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TCFD・TNFDへの対応
TCFD・TNFDへの賛同表明
気候変動や生物多様性など自然環境の変化は、森と木を軸に事業を展開している住友林業グループの企業業績に様々な形で影響を及ぼします。このため住友林業グループはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)など国際イニシアティブにいち早く対応してきました。
2017年のTCFD提言を受け、住友林業グループは翌年7月、同提言へ賛同を表明、同年9月からは環境省の支援事業の一環で初めてのTCFDシナリオ分析を実施しました。
一方、TNFDに関しては、2019年5月のG7環境大臣会合で立ち上げが呼びかけられて以降、正式にタスクフォースおよびフォーラムが設立されるまで2年余りかかりましたが、2022年3月にTNFDフレームワークβ版v0.1が公表されると、利用者のフィードバックを反映させながら同年11月にはv0.3が公表されました。住友林業はこのv0.3を活用して、グループ内で最もデータ蓄積が進んでいる木材調達の分野において試行分析を実施し、2023年4月公表のサステナビリティレポート2023で結果を開示しました。また、TNFDから最終提言(v1.0)が同年9月に公表された後の12月、同提言へのアーリーアダプタ―としての登録を表明しました。
TCFD・TNFDに関する当社の対応(年表)
tcfd | 世の中の動き | TNFD |
---|---|---|
2017年 6月 TCFDが提言を発表 |
||
2018年 7月TCFD提言へ賛同表明 9月 TCFDシナリオ分析1回目実施 対象は下記2事業本部 木材建材事業本部 住宅・建築事業本部 |
||
2019年 7月 サステナビリティレポート等でTCFD提言に基づいた情報開示を初実施 |
||
2021年 10月 TCFDシナリオ分析2回目実施 対象は下記2事業本部 資源環境事業本部 海外住宅・不動産事業本部 |
2021年 6月 TNFDが設立される |
|
2022年 5月 2回目のTCFDシナリオ分析の結果をまとめ、開示 |
2022年 3月 TNFDがβ版v0.1を公表 |
2022年 2月 TNFDフォーラムに参加 |
9月
TCFDシナリオ分析3回目実施 グループ内の全事業を対象に横断的に実施 |
11月 TNFDがβ版v0.3を公表 |
12月
TNFDフレームワークβ版v0.3に基づく LEAP分析を試行 |
2023年 4月 TCFDシナリオ分析の結果をまとめ、開示 |
2023年 9月 TNFDが最終提言を発表 |
2023年 4月 TNFD分析結果を開示 12月 TNFD Early Adopterに登録 TNFD・LEAP分析実施 |
2024年 1月 TNFDがダボス会議で Early Adopterを公表 |
2024年 4月 TNFD・LEAP分析の結果をまとめ、開示 |
2024年
- 次期中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 2」(2025年~2027年)にTCFDシナリオ分析、
TNFD・LEAP分析の分析結果を織り込む
2025年以降
- 次期中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 2」(2025年~2027年)をスタート
- KPIの進捗を管理
- TCFDシナリオ分析、TNFD・LEAP分析の分析対象の拡大・深化
本レポートの作成にあたり、TCFD提言とTNFD提言の開示推奨項目を参照し、全ての項目において情報開示に努めました。
TCFD提言とTNFD提言の開示推奨項目
ガバナンス | 戦略 | (C)リスクマネジメント
(N)リスクと影響の管理 |
測定指標とターゲット |
---|---|---|---|
気候関連のリスクと機会及び自然関連の依存、影響、リスクと機会の組織によるガバナンスについて開示する | 気候関連のリスクと機会及び自然関連の依存、影響、リスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に与える影響について、その情報が重要である場合は開示する | 気候関連のリスクの特定、評価、マネジメント及び自然関連の依存、影響、リスクと機会の特定、評価、優先順位付け、監視のプロセスを説明する | 重要な気候関連のリスクと機会の評価とマネジメント及び重要な自然関連の依存、影響、リスク、機会を評価、管理するために使用している測定指標とターゲットを開示する |
