トップコミットメント

トップコミットメント

2030年に向けて変革を占う一年に

世界人口の半数、40億人超の人口を抱える国々で重要な国政選挙が行われる。英誌「エコノミスト」によると、2024年は未曽有の「選挙イヤー」となるそうです。年初の恒例となった世界経済フォーラムの「グローバルリスクレポート」重要度ランキングでは、今後10年間の長期リスクトップ3は異常気象、地球システムの危機的変化、生物多様性の損失と生態系崩壊で、天然資源不足、汚染も加えるとトップ10のうち半数が環境に関するもの。短期リスクにはフェイクニュースやサイバーテロ、社会の二極化、インフレーション、景気後退などが挙げられており、これらは各国の選挙争点にも様々に影響すると思われますが、持続可能な社会の構築に向けて環境関連への長期的取り組みは待ったなしです。
当社にとっては、2022年2月に公表した長期ビジョン「Mission TREEING 2030」に向けた中期経営計画Phase1の最終年度であり、同時に次期中計Phase2を策定する一年となります。5年目に入る自身の経営体制においても、未来から振り返ったときに節目となる重要な一年になると考えています。

ウッドサイクルで社会の脱炭素に貢献

SDGsの目標年でもある2030年に向けて当社グループのあるべき姿を事業構想に落とし込んだ長期ビジョン「Mission TREEING 2030」は、事業活動を通じて「地球環境」、「人と社会」、「市場経済」の価値それぞれを損なうことなく、より一層高めることで3つの価値を同時に満たすことを目指しています。事業方針の一つに「森と木の価値を最大限に活かした脱炭素とサーキュラーエコノミーの確立」を掲げており、まずは当社グループのバリューチェーンである「ウッドサイクル」の「森林」「木材」「建築」各分野でCO2吸収・固定量を増やす施策に焦点を当て取り組んできました。例えば温室効果ガス排出を2030年までに2017年度比54.6%削減するSBT目標では、紋別バイオマス発電所での石炭混焼率を大きく削減することでほぼ計画通りの削減を達成。この1月には、最新のSBTガイダンスに則り、短期・長期削減目標の再設定、およびFLAG(森林・土地および農業)目標も新たに申請しました。
加えて、以下にご紹介する取り組みは自社のみならず社会全体の脱炭素化に貢献するものと考えています。

「森林」分野では、「循環型森林ビジネスの加速」の加速を掲げ、2023年6月に米国で第一号森林ファンドを組成、運用を開始。これまでにニューヨーク州、バージニア州、ウェストバージニア州で計112,580エーカー(約45,600ヘクタール)の森林資産を取得しました。これは、2030年までに保有・管理森林面積を50万ヘクタールまで拡大を目指す一環で、日本および東南アジアでの2号ファンドの組成にも取り組んでいます。またインドネシアでは、カリマンタン島の泥炭地管理で培った技術を活かし、株式会社IHIと合弁で立ち上げた「NeXT FOREST」を通じて泥炭地植生回復プロジェクトのコンサルティング事業を推進すると同時に、熱帯泥炭地でのバイオマス成長量やCO2排出量測定法の標準化も目指しています。
「木材」分野では、木材の炭素固定機能や多様な価値を社会に訴求し木材利用を拡大すべく、木材コンビナート設立により国産材丸太の活用拡大と製品の安定供給を図ります。第一弾として昨年11月、福島県いわき市のいわき四倉中核工業団地内に、恒栄資材株式会社、和田木材有限会社と3社で国産スギを中心に製材や木材加工品を製造する「木環の杜(こわのもり)」を設立しました。2026年3月に新設工場の稼働を目指しています。
いずれも当社一社で実現できることではなく、他社との協働を進め、同時に業界のルールや規制など社会全体の変革が必要です。

