
持続的な成長に向けてグローバルな人材育成とガバナンスを強化
前中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 1」(2022年~2024年)の3年間をどのように評価されていますか。また、2025年12月期からスタートした新中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 2」で期待されることは何でしょうか。
栗原 前中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 1」(以後「前中計」とする)では、中計最終年度である2024年12月期の経常利益が当初計画1,730億円を250億円上回るなど、業績面では非常に良好な結果を出すことができました。また、海外を含めてM&Aなどの投資を積極的に行ったことも特徴であり、2024年11月に豪州最大手の住宅会社Metricon 社を買収したことで、豪州の戸建住宅着工戸数で首位となったほか、米国ではFITP事業への進出や森林ファンドの組成・運用が進捗しました。まさに、川上・川中・川下で事業を拡大したのが前中計だったと評価しています。新中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 2」(以後「新中計」とする)は、海外ではさらなる成長の加速、国内では高付加価値化を目指すフェーズになるでしょう。そのためにポイントとなる施策は3つあります。1点目は人財育成で、特に現地人財とグローバル経営人財の育成です。2点目は持続可能な社会の実現に向けた当社特有のバリューチェーン「ウッドサイクル」による、CO2削減効果だけではなく自然生態系保全も含めた環境貢献の訴求に加え、当社事業の経済的付加価値創出につながる財務インパクト(稼ぐ力)を可視化し、ステークホルダーに発信していくこと。3点目は新設されたコーポレート本部※1を通じて、組織横断的なコーポレート機能を増強することです。
1 2025年1月1日付で「コーポレート本部」を新設。本社部門内組織のうち、お客様相談室および新事業開発部を除くすべての組織を「コーポレート本部」の配下とすることで、本社部門内における組織間の連携強化、人財育成および事業部門に対する支援機能を拡充し、人財開発、DEIなどのさまざまな経営課題への取り組みの促進を図る。
豊田 私は前中計期間2年目の2023年に社外取締役に就任しましたが、栗原さんがおっしゃる通り、前中計は海外事業が投資と買収を通じて大きく拡大した期間だったと思います。特に、前中計期間に開始した事業の一つである森林ファンドは、当社の祖業にしっかり結びついていることに加え、地球環境保全と人類の将来に貢献するという点で複数の意義を持つ事業だと認識しており、今後の成長に期待しています。 また、新中計の検討プロセスでは、役員懇談会※2と取締役会において我々社外取締役も細部まで踏み込んだ深い議論ができましたので、このプロセスについても高く評価しています。
2 主に事業戦略について経営者が闊達に議論を行うための会議。参加メンバーは取締役全員に加え、監査役および各事業本部長。
岩本 私は前中計期間3年目の2024年に社外取締役に就任しました。今お2人がおっしゃったように、当社は前中計の3年間で目覚ましい成長を遂げました。ただ、社外取締役として1年間見ていくうちに、社内にいる方々がこの急激な成長に追いついているのか、気になった点もいくつかあります。例えば、住友林業は国内では木造注文住宅で高いブランド力があるものの、現在は利益の7割以上を海外住宅事業で生み出しています。そうした実態を、ステークホルダーに十分に伝えられていないように思います。加えて、新中計では数値目標の達成を目指すだけではなく、住友林業のカルチャーや、当社がGX(グリーン・トランスフォーメーション)※3にもつながる価値を生み出していることを、広くアピールできるといいのではないでしょうか。
3 脱炭素社会の実現を目指す取り組みを経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けた、経済社会システム全体の変革(経済産業省の定義)。
新中計を実現していく上で課題になるのは、どのような点だと考えていますか。
岩本 今では海外の従業員の割合は50%近くを占めているので、住友林業グループとしての求心力を保持していくことに加えて、グローバルでのさらなるガバナンス体制の強化が必要です。しかし、グローバルに通用する人財の育成には20年は要すると言われているので、人財の不足を補うにはデジタル技術が有効でしょう。一方で、デジタル技術の導入と活用には相応の投資額が必要になるので、優先順位をつけて取り組んで欲しいと思います。
栗原 コーポレート本部の設置は新中計の大きなポイントだと思います。この組織改正により、人財育成やグローバル化、職場環境の整備、安全管理やコンプライアンス対応など、コーポレート機能の増強を実現することは重要だと思いますし、それによって経営資源とリスク管理の高度化をより図っていくことを期待しています。
取締役会の実効性についての評価をお聞かせください。
