気候変動への対応

TCFDへの対応

TCFD提言への賛同表明

住友林業グループでは、気候変動に伴うリスクと機会を認識し、金融安定理事会が設置したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言への賛同を2018年7月に表明しました。同年に木材建材事業と住宅事業を対象にTCFDの提言に基づき、気候変動問題が社会と企業に与えるリスクと機会やその戦略のレジリエンスを評価した初回のシナリオ分析を実施、翌年 2019年からはTCFDが提言する枠組みを参照した情報開示を始めました。2021年には、資源環境事業と海外住宅・不動産事業(当時)を対象として実施し、さらに2022年にはグループ内の全事業を対象として全社横断的に実施しました。各事業本部、本社部門と連携し、各事業本部別の分析の他、事業横断での課題及びその対応策について検討しました。今後も住友林業グループのシナリオ分析のレベルアップに取り組んでいきます。

住友林業グループにおけるTCFDシナリオ分析開示

住友林業グループにおけるTCFDシナリオ分析開示

ガバナンス

気候変動問題への対応は、他のESG課題と同様にESG推進委員会を中心に推進を図ります。ESG推進委員会は、執行役員社長を委員長として、執行役員兼務取締役及び各本部長から構成され、住友林業グループの持続可能性に関わる中長期的なESG課題に対するリスク・機会の分析や取り組みの立案・推進、 SDGs達成に貢献する事業戦略を織り込んだ中期経営計画サステナビリティ編の進捗管理、行動指針・倫理規範などの運用状況と有効性のモニタリングを行うとともに、委員会での全ての議事内容を取締役会に報告しています。

2022年2月に、さらなるESG と一体化した経営を推進するため、役員報酬制度の一部内容を改定しました。役員報酬の算定の中に、サステナビリティ指標達成率連動報酬を導入しています。住友林業が SBT(Science Based Targets)に基づいた長期温室効果ガス排出削減目標が達成できなかった場合は、標準株式報酬額から目標達成状況に応じて支給される報酬額が減額されます。

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戦略

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書は、人間活動が気候変動へ及ぼす影響は疑う余地がないことを明言し、その結果、極端な気象を引き起こして発生の頻度も増すこと、温室効果ガスの排出が氷床、海面水位の変化に強く関係していることなどを指摘しています。そのような背景を元に、森林によるCO2吸収・炭素固定の機能や木材製品・木造建築による炭素固定・ CO2排出量削減、林地未利用木材のバイオマス発電用燃料の活用などに社会からの期待はますます高まっています。住友林業グループは、川上の森林経営から川中の木材・建材の製造・流通、川下の木造建築や再生可能エネルギー事業を通じて再生可能な自然資本である森林資源を有効に活用し、「公益的価値」を提供することにより脱炭素社会の実現に貢献します。

2022年2月に、脱炭素化へ向けた長期ビジョン「Mission TREEING 2030」を公表しました。「Mission TREEING 2030」における事業方針の一つとして、「森と木の価値を最大限に活かした脱炭素化とサーキュラーバイオエコノミーの推進」を掲げ、国内外のあらゆる領域において、森林や木材資源の持つCO₂の吸収・固定や削減の効果を訴求し、事業を通じて社会の脱炭素化に貢献します。長期ビジョン 「Mission TREEING 2030」の第一段階として、将来の成長と脱炭素化への貢献に向けた基盤を作る3年間の中期経営計画 「Mission TREEING 2030 Phase 1」(2022 年2024 年)を公表しました。 5つの基本方針の一つに「事業と ESG の更なる一体化」を掲げ、取り組みを推進しています。

リスク管理

住友林業グループでは、執行役員社長をリスク管理最高責任者として、その他全ての執行役員で構成される「リスク管理委員会」、及び執行役員社長を委員長として、全ての取締役兼務執行役員と全ての事業本部長で構成される「ESG推進委員会」を設置しています。それぞれ年4回開催され、日常業務で短期的に発生しうるリスクについては、各部署で具体的な対応策や評価指標を取り決めて、進捗を四半期ごとに「リスク管理委員会」に報告しています。 「ESG推進委員会」では、気候変動などを含めた社会・環境・ガバナンスの中長期リスクをバリューチェーン全体について包括的に協議しています。