開示推奨項目 | 開示推奨項目 | 開示推奨項目 | 開示推奨項目 |
---|---|---|---|
A. 気候関連のリスクと機会及び自然関連の依存、影響、リスクと機会に関する取締役会の監督について説明する
B. 気候関連のリスクと機会及び自然関連の依存、影響、リスクと機会の評価・管理における経営者の役割について説明する C. (N) 自然関連の依存、影響、リスクと機会に関する組織の評価と対応において、先住民族、地域社会、影響を受けるステークホルダー、その他のステークホルダーに関する組織の人権方針とエンゲージメント活動、及び取締役会と経営陣による監督について説明する |
A. 組織が特定した気候関連のリスクと機会、及び、自然関連の依存、影響、リスクと機会を短期、中期、長期ごとに説明する
B. 気候関連のリスクと機会、及び、自然関連の依存、影響、リスクが、組織の事業(N)、バリューチェーン、戦略、財務計画に与えた影響を説明する。(N)移行計画や分析について説明する C.気候関連と自然関連のリスクと機会に対する組織の戦略のレジリエンスについてさまざまなシナリオを考慮して説明する。(C)シナリオには2℃以下のシナリオを含む D. (N) 組織の直接操業において、及び可能な場合は上流と下流のバリューチェーンにおいて、優先地域に関する基準を満たす資産、及び/又は、活動がある地域を開示する |
A.(C)気候関連リスクを特定し、評価するための組織のプロセスを記述する
(N) 直接操業における、自然関連の依存、影響、リスクと機会を特定し、評価し、優先順位付けするための組織のプロセスを説明 (N) 上流と下流のバリューチェーンにおける、自然関連の依存、影響、リスクと機会を特定し、評価し、優先順位付けするための組織のプロセスを説明する B. 気候変動関連のリスク、及び、自然関連の依存、影響、リスクと機会を管理するための組織のプロセスを説明する C. 気候関連リスク、及び、自然関連リスクの特定、評価、管理のプロセスが組織全体のリスク管理にどのように組み込まれているかについて説明する |
A. 組織が戦略とリスク管理プロセスに沿って、気候変動、及び、自然関連のリスクと機会を評価し、管理するために使用している測定指標を開示する
B.(C)スコープ1、スコープ2、該当する場合はスコープ3のGHG排出量と関連するリスクを開示する (N)自然に対する依存と影響を評価し、管理するために組織が使用している測定指標を開示する C. 気候関連のリスクと機会及び組織が自然関連の依存、影響、リスクと機会を管理するために使用しているターゲットと目標、それらと照合した組織のパフォーマンスを記載する |
※TCFD提言とTNFD提言に記載の項目を統合して作成
※統合できないものは、TCFD提言のみで開示推奨されている項目を(C)、TNFD提言のみで開示推奨されている項目を(N)とした
ガバナンス
気候変動、自然関連課題への対応は、執行役員社長を委員長として、執行役員兼務取締役及び各事業本部長から構成されるESG推進委員会を中心に推進しています。ESG推進委員会は、住友林業グループの持続可能性に関わる中長期的なESG課題に対するリスク・機会の分析や取り組みの立案・推進、SDGs達成に貢献する事業戦略を織り込んだ中期経営計画サステナビリティ編の進捗管理、行動指針・倫理規範などの運用状況と有効性のモニタリングを行うとともに、委員会での全ての活動は取締役会に報告・答申され、業務執行に反映されています。
自然関連課題への取り組みで重視される先住民族、地域社会、影響を受けるステークホルダー、その他ステークホルダーなど当社グループの事業に関わるあらゆる人々について、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」など国際標準に準拠して策定した「住友林業グループ人権方針」において人権尊重を掲げており、同様にESG推進委員会で状況を運用・管理し取締役会に報告・答申されています。
また2022年2月、事業とESGのさらなる一体化の推進に向け役員報酬制度の一部内容を改定し、サステナビリティ指標達成率連動報酬を導入しています。住友林業が SBT(Science Based Targets)に認定された温室効果ガス排出削減の長期目標が達成できなかった場合は、標準株式報酬額から目標達成状況に応じて支給される報酬額が減額される仕組みです。同時に公表した長期ビジョン「Mission TREEING 2030」では、中期経営計画 「Mission TREEING 2030 Phase 1」(2022 年~ 2024 年)、中期経営計画サステナビリティ編を編成し、進捗管理を行っています。
