トップコミットメント

写真:「木」を使い、森を守る。「木」を活かし、未来をつくる。代表取締役 社長 市川 晃

120年前に、荒れ果ててしまった山を蘇らせた歴史

サステナビリティ(持続可能性)への取り組み意識が、その歴史の中に息づいているのが、私たち住友林業です。

1691年、住友家が愛媛県・別子銅山を開坑したのに伴って、木材の伐採・調達を始めたことが、住友林業の始まりでした。

銅の精錬のためには当時、大量の木材を必要としました。時は、江戸時代から明治時代へと近代化が進む時代。産業の発展に伴って銅の需要が高まる中、山々では過剰伐採が進んでしまうことになります。そして銅山の開坑から200年。すっかり荒れ果ててしまった別子の山々を見て、立ち上がった経営者がいました。当時の別子支配人・伊庭貞剛です。

伊庭が進めたのは、大規模な植林でもとの青々とした山を蘇らせようという「大造林計画」でした。大地の恵みである銅で事業を営みながら、自然を荒れるに任せておくことはできない。山をもう一度、緑に戻そう、と民間初の森林経営計画をつくるのです。木材のために植林をするのであれば、あとで伐りやすいところだけに植林すればいいわけですが、違いました。山の頂から尾根、崖地に至るまで、多いときには年間200万本以上を植えていったのです。

手間をかけ、コストをかけ、しかも木が育つには時間がかかりますから、当時の経営陣には直接何のリターンもありません。ところが、そんなことは全く考えていませんでした。とにかく未来の世代のために、かつてのような緑の山に戻すことだけを考え先人たちは取り組みました。そして山々は時間をかけて再生されました。「国土報恩」という言葉と共に、住友の象徴的な歴史として共有されています。

今でこそCSR(企業の社会的責任)、ESG(環境・社会・ガバナンスなど財務面以外の取り組みや情報)といった言葉が当たり前に使われるようになりましたが、私たちの中では早くから、社会と事業の持続可能性が語り継がれてきました。この「国土報恩」の精神に基づく持続可能な森林経営、すなわち木を植え育て、伐って、使ってまた植えるという「保続林業」が、住友林業の事業の原点なのです。

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2018年、温室効果ガスの長期削減目標であるSBTを策定

これまでも住友林業は、社会や環境との関わりの中で、様々な取り組みを推し進めてきました。これは私たちに限らず日本企業全体がそうだと思いますが、「不言実行」や「陰徳を積む」ことを好みがちでした。善行は表に出すものではない、陰徳こそが日本人の美徳という考え方であったかと思います。これは素晴らしいものであることは言うまでもありません。

しかし、グローバル化が進んでいく中、この日本的な美徳感が経営の中身を分かりにくくさせているということに私たちも次第に気づいていくことになります。実際、海外でIR活動を行っていくと、「住友林業はこんなことまでやっていたのか」「もっと教えてほしかった」といった投資家からの声が数多く寄せられることになりました。今では、取り組みについてしっかりと開示し、情報発信し対話していくことが、企業の使命だと考えています。

不言実行ではなく、有言実行へ。持続可能性の観点から、現在もっとも注視されているのが気候変動の問題ですが、その取り組みに関しても目標設定を行い、様々な開示をしています。

住友林業は、2018年7月に、温室効果ガスの長期削減目標であるSBT(Science Based Targets)を策定、認定されました。そして目標を実現していくために、社内でしっかりコンセンサスを取り、長期目標であるSBTを、中期経営計画サステナビリティ編、単年度予算に折り込んで進捗を管理しています。

こうした取り組みを始めるには、企業経営では「ある程度、見通しがついてから」といったスタンスにもなりがちです。しかし、課題はもう見えていて、行動が求められているのです。実際、気候変動に対する取り組みについて、社内のガバナンス体制をきちんと整備し、その進捗を開示していくべきだ、という明確な提言が、金融安定理事会により設置されたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)からなされています。

企業経営は様々な事業環境変化にさらされていますが、気候変動による影響は、その不確実性の度合いが全く異なります。昨年10月にIPCCから出された1.5度特別報告書にもあるように、気温上昇のスピードも我々の予測を超えていました。迷っている時間はない。答えは、走りながら出していくもの、とにかく前を向いていこう、というのが私たちのスタンス。これからも迅速な取り組みを進めていきたいと考えています。

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再生可能エネルギーであるバイオマス発電を拡大

気候変動対策に関しては、特徴的な取り組みとしてバイオマス発電事業があります。温室効果ガス排出量の削減、さらには森林の価値を高め、林業振興に貢献するための事業参入でした。