建築の脱炭素設計の標準化に世界が動き出す

社会変革の観点からこの一年で最も進捗をみせたのは、当社が「脱炭素設計のスタンダード化」を掲げている「建築」の分野だと感じています。建設セクターは、設計、デザイン、素材、設備、施工などセクター内が細かく分かれており、これまで「Built Environment(構築環境)」として包括的に扱われてきませんでした。昨年ドバイで開かれたCOP28では、2030年までに建築分野のゼロエミッションとレジリエンスを一般化することを目標に、日本を含む28か国が「Building Breakthrough(BBT)」を発足。
これを受け、この3月にフランス・パリで「気候 グローバルフォーラム」が開催されました。世界70か国から各国政府や民間企業を含む関係機関のハイレベル級1,800人が参加し、建築分野の脱炭素化・気候変動へのレジリエンス化加速に向けた「シャイヨ宣言」が採択されたことは、世界のGHG排出量の4割近くを占めるセクターにとって大きな前進です。当社も登壇の機会を得、特に建築資材の原材料調達から加工、輸送、建築、廃棄時のGHG排出である「エンボディド・カーボン」削減に木材活用・木造建築が大きく貢献することを発信しました。
国土交通省も2030年までに「エンボディド・カーボン」の算定義務化の検討を開始しています。当社が日本単独代理店となったソフトウェア「One Click LCA」は国際標準ISOに準拠し、世界の環境認証にも適合したもので、環境認証ラベルEPDを取得した製品が算定に使用できるため、木材・建材メーカー各社の排出削減努力を反映することができます。デベロッパーやゼネコン、設計事務所からも「One Click LCA」が評価され始めており、国内での脱炭素設計の標準ツールを目指します。前述の「シャイヨ宣言」でも、建築分野にかかる全工程での排出量(ホールライフカーボン)に上限値を設け義務化することを掲げていますので、今後ますます木造建築への関心は高まっていくと考えています。

伸長する中大規模木造建築の市場を掴むべく海外では、昨年9月、豪州メルボルンで15階建て一部RC造の木造オフィスビルが竣工しました。今年は米国、英国でもそれぞれ木造オフィスビルが竣工予定です。国内では、株式会社熊谷組をはじめとするゼネコンとの木材ハイブリット建築の協業加速に加えて、不動産開発案件を通じた宿泊施設などの木造建築を推進しています。

「ネイチャーポジティブ」な社会に向けて

当社グループは、脱炭素への取り組みに加えて、森林資源をはじめとする自然資本の価値向上を図り、生物多様性にも配慮した事業運営を目指しています。TNFDが2023年9月に公表した開示提言に沿って、LEAPアプローチ(自然との接点、自然との依存関係、インパクト、リスク、機会など自然関連課題の評価のための統合的なアプローチ)での分析を行いました。限られた時間で5つの事業セグメントのうち4つに対し実施し、試験的に気候関連のリスク・機会を分析したTCFDの情報と統合した形での開示に挑戦しました。また2025年以降、財務情報と同時に開示することを目指す「TNFD Early Adopter」に登録しています。
2023年6月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が非財務情報の開示基準を公表したことを受け、国内での適応についてサステナビリティ基準委員会(SSBJ)がこの3月草案を公開。7月末までのパブリックコメントを経て2025年3月に決定、その後2025年4月1日以降に開始する事業年度から早期適用が可能となる見込みです。当面は、気候関連情報と人的資本に関する非財務情報が対象ですが、自然関連が追加されることは既定路線とされています。今後もTNFD提言に沿った分析・開示を進めていくとともに生物多様性、自然保全・回復に向けた取り組みを加速し、ネイチャーポジティブの実現へ貢献してまいります。

公正・信用を重んじ、多様で包摂的な組織づくりを

正確性が必須となる法定開示書類に非財務情報が織り込まれることで、グループ会社からの非財務データ収集の効率化が必須になっていきます。拡大する事業形態と事業展開地ごとの法令・規制等を見極めながら社内体制の整備、社員のコンプライアンス意識徹底をはかり、投資家にとって魅力ある情報開示を通じて当社事業の価値向上に努めてまいります。
社内の人財育成と人財確保の強化に向けては、新人事・評価制度を導入しました。優秀な人財を早期に抜擢できるようにするなど、組織の総合力を最大限に発揮することを目指した制度です。同時に多様な社員一人ひとりが健康でいきいきと活躍できる包摂的な組織・職場づくりを約束し、2021年の「健康経営宣言」とともに「DEI宣言」も行いました。
住友林業は1691年の創業以来、「自利利他公私一如」の考え方で自社のみならず社会全体への価値提供を目指してきました。住友林業グループ社員が一丸となり、国内外多くのビジネスパートナー、ステークホルダーとともに、持続可能で豊かな社会づくりに貢献してまいります。

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