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戦略
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書は、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がないと明言し、その結果、極端な気象を引き起こして発生の頻度も増すこと、温室効果ガスの排出が氷床、海面水位の変化に強く関係していることなどを指摘しています。また、2020年1月に世界経済フォーラムが公表したレポート「自然関連リスクの増大-自然を取り巻く危機がビジネスや経済にとって重要である理由-」によると、世界のGDPの半分以上にあたる44兆ドルが自然そのもの、あるいは自然がもたらすサービスに中~高程度に依存しており、自然の損失は特に農林水産業、建設業に大きな影響を与えるとされています。国際社会では2020年を基準年として自然の損失を止め、2030年までに反転、2050年までに完全回復させる「ネイチャーポジティブ」という考え方が提唱されています。
こうした背景から、CO2吸収・炭素固定の機能や生態系サービスを提供する森林の役割、持続可能な森林から供給される木材及び木材製品、木造建築による炭素固定・温室効果ガス排出量削減、林地未利用木材のバイオマス燃料としての活用などに社会からの期待はますます高まっています。
2022年2月にはSDGsの目標年でもある2030年に向けて住友林業グループのあるべき姿を事業構想に落とし込んだ長期ビジョン「Mission TREEING 2030」を公表しました。「Mission TREEING 2030」では事業方針として、1.森と木の価値を最大限に活かした脱炭素化とサーキュラーバイオエコノミーの確立、2.グローバル展開の進化、3.変革と新たな価値創造への挑戦、 4.成長に向けた事業基盤の改革を掲げています。この長期ビジョンを達成するために、「地球環境への価値」、「人と社会への価値」、「市場経済への価値」、いずれの価値も損なうことなく、また、それぞれの価値を高めることにより、3つの価値を同時に満たすことを目指しています。
住友林業グループは、川上の森林経営から川中の木材・建材の製造・流通、川下の木造建築や再生可能エネルギー事業を通じて自然資本から生み出される再生可能な資源である森林資源を有効に活用し、「公益的価値」を提供することによりカーボンニュートラルでネイチャーポジティブな社会の実現に貢献します。
長期ビジョン 「Mission TREEING 2030」の第一段階として、将来の成長と脱炭素化への貢献に向けた基盤を作る3年間の中期経営計画 「Mission TREEING 2030 Phase 1」(2022年~ 2024年)を公表。2024年度はその最終年度にあたり、同時に2025年度からスタートする「Mission TREEING 2030 Phase 2」(2025年~2027年)を策定します。サーキュラーバイオエコノミーの構築を通じネイチャーポジティブへの貢献の形を明らかにしていきます。
リスク・影響の管理
住友林業グループでは、事業リスクについては、各部署で具体的な対応策や評価指標を取り決めて、進捗を四半期ごとに「リスク管理委員会」に報告しています。リスク管理委員会は執行役員社長をリスク管理最高責任者として、経営企画部・人事部・法務部・ITソリューション 部・サステナビリティ推進部の担当執行役員及び各主管者、並びに各事業本部の本部長及び管理担当部長で構成されています。
また、ESG課題に対する中長期リスクについては執行役員社長を委員長として、執行役員兼務取締役及び各事業本部長から構成される年4回開催されるESG推進委員会でバリューチェーン全体について包括的に協議しています。なお、2024年度より年6回の定期開催としています。
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事業リスクの管理プロセス
ESG課題に対する中長期リスクの管理プロセス
測定指標とターゲット