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指標と目標

住友林業グループでは、気候変動に関連した長期目標を策定した上で、年度計画に落とし込みながら取り組みを推進しています。2017年SBTを策定することを宣言し、グループ全体での新たな温室効果ガス排出量削減目標を策定、2018年7月に、 SBTとして認定されています。2021年9月には、取り組みを加速させるために、2030年を目標年としたスコープ1、2の温室効果ガス排出量削減目標を従来の 21%削減から 54.6%削減に引き上げ、SBT事務局へ申請を行いました。さらに、2020年3月、使用する電力の100%再生可能エネルギー化を目指した国際的なイニシアティブ RE100に加盟、2040年までに自社グループの事業活動で使用する電力と発電事業における発電燃料を100%再生可能エネルギーにすることを目指して、再生可能エネルギーの活用及び温室効果ガス削減の取り組みを加速させています。 2022年2月に公表した中期経営計画サステナビリティ編2024では、事業本部ごとに再エネ調達比率の目標を設定し、設備投資など必要な予算措置を講じ、着実にRE100達成に向け、取り組みを推進していきます。

TCFDシナリオ分析

リスクと機会の特定と評価

住友林業グループでは、過去に実施した事業本部別のシナリオ分析結果を踏まえ、2022年には木材建材、住宅、海外住宅・建築・不動産、資源環境、生活サービスの全事業本部を対象とし、全社横断的な視点から実施しました。この際、気候変動の対策が進まない4℃シナリオと脱炭素に向けた変革が進展する「1.5/2℃シナリオ」に基づいて2030年の状況を考察しました。
本社関連部門と各事業本部が連携して事業本部ごとのリスクと機会を洗い出し、財務面のインパクト評価を行い、特に重要としたリスク及び機会について対応策を協議しました。さらに、複数の事業本部に影響が及ぶ横断的課題を取り上げ、5事業本部が合同で対応策を検討しました。
2025年から開始する次期中期経営計画などの事業計画への反映に向け、横断的対応策について関係部署と連携しながら精査していきます。今後、シナリオ分析の精度をさらに高め、不確実なあらゆる未来にも対応できるレジリエント(強靭)な企業戦略の構築を進めます。

シナリオ分析の前提

シナリオ分析を行うにあたり、国際エネルギー機関(IEA)及び国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のシナリオを用いて以下の2つのシナリオで分析を行いました。

設定シナリオ 4℃シナリオ 1.5/2℃シナリオ
社会像 現状を維持して経済発展を優先させ、世界の温度上昇とその影響が悪化し続けるシナリオ 社会全体が脱炭素に向けて大きく舵を切り、温度上昇の抑制に成功するシナリオ
参照シナリオ 移行面 Stated Policies Scenario(IEA) Sustainable Development Scenario(IEA)
Net Zero Emissions by 2050(IEA)
物理面 SSP5-8.5(IPCC) SSP1-2.6(IPCC)
SSP1-1.9(IPCC)
リスク・機会 物理面におけるリスク・機会が顕在化しやすい 移行面におけるリスク・機会が顕在化しやすい

出所:IPCC AR5, AR6、SR1.5, IEA WEO 2020, Net Zero Emission by 2050から作成

出所:IPCC SR1.5等

出所:IPCC SR1.5等

事業本部別のシナリオ分析結果

シナリオ分析ではまず事業別の分析を行いました。主な事項は次の通りです。
木材建材事業においては、森林保護に関する政策により調達コストの上昇が懸念される一方で、市場の脱炭素志向によって国産材の需要増加が予想されます。国内の住宅事業においては、気象災害の激甚化により堅牢な建築物への嗜好の高まりで木造建築離れが懸念されますが、脱炭素政策やESG投資の動向次第で環境配慮型住宅市場がさらに成長することが見込まれます。
海外住宅・建築・不動産事業においては、国内の住宅事業と共通する事項のほかに、ESG投資の進展によってサステナブルな素材である木材を使った中大規模建築が脚光を浴びており、その流れが加速することが見込まれる一方、環境規制対応が遅れればブランド価値棄損や株価低迷のリスクがあります。
資源環境事業においては、気温上昇などの物理リスクが事業に大きな影響を及ぼしますが、森林ファンドや森林由来のバイオマス燃料の商機が拡大することが期待されます。
生活サービス事業においては気温上昇などが保有施設の利用者減につながると懸念される一方で、顧客の脱炭素志向や災害の激甚化に伴う安心安全志向への対応により利用者の獲得につながると予想されます。

