループ全体で資本効率を意識した利益成長を目指していきます。

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PER、PBRの向上

 当社のPERは、2020年から2022年にかけてEPSが伸長した一方で、米国住宅市場の先行き不安などを背景に低位に推移していましたが、利益の伸長とともに配当の増額、開示の充実等を行い、足元では改善しています。PBRも1.0倍割れの状況から改善し、2024年5月には1.5倍まで上昇しました。

 PBRのさらなる向上を実現していくために、米国住宅不動産事業のさらなる伸長を軸とした利益の増加と、資産効率を意識した積極的な成長投資によるROEの向上を図ります。それと同時に、成長事業や財務資本戦略の開示の充実など、株式市場との対話機会のさらなる拡充などによるPERの向上にも努めていきます。

長期ビジョン実現に向けた積極的な成長投資

 ROEやROICの向上を図るため、新規投資の定量的判断基準としてIRRを採用しており、原則として、事業計画から算定されるIRRなどの効率性指標が国別、事業別に設定しているハードルレート(WACCなど)を上回ることを要件としています。

 中期経営計画における3年間の投融資は累計約3,000億円を計画しており、そのうち、森林ファンド関連、木材コンビナート、海外木造非住宅建築などの脱炭素関連投資は620億円の計画です。これまでの2年間の累計投融資実績は1,787億円であり、項目別では進捗に差はあるものの、全体としては順調に推移しています。2023年12月期の具体的な投融資実績としては、米国で集合住宅の開発施工等を行うJPI社やFITP事業関連のトラス製造会社、フロリダ州で戸建賃貸住宅の販売等を行うSouthern Impression Homes社の買収、海外木造オフィス開発案件への出資などです。引き続き長期ビジョンで掲げた事業方針のもとで積極的な成長投資を進めていきます。

2030年米国年間23,000戸の販売に向けた販売用不動産の積み増し

 前述の投融資計画とは別に、販売用不動産についても、底堅い住宅需要が見込まれる米国の分譲用土地を中心に取得を進めており、在庫のリスクコントロールと回転率の向上を特に注視しています。

 運用ルールとして販売用不動産投資枠を設け、一定の制限をかけることで、過剰な在庫水準にならないようマネジメントを行っています。投資枠の考え方としては、一定の損失が発生した場合であっても財務健全性を大きく毀損しない範囲としています。これらの考え方および運用ルールに基づいて販売用不動産の残高をコントロールしています。さらに、オプション契約やランドバンカーの利用なども併用することで、リスクを抑えた土地の確保にも努めています。また、これまで米国における販売用不動産の取得資金の調達については、各社に一定のコベナンツを設定することで、子会社の財務健全性の維持ならびに販売用不動産の残高に対する統制を行っています。

 2030年に目標に掲げている、米国で年間23,000戸の住宅販売を実現するには、継続的に販売用不動産を取得していくことが欠かせません。引き続き成長戦略とともに在庫リスクをコントロールする仕組みにより、事業の健全な成長を図っていきます。

中長期の成長を支える財務健全性の維持

 中期経営計画の達成、長期ビジョンの実現を図るには、景気変動の影響にも耐えうる財務の安定性と健全性を維持していく必要があります。特に市場環境の影響を受けやすい米国住宅不動産事業が拡大している状況下では、その重要性は一層高まっています。当社はこれまで財務健全性の維持に向けた取り組みを進めてきており、2024年5月には、米国住宅事業を中心に収益基盤の強化が進んでいることが評価され、国内の信用格付機関※1によって付与される発行体格付が、「A」格から「A+」格に引き上げられました。事業拡大により有利子負債の残高は増加していますが、自己資本比率は40%以上、ネットD/Eレシオも0.7倍以下を維持しています。

 今後も、長期ビジョンで掲げた脱炭素関連事業への投融資の実行に加えて、米国住宅市場を中心とした販売用不動産の取得、不動産開発事業の拡大など、資金需要は増加していく見通しです。引き続き財務規律を保ちながら積極的な成長投資と財務健全性のバランスを両立していきます。

1 格付投資情報センター(R&I)
株主還元方針含め次期中期経営計画に向けて議論

 当社は株主への利益還元を最重要課題の一つと認識し、これを継続的かつ安定的に実施することを現在の基本方針としています。2023年12月期は減益となりましたが、1株当たりの年間配当金は前期と同じ125円といたしました。また、2024年12月期については、現時点では1株当たりの年間配当金額を5円増配し130円とする予定です。

 2025年から始まる次期中期経営計画については、現在内容について活発に議論しており、2030年の長期ビジョン達成に向けて、より具体的な道筋を示していきたいと考えています。引き続き、米国住宅不動産事業や脱炭素関連事業を中心に成長投資を継続すると同時に、資本効率向上と適正な株主還元を実施していきます。

 当社のTSR を過去10年間で見ると、累積290.0%とTOPIXを上回って推移しています。今後も株主・投資家の皆様をはじめ多くのステークホルダーとの対話を進め、ご指摘やご意見を当社グループの経営に適切に活かしていくことで、企業価値の向上につなげていきます。

取締役 常務執行役員

取締役 常務執行役員

大谷 信之