社外取締役からのメッセージ

山下 泉

現中計の着実な成果を一層推進する人財確保・育成がカギに

社外取締役 山下 泉

 当社の取締役会は、多様なバックグラウンドを有するメンバーで構成されていることに加え、取締役会議長である市川会長のオープンかつ巧みな議事運営により、自由闊達で建設的な議論が活発に行われていると思います。また、林業を祖業とし、「自利利他公私一如」の「住友の事業精神」に基づく経営理念を持ち、「木と生きる幸福。」を創る会社らしい、時間軸の長い、持続可能性を大事にする議論が多い点が特徴だと感じています。

 現中期経営計画については、米国FRBによる急激な金融引き締め政策の実施に伴う米国住宅・不動産市場の落ち込みというマイナス要因があったものの、売上高、経常利益とも堅調に推移し、全体としておおむね計画を達成できる見通しです。これまでの2年間では、長期ビジョンの目標達成に向けてさまざまな取り組みが行われてきましたが、その要とも言うべき森林アセットファンドや、木材コンビナートの第1弾と位置付けられるプロジェクトが多くの企業の協力も得て立ち上がるなど、着実に成果が出てきている点も評価できると思います。

 ただ、これらの多くのプロジェクトの中には、「住友林業版プロジェクトX※」とでも言うべき難度の高いイノベーティブな新規事業が少なくないこともあり、当初計画に比べて進捗が遅れているものが散見される点は注意が必要です。「Phase1」の最終年度となるこの1年で、遅れの原因を明確にした上で的確な挽回策を講じることにより、長期ビジョン達成に向けての基盤固めを進めることが求められます。そのためには、脱炭素関連事業、非住宅中大規模木造建築事業などの新しい事業分野の拡大を支える多様な人財の確保・育成や、DX 推進・AI 活用に一段と積極的に取り組んでいくとともに、こうしたチャレンジングな課題に「自分ごと」として挑戦し続ける、活気あふれる職場づくりがますます重要になってきていると考えています。

※「 プロジェクトX〜挑戦者たち〜」:日本の産業史・現代史に残るプロジェクトに関わった人々の姿を描くNHKのドキュメンタリー番組。

栗原 美津枝

社会価値の実現と長期的な成長視点で企業価値向上に貢献

社外取締役 栗原 美津枝

 当社は2022年、長期ビジョン「Mission TREEING 2030」のもと中期経営計画(Phase1)をスタートさせ、2024年が最終年となります。この間、ウッドショックの影響やアフターコロナへの移行、海外金利の上昇・高止まり、国内経済の潮目の変化など、内外のさまざまな環境変化に対応しながら、業績は総じて堅調に推移していると見ています。収益の牽引役である北米事業は金利高の影響を受けつつも、現地パートナーとの良好な関係のもと住宅事業から川上事業への拡大を図っています。また、国内住宅も持ち直してきているほか、財務面でも、健全性を維持しつつM&Aなどの投資を拡大しています。

 こうした計画の進展の中で、当社は、企業価値の源泉である「ウッドサイクル」という独自のビジネスモデルにより、森林価値を創出し社会に還元、社会全体の「カーボンネガティブ」に貢献しています。現在、衛星や「One Click LCA」を利用した炭素固定量計測技術の開発、脱炭素設計の標準化などに加え、国内外の森林経営の高度化や米国で組成した森林ファンドの取り組みが進捗しています。こうした脱炭素の達成度は役員報酬に連動させているほか、ESG推進委員会でのサステナビリティ予算のモニタリングを取締役会に報告するなど、ESGと事業の一体化も進めています。

 今後の長期的な成長に向けては、事業面では脱炭素の新規事業を成長軌道に乗せつつ、住宅事業と木材建材事業の構造改革を進め、市場が縮小する中でも付加価値のある事業にすることが重要です。経営基盤面では、グループ全体での人財戦略および情報基盤整備とデータ利活用が重要課題であることももちろんですが、成長投資の拡大と資本効率のバランスも検討していくべきでしょう。