第二次世界大戦の進行とともにエネルギーが枯渇し、日本中の山々で伐採が行われました。さらに戦争や自然災害で多くの木造建築物が焼失したことで木材不足が起こり、終戦後には「戦後復興のために木を植えよう」と国が補助金を大量に出して「拡大造林」が行われました。その後、円高もあり、海外の木材もたくさん入ってきましたが、今は日本の木が成長して、伐採期を迎えています。林野庁公表のデータから計算すると日本の森林の蓄積量はどんどん増えていて、直近の10年では年間約8,000万m³増加しているのに、使用されている木材は増加傾向にあるとはいえ2017年度で約3,000万m³。しかも3,000万m³を使うために、4,500万m³以上の木材が伐り出され、価格が合わないので利用されずに残材が放置されているのです。

その有効利用策としても、バイオマス発電事業は大きな意味があります。住友林業は、木の価値を高める取り組みを、あらゆる領域で進めていきたいと考えています。1本たりとも木を無駄にしない。伐った木はとことん使い切る。そしてまた植える。木は、それができる資源なのです。

建築廃材等を主燃料とした都市型のバイオマス発電所を川崎に開設したのは、2011年2月のことです。以来、社有林がある北海道紋別周辺の山々から集める林地未利用木材を主燃料とした、山間地型のバイオマス発電所を紋別に開設、さらに北海道の苫小牧、青森県の八戸でも運転を開始しました。2021年に福岡県に苅田バイオマスエナジーが稼働すると、これらの発電規模は合計で約177MWとなり、約37万世帯分相当の電力供給ができるようになります。

バイオマス発電における住友林業の何よりの強みは、山に放置された木を調達するネットワークを持っていることです。長年の木材事業のベースを活かし、広く日本の各地から、さらには海外の木質燃料も有効に利用することができます。

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インドネシア・カリマンタン島では、泥炭地での大規模植林を

一方、気候変動の原因の一つとして、世界の森林減少が挙げられています。この領域でも住友林業は国内外での森林管理・経営や木材流通を通じて持続可能性への取り組みを進めています。

私たちは自社の木造住宅で使う以上に、様々なお客様にお届けするために世界中から木材を調達しています。調達方針を策定し、木材調達委員会を設置して合法性や伐採地までのトレーサビリティを確認するなど、持続可能性についても調査しています。森林減少の原因として、違法伐採に加え、近年は保護価値の高い天然林を切り開き、林業経営よりも収益性が高いオイルパーム農園などにする「農地転用」が課題になっています。持続可能な木材や木材製品に対して適切な評価を行い、その価値を高めることは、山を持っている人たちにとっても、森林を適切に保有・維持し、整備するインセンティブになります。

同時に、私たち自身も国内で所有している社有林での森林経営・管理に留まらず、海外でも森林づくりを推し進めてきました。ニュージーランド、パプアニューギニア、またインドネシアで大規模植林を行っています。

例えばインドネシアの西カリマンタン州は泥炭地が多いのですが、荒廃し農業にも適さない泥炭地で植生回復および林業経営を行うには、地下水位を適切にコントロールする高度な技術が求められます。泥炭地は昔の植物資源が未分解のまま堆積している土地で、中には膨大な炭素が閉じ込められています。泥炭地そのものが可燃物であるため、焼き畑など、人為的な火が使われた場合に火災を引き起こすリスクが高まります。泥炭地に火災が発生した場合、温暖化ガスである二酸化炭素を大気中に大量に放出するため、大きな問題になっています。

住友林業は、この西カリマンタン州で、政府に施業の許可を受けた地域で現地のパートナーと共に、泥炭地での植林の管理・運営を新しく開発した水位管理技術で行っています。林業用に開発したこの水位管理の技術は、農業にも応用することができます。林業・農業をまたいで、広い意味での持続可能な土地利用をデザインすることで、森林減少、ひいては気候変動への緩和策と、食糧問題の解決に向けた貢献ができると考えています。

西カリマンタン州での取り組みは、インドネシア政府の泥炭地施業のパイロット事業として認められ、2017年、2018年のCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)でも優良事例として発表の機会を得ました。アフリカのコンゴ共和国から泥炭地の管理をしている担当大臣や国際機関の代表が現地に視察に訪れるなど、世界から注目を集めています。

特に海外での森林づくりに関しては、林業として経済的に成り立つようにしなければいけないと考えています。そうでなければ、森林を無作為に農地に転用してしまいかねない。自然と共生しながら、産業としてサステナブルに残していく。これが私たちの目標です。