住友林業グループでは、気候変動に関連した長期目標を策定したうえで、中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 1」(2022年~2024年)及び年度計画に落とし込みながら取り組みを推進しています。2017年にSBTを策定することを宣言し、グループ全体での新たな温室効果ガス排出量削減目標を策定、2018年7月に、SBTとして認定されています。2021年9月には、取り組みを加速させるために、2030年を目標年としたスコープ1、2の温室効果ガス排出量削減目標を従来の 21%削減から54.6%削減に引き上げ、SBT事務局へ申請を行いました。また、2024年1月には最新のSBTガイダンスに則り、短期・長期削減目標の再設定、およびFLAG(森林・土地および農業)目標も新たに申請しました。今年度中に認定される見込みです。
さらに、2020年3月、使用する電力の100%再生可能エネルギー化を目指した国際的なイニシアティブ RE100に加盟、2040年までに自社グループの事業活動で使用する電力と発電事業における発電燃料を100%再生可能エネルギーにすることを目指して、再生可能エネルギーの活用及び温室効果ガス削減の取り組みを加速させています。 2022年2月に公表した中期経営計画サステナビリティ編2024では、事業本部ごとに再エネ調達比率の目標を設定し、設備投資など必要な予算措置を講じ、着実にRE100達成に向け、取り組みを推進していきます。
また、TNFD最終提言が定めるグローバル中核開示指標とセクター中核開示指標に対応するデータ開示を行っています。
TCFD・TNFDへの対応
気候変動の住友林業グループへの影響(TCFDシナリオ分析)
2018年、2021年、2022年にそれぞれ実施したTCFDシナリオ分析※結果は、毎回、ESG推進委員会に報告され、サステナビリティレポートで開示しています。また、2024年度中に策定される次期中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 2」(2025年~2027年) において各事業本部・本社部門の数値目標として反映します。
※TCFDシナリオ分析:気候変動の対策が進まない4℃シナリオと脱炭素に向けた変革が進展する1.5/2℃シナリオに基づいて2030年の状況を考察
設定シナリオ | 4℃シナリオ | 1.5/2℃シナリオ | |
---|---|---|---|
社会像 | 現状を維持して経済発展を優先させ、世界の温度上昇とその影響が悪化し続けるシナリオ | 社会全体が脱炭素に向けて大きく舵を切り、温度上昇の抑制に成功するシナリオ | |
参照シナリオ | 移行面 | Stated Policies Scenario(IEA) | Sustainable Development Scenario(IEA) Net Zero Emissions by 2050(IEA) |
物理面 | SSP5-8.5(IPCC) | SSP1-2.6(IPCC) SSP1-1.9(IPCC) |
|
リスク・機会 | 物理面におけるリスク・機会が顕在化しやすい | 移行面におけるリスク・機会が顕在化しやすい |
出所:IPCC AR5, AR6、SR1.5, IEA WEO 2020, Net Zero Emission by 2050から作成
出所:IPCC SR1.5、AR6 WG1 SPMから作成
自然関連課題の住友林業グループへの影響(TNFD・LEAP分析)
2023年末から2024年にかけ、本社部門、事業部門のメンバーからなるワーキンググループを組成し、自然への依存・影響、リスク・機会に関するLEAPアプローチ※による分析を実施。その結果を2024年3月に取りまとめました。なお、同アプローチの各プロセスで使用したツールはいずれもTNFDが推奨するものです。その分析結果は各事業本部が2024年度中に策定する次期中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 2」(2025年~2027年)へ反映する予定です。
※LEAPアプローチ:TNFDが開発した、事業における自然との接点や自然との依存関係、影響、リスク、機会など自然関連課題を評価するための統合的なアプローチ。「Locate:発見」「Evaluate:診断」「Assess:評価」「Prepare:準備」というプロセスで構成
住友林業のビジネスと自然の関係(例)
※1ネガティブな影響:開発による一時的な土壌の劣化