岩本 当社は監査役会設置会社ですが、取締役会が果たしている機能はマネジメント寄りだという印象です。つまり、取締役会は最終意思決定機関として機能しており、何かを実行する際には取締役会で承認を得るという、いわゆる伝統的な取締役会のあり方です。しかし、例えば指名委員会等設置会社などは、今ではほぼモニタリング型の取締役会になっています。もちろん、現行の体制でも経営や執行に対する助言などはしっかりと行われていますが、モニタリング型に移行すれば、取締役会で審議するテーマも変わってくるはずです。個人的には、取締役会では戦略や経営資源の配分に関する議論にもっと時間を費やすべきだという思いがあります。
豊田 監査役会設置会社と、監査等委員会設置会社あるいは指名委員会等設置会社では、業務執行に関する事項をどこまで個々の取締役や執行役に委任できるかというところで、法的な仕組みが異なります。監査役会設置会社はマネジメント型の仕組みといわれ、一定の重要事項は取締役会で決議しなければならないという法律上の要請があり、当社は現状ではその枠組みの中で運営しています。しかし、今の監査役会設置会社の形態でも、マネジメントとモニタリングを両立させることは十分可能です。当社はすでに任意の指名・報酬諮問委員会を設置しているので、その運用次第でガバナンスのあり方も大きく変わると思います。一方で、現状は個別案件に割く時間が多く、岩本さんがおっしゃるように、戦略に関して取締役会で議論する時間をもう少し確保できるとよいと思います。例えば、事前に資料を共有していただいているので、取締役会での個別案件に関する説明時間を一定程度短縮し、その分の時間を戦略に関する議論に活用できると考えています。
栗原 私も、当社では個別案件を取締役会で議論する割合が非常に多いと感じます。取締役会に付議される案件の基準は毎年見直されてはいますが、取締役会で議論すべき戦略とリスクをしっかりと精査し、取締役会での議案を整理することで、効率的に議論できるようになると思います。一方で、当社の取締役会は取締役、監査役ともに多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成され、自由に意見を言える環境が整っています。どのメンバーも、案件の可否だけでなく、住友林業として取り組むべきことは何かという観点で、厳しい意見も積極的に発言しており、当社の取締役会は実効的に機能していると高く評価しています。
岩本 モニタリングが取締役会の義務であることは指名委員会等設置会社でも監査役会設置会社でも同じですが、豊田さんがおっしゃるように、時間配分を変えるなど、工夫次第で改善の余地はあるはずです。当社は非常に歴史のある会社ということもあるのか、従来のやり方に強くこだわるところがあります。しかし、取締役会で議論すべきテーマを定義することは、取締役会の実効性を高める上で非常に重要なポイントですので、今後も議論を通じてさまざまな改革を検討していきたいと思います。
資本政策や株主還元について、取締役会ではどのような議論が行われていますか。
豊田 当社はこれまで、積極的に投資を行い、それが成功を収めてきました。今後も、特に海外で当社の強みを生かした投資機会は多いと考えられますので、資本政策についても、自己株取得等ではなく利益の再投資に重点的に資金を配分していく方針を継続するのは適切だと考えています。こうした積極的な投資が、「ウッドサイクル」を軸とした当社の事業の独自性や将来性の中に位置づけられていることも評価されていると思いますので、今後も資本政策について継続的に発信していくことが必要だと思います。
岩本 ROEやPERといった指標についても、なぜそれらを巡る議論が必要なのか、経営陣全員が心から納得した上で議論するべきだと考えています。自己株式の取得については、私も現状では当社にはその必要はなく、企業価値の向上のためには、利益を再投資に重点的に回すという方針が良いと考えています。
マネジメント層のサクセッションプランに関してどのような議論が進められているのか、指名・報酬諮問委員会での様子も交えてお聞かせください。
栗原 マネジメント層については、階層ごとに人財を選定して育成を行っていますが、取締役会と指名・報酬諮問委員会の双方で、ジェンダーとグローバルの面で多様性が不足していることが議論に上がっており、改善の余地があります。事業部ごとに次世代のマネジメント層の候補者リストは存在していますが、それ以外にも、経営層がこういう人財を戦略的に育成したいという領域を設けて、計画的に育成する仕組みがあってもいいのではないかと申し上げています。また、取締役については、現在持っているスキルは開示しているものの、求められる資質や選定基準が明確に定義されていないことは課題だと思います。光吉社長は事業成長に向けて、現場と本社との課題のギャップを埋めるべく変革を推進されるなど優れた経営手腕を発揮されており、この点についてマネジメント層の選定は十分評価し ていますが、次世代人材の育成と確保に向けて基準の明確化とプロセスの進捗を確認していきたいと思います。
豊田 人財の流動化は進んでいますので、中途採用で入った人をマネジメント層の人材プールに加えるなど、随時アップデートしながら整理していくことが必要だと思います。マネジメントの選定プロセスについては、会社によって指名委員会等の果たす役割は異なりますが、時代の流れとしても、密室での選定ではなく、多くの人の判断を経るというプロセスに変わってきていることは確かです。そうした流れを踏まえて、当社も取締役の選定基準や経営者に求める資質の定義を明確にし、併せて開示もしていくべきだと思います。