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木の需要を増やすことが、気候変動対策につながる

2019年5月に発表した新たな中期経営計画では、基本方針の3つ目に「木を活かす研究開発・技術革新の加速」を掲げました。ESGと大きく関わるテーマです。バイオ技術、木造高層建築の技術開発、ICT技術を活用した住宅・建築事業や林業の省力化・効率化推進を目指しており、その目的達成のひとつとして筑波研究所の新研究棟を設計しました。

今、この新研究棟を中心に、創業350周年を迎える2041年に、350メートルの木造超高層ビルを実現させるため、研究技術開発構想「W350計画」を進めています。木の付加価値を最大限に高め、持続可能な管理をされている木材をたくさん使うことは、循環型経済を推し進め、環境にも大きく貢献できます。

木は成長するときに二酸化炭素を吸収し、大気中に酸素を供給するわけですが、この活動が盛んなのは、木が若くどんどん成長する時なのです。つまり、大事なことは、成熟した木を伐って使い、木を伐ったあとには新しい木を植えていくこと。この木が成長するときに、また二酸化炭素を吸収、炭素として固定してくれる。未来の世代のためにも、今、新しい木を植え、この循環をもっともっと増やしていく。だからこそ、木を積極的に使うことが大切なのです。

間違えてはいけないのは、こうして使って循環させていく森と、先の熱帯林のように守るべき森とを混同してはいけないということです。しっかり区別して、考えなければいけない。

これができていないから、誤解も生まれてしまいます。実際、日本の子どもたちに「木を伐ることは、環境に良いことか、悪いことか」と問うと、多くの子どもたちから「悪いこと」という答えが返ってきます。日本の教育の中では、木を伐ることは、イコール自然を破壊するようなイメージが刷り込まれてしまっているのだと思います。

実はヨーロッパの子どもたちは、そうではありません。森林資源を循環させることの大切さをよく知っています。例えば、スウェーデンでは、100年の森という言葉があります。100年経ったら、この木を使って本を作る、と子どもたちは語ります。もちろんその後は植林をし、次の100年に向けて森を育んでいく事は言うまでもありません。

私たち日本人も、子どもたちに、日本の今ある山の4割は人が植えてきた木であり、人が植えた森は、人がきちんと最後まで管理しないといけない、ということをしっかり教えていく必要があります。環境づくりは、人づくりから。その循環をつくり出すことが大切なのです。

しかし、日本では住宅をはじめ木の需要が減っています。そこで我々が推し進めているのが、木材の需要を高めることなのです。バイオマス発電事業のチップ供給もそうですが、戸建住宅以外の建物の木造化・木質化を進める「木化事業」です。この技術を進化させていけば、大きなビルも木造化できる。そうすれば、木材をたくさん使い、環境共生にもなる。木を活かし、新しい未来をつくっていく。こうした動きを、社会全体で起こしていきたいのです。

そのためには、森林経営から流通、建築などに至るまで、川上から川下までの全てにおいてイノベーションが必要になります。コスト競争力のある木造の高層建築物を建てるためには、やらなければいけないことがたくさんある。そこで、オープンイノベーションの場として立ち上げたのが、「W350計画」でした。未来の環境木化都市こそ、私たちの目標です。

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多様な人財が働きやすい環境をつくる

こうした様々な取り組みですが、その担い手となるのは、住友林業グループで働く人財です。日本では、労働人口の減少という課題もあり、様々な人財が活躍できる環境を整えることが急務になっています。そこで2013年、私が署名する形で「女性活躍推進宣言」を出しました。

女性と銘打っていますが、女性だけのことを言っているわけではなく、価値観や年齢、性別、国籍、宗教、障がいなどにとらわれない多様な人財が働きやすい環境をつくる。そのような意味で、ダイバーシティの象徴として「女性活躍」という言葉を使いました。

子育てに取り組んでいる社員もいますし、家族を介護している社員もいます。「ダイバーシティ推進」「働き方改革」の両輪で、社員一人ひとりが生活者としての充実を図りながら、いきいきと活躍できる環境づくりを推し進めていきたいと考えています。

冒頭で住友林業の歴史について語りましたが、私たち住友林業の社員は全員、あの「大造林計画」が実行された別子の山を見に行きます。実際に山を歩き、どうやってこの山が蘇ったのか、当時の人たちに思いを馳せます。サステナブルな社会をつくるために。住友林業は、その実現に向けて、全社一丸となって取り組みを進めてまいります。

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