移行リスク 物理的リスク 機会
木材建材事業 ・炭素税の導入、環境規制強化によるコスト増加
・森林保護政策強化に伴う伐採税
・再造林コスト上昇による木材調達コスト増加
・森林保護政策強化に伴う森林の施業可能エリア減、木材調達量低下による売上減少
・災害の激甚化による堅牢な建物への嗜好の高まりを受け、木材価値低下、及び木材建材の売上減少
・環境規制強化に伴う環境配慮型住宅への改修需要増、木材建材の売上増加
・環境配慮型住宅や中大規模建築向け資材加工技術の開発による木材建材の売上増加
住宅事業 ・短期的にはLCCM住宅や中大規模建築の技術開発コストや建築コスト増加
・長期的には鋼材やコンクリート等建築資材の脱炭素技術進展により相対的に木材価値が低下し、木造建築物の売上減少
・災害の激甚化による堅牢な建物への嗜好の高まりを受け、木造戸建ての売上減少 ・脱炭素志向の高まりを受け、LCCM住宅の需要増、売上増加
・顧客嗜好や政策変化等による環境配慮型集合住宅などの成長市場参入による売上増加
海外住宅・建築・不動産事業 ・炭素税の導入、環境規制強化によるコスト増加
・環境規制対応の遅れによるブランド価値棄損、株価低迷、売上減少
・災害の激甚化による、建築物損壊、工期延長やサプライチェーン途絶による資材調達コスト増加
・災害リスクが少ないエリアへの需要シフトによる開発地確保の競争激化
・脱炭素志向の高まりを受け、環境配慮型住宅の需要拡大
・投資家や金融機関のESG需要を受け、木造中大規模建築市場拡大
資源環境事業 ・炭素税の導入、環境規制強化によるコスト増加
・森林保護政策強化による出材減少
・環境規制強化に伴う省エネ重機導入コスト増加
・燃料価格高騰に伴うオペレーションコストの増加
・降水・気象パターン変化による、路網損壊、道路補修コスト増加
・平均気温の上昇による森林火災増加、木材調達及び再造林コストの増加
・顧客の脱炭素志向による原木・立木の需要増加
・クレジット市場拡大による森林ファンドのクレジット売却益の増加
・脱炭素政策強化による再エネ需要増加、バイオマス由来のエネルギー事業の売上増加
生活サービス事業 ・ガソリン車から電気自動車へのシフトに伴うガソリンカード事業の売上減少 ・災害の激甚化による、保有施設の改修・BCP対応コスト増加
・気温上昇に伴う保有施設の利用顧客減少、安全配慮コストの増加
・災害の激甚化による保険加入者、契約期間短縮、更新頻度増、売上増加
・顧客の再エネ志向に伴うスミリンでんき契約者数増加
・顧客の脱炭素志向、災害の激甚化に伴う安心安全志向対応による顧客獲得

※ LCCM住宅:建設時、居住時、解体時において省CO2に取り組み、さらに太陽光発電などを利用した再生可能エネルギーの創出により、建設時も含めライフサイクル全体でのCO2収支をマイナスにする住宅

全事業本部に関わる横断的な財務影響分析

事業ごとの分析により特定されたリスク・機会のうち、複数の事業に影響があり、特に大きな財務的影響を受ける事業部とその内容は下記の通りです。炭素税導入に関連する事業コスト増加や環境規制、気象災害の激甚化は木材建材事業を含めて全事業部に影響を及ぼす一方、顧客の脱炭素嗜好の高まりは資源環境事業を含めて全事業部で機会となることが明らかとなりました。