 私は社外取締役として、長期的な成長に向けた課題を次期中計に反映させるとともに、さまざまなステークホルダーとの対話等を通して多様な視点を経営に取り入れながら、社会価値の実現を通じた企業価値向上に貢献してまいります。

豊田 祐子

「ウッドサイクル」の強みを礎とする事業の社会的意義を意識して舵取りを進める

社外取締役 豊田 祐子

1. 社外取締役として、どのような観点からガバナンスを行おうとお考えでしょうか。

 多岐にわたる当社グループの事業は、「Mission TREEING 2030」に示されている「ウッドサイクル」の中に位置づけられます。脱炭素化に貢献できる当社の強みを発揮していくことが、さらなる企業価値の向上につながると考えます。森林経営により森林のCO2吸収量を増やし、木材内部での炭素固定を促し、その木材を建築物や家具に使用することで炭素固定を長期化し、バイオマス発電でエネルギーを供給するという、事業全体の社会的意義を根本に据えつつ、取締役会においては各事業部における個々の取り組みに目を配り、シナジー発揮のための適切な経営資源の配分を考え、リスク管理の方法を検討するなど、将来に向けての舵取りが求められます。

 2023年度に行った森林ファンドの立ち上げは、当社のみならずほかの参画会社の資金も活用し、森林経営による地球規模の価値の実現とクレジットの創出による持続可能な新たなビジネスモデルを確立するという意義があり、取締役会では仕組みの精緻化や想定されるリスクへの対応などが議論されました。また、インドネシアでの泥炭地管理ノウハウの活用や、中大規模木造建築事業の拡大に向けての戦略も、重要なテーマとなっています。

 さらに、これらを支える人財の育成、活性化についても真剣に考えていきます。国内の少子高齢化への対応や海外事業の拡大のための国際人財の強化、女性の活躍推進、キャリア採用の拡大やコミュニケーションの円滑化などの課題に、経営陣が率先して取り組む必要があります。また、社員一人ひとりが日々の業務を生き生きとかつ適切に遂行することが、当社グループへの信頼の基礎であり、企業価値を支えていることを改めて認識し、環境を整えていかなければなりません。社外取締役として、どのように貢献できるかを考え、実行していく所存です。

岩本 敏男

デジタル技術を活用した成長戦略をご一緒に考えましょう

社外取締役 岩本 敏男

 2022年11月末に生成AIの代表格であるChatGPTが世に登場してから、わずか2か月で世界中のアクティブ・ユーザーが1億人を超えました。最新のデジタル技術は影の部分もありますが、短期間で世の中を大きく変化させていく力があります。テクノロジー以外にも最近ではコロナウイルスによるパンデミックや、ロシアのウクライナ侵攻、中東での戦争など社会の構造や価値観などを一変させる、いわゆるパラダイムシフトを強いる出来事が立て続けに起こっています。

 私は2024年に当社社外取締役に就任しましたが、4月に当社発祥の地である旧別子銅山跡地を訪問し、今日に至るまでの歴史を学びました。長期間に及ぶ過度な伐採と煙害によって荒廃した周辺の山林に住友の先人が強い意志で植林を重ね、100年以上かけてついに元の緑豊かな山々を取り戻したことに強い感動を覚えました。

 化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換するGX(グリーントランスフォーメーション)はバズワードになりましたが、森林の持つ力は再評価されています。デジタル技術で二酸化炭素の排出量を可視化することができ、それによって具体的な対策が実現できます。日本のみならず、世界中でAIやIoTなどのデジタル技術を駆使することによってGXへの取り組みも加速できるでしょう。

 企業は植物や動物などの生き物と同じように成長の遺伝子を持っています。社会に貢献することによって、社会に受け入れられ、尊敬され、企業は大きく成長できるのです。デジタル技術とグローバルで実践してきた会社経営のノウハウを生かし、330年の歴史を持つ当社に今日的に課せられた役割をどのように果たせば社会的な価値を創造できるのか、皆さまとともに考えていきたいと思っています。

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