項目 特に影響が大きい項目 関連事業
移行リスク 政策・法規制 カーボンプライシングの導入 【リスク】
・炭素税賦課や排出権取引制度の導入による事業コスト増加(木材建材、資源環境)
木材建材、住宅、海外住宅・建築・不動産、資源環境、生活サービス
森林保護に関する政策 【リスク】
・伐採税・伐採手数料などの支払いによる木材調達コスト増加(木材建材、資源環境)
・再造林の義務化等により再造林コストが転嫁されることに伴う国産材コスト増加(木材建材)
木材建材、資源環境
環境規制の導入 【リスク】
・各国政府が中古車の利用に対する規制を実施することにより、重機やトラックの導入コスト増加(資源環境)
【機会】
・建物に関する規制の強化に伴う環境配慮型住宅への改修需要の高まりへの対応による売上増加(住宅)
・建物に関する規制の強化に伴う環境認証/低炭素住宅の建築需要増加による売上増加(海外)
木材建材、住宅、海外住宅・建築・不動産、資源環境、生活サービス
市場 顧客の脱炭素製品への志向シフト 【機会】
・木材コンビナートの製材・集成材工場を活用した国産木材需要/用途拡大による売上増加(木材建材)
・再生可能な原材料や製品に対する需要の増加に伴う、原木および立木の単価の高騰による売上増加(資源環境)
木材建材、住宅、海外住宅・建築・不動産、資源環境、生活サービス
原材料のコストアップ 【リスク】
・エネルギーコスト増に伴う原材料コスト増(木材建材)
木材建材、住宅、海外住宅・建築・不動産
技術 次世代技術の進展 【リスク】
・木材の競合となる鋼材やコンクリートの脱炭素化の研究・開発が進むことによる木材の需要減少に伴う売上減少(木材建材)
木材建材、住宅、海外住宅・建築・不動産、資源環境
物理リスク 急性 気象災害の激甚化 【リスク】
・木材以外の建材を使用した堅牢な建物の需要が高まり木造建築の需要が減少することによる売上減少(住宅)
・サプライチェーン被災による仕入値高騰に伴うコスト増(海外)
木材建材、住宅、海外住宅・建築・不動産、資源環境、生活サービス

※ 影響額が各事業部の経常利益の10%以上となるもの

全事業本部に関わる横断的課題と対応策

複数の事業に及ぶ財務影響への対応には全社的な取り組みが必要です。また、気候変動に加え、自然損失、人権課題、顧客の嗜好変化など持続可能な社会の実現にむけた国際的な動向や将来の市場予測などを踏まえて戦略的に取り組むべき項目を横断的課題として抽出しました。対応策の検討にあたっては、Mission TREEING2030で掲げるウッドサイクルにおける脱炭素事業の3本柱「森林」「木材」「建築」を念頭に、ウッドサイクル上での機会創出を追究しました。

横断課題・対応策とウッドサイクルとの関係

横断課題・対応策とウッドサイクルとの関係

全事業部合同で議論を行い特定した対応策案

ウッドサイクル
対応項目
横断課題 対応策
エネルギー 森林 脱炭素シフト需要に応じた森林供給の拡大 ・燃料用木材や高強度材等の脱炭素シフトに応じた樹種・森林開発
・地産地消の供給・需要開発(山元の確保・集約)
木材 バイオマス・バイオ燃料供給 ビジネスの拡大 ・豊富な森林資源や木質技術(木質系のSAF開発検討や実証プラントに挑戦していくことも検討)を活用し、廃棄可能性のある木質チップ・ペレットやバイオリファイナリー/SAF燃料用の用途拡大を図る
素材 木材 地域市況に応じた商材供給戦略 ・中大規模建築の脱炭素化設計スタンダード化の為に、ルールメイキング活動を実施・参画の上、地域毎の戦略を明確化し、保有する森林を選定/社有林での育成を行い、商材を開発する
木材・建築 木材のサーキュラー利用の促進 ・木材ライフサイクルを長期化しつつ、解体時の木材再利用可能範囲・可能性を向上させる観点で新たなプロダクトデザインを行うとともに、解体材の川崎チップ工場(バイオマス)以外での再利用範囲を拡大する
建築 建築 プロパティマネジメント(PM)
ファシリティマネジメント(FM)
・建築後のGHG排出削減のための建築物管理として、建築請負視点から拡大し、ストック型ビジネスの拡大を図る
建築 コミュニティ・タウンハウス開発 ・木材優位性とは別軸で環境配慮による訴求を図る
全体 森林・木材・建築 社内完結を含めたサプライチェーン強化 ・上流:資源戦略における森林ファンドの位置づけも踏まえ、サプライチェーン効率も考慮して社有林配置を決定
・中流:上流・下流のサプライチェーン要件に合わせ、生産・流通の拠点配置・経路を検討・設計
・下流:戸建新築、改修・リフォーム等それぞれのサプライチェーン要件を定めて部門間連携を行う
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