ポジティブな影響:適切な管理による森林生態系サービスの強化
※2リスク:植林地での土砂崩れ
機会:生態系サービスのマネタイズ機会、木材製品の付加価値向上
優先拠点の特定(Locate:発見)
Locateのプロセスでは、住友林業グループのサプライチェーンを俯瞰して各拠点の自然との接点を調べ、対応を優先すべき拠点を特定しました。
まず、自然との接点が特に大きいと考えられる4つの事業(木材建材事業、住宅事業、建築・不動産事業、資源環境事業)を対象に、各事業における直接操業とサプライチェーン上下流の拠点から拠点数が特定の事業に偏らないように148拠点を評価対象として選定しました。
事業 セグメント |
事業 | 上流 | 直接操業 | 下流 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
対象・情報源 | 分析対象 拠点数 |
対象・情報源 | 分析対象 拠点数 |
対象・情報源 | 分析対象 拠点数 |
||
木材建材 事業 |
製造 | サプライヤーリスト | 4 | 自社の製造工場 | 12 | 販売先:住宅事業と同じ、また大半が他社のため分析対象外 | ‒ |
流通 | サプライヤーリスト | 4 | 分析対象外 | ‒ | 販売先:分析対象外 | ‒ | |
住宅事業 | 戸建注文
・分譲 |
サプライヤーリスト | 4 | 自社の区画が多い分譲住宅エリア | 8 | 使用:分析対象外
廃棄:処分量が多い処分場 |
10 |
リフォーム | 戸建注文・住宅と同じ | ‒ | 受注金額1億円以上の拠点 | 5 | 使用:分析対象外
廃棄:戸建注文・分譲と同じ |
‒ | |
緑化 | 資材のサプライヤーリスト | 8 | 面積の大きい環境緑化対象の緑地 | 20 | 使用:分析対象外
廃棄:戸建注文・分譲と同じ |
‒ | |
建築・不動産事業 | 戸建・分譲住宅 | 建築資材のサプライヤーリスト | 6 | 米国(16州)、豪州(5州)の戸建・分譲住宅エリア | 29 | 使用:分析対象外
廃棄:最終処分はスコープ外 |
‒ |
FITP | サプライヤーリスト | 2 | パネル工場 | 5 | 使用:戸建・分譲住宅と同じ | ‒ | |
不動産開発 | 建築資材のサプライヤーリスト | 1 | インドネシア・タイの開発事業 | 2 | 使用:分析対象外
廃棄:最終処分はスコープ外 |
‒ | |
資源環境 事業 |
国内社有林 | 木材建材事業のサプライヤーリストを利用 | ‒ | 国内社有林(日向、紋別、新居浜) | 14 | 使用:自社の木材建材事業へ販売のため対象外 | ‒ |
海外森林
管理 |
‒ | 海外森林管理(ニュージーランド、パプアニューギニア、インドネシア) | 5 | 使用:主な販売先 | 2 | ||
バイオマス発電 | ‒ | バイオマス発電所 | 6 | 廃棄:主な取引先 | 1 | ||
計 29 | 計 106 | 計 13 |
次に、地理情報システム(GIS)等を用いて拠点の位置情報と、自然関連リスク分析ツールであるENCORE※1等を用いて生態系情報を重ね、評価しました。その結果、上記148拠点のうち、財務的に重要な拠点、あるいは生態学的に繊細なエリアに位置する拠点を絞り込みました。
財務的に重要な拠点(図「優先エリアの区分」のB)については、ENCOREによる評価項目の1つ以上が非常に高く、かつ各事業に占める売上や取引額の割合が10%以上で有事の際に1年以内に代替が困難と考えられる拠点であることを基本的な判定基準として、実態を踏まえて選定しました。
生態学的に繊細なエリアに位置する拠点(図「優先エリアの区分」のC)については、各拠点が位置する生態系の繊細さを、ENCOREやIBAT※2等を用いて、5要件(①生物多様性の重要性、②生態系の高い完全性、③生態系の完全性の急速な減少、④生態系サービスの提供重要性、⑤物理的な水リスク)を5段階のスコア(1~5)で評価し、5要件の平均スコアが4以上となる拠点を選出しました。
※1ENCORE:Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposureの略。自然資本分野の国際金融業界団体Natural Capital Finance Alliance他が開発した自然関連リスク分析ツール
※2IBAT:Integrated Biodiversity Assessment Toolの略。国連環境計画の世界自然保護モニタリングセンター他が世界の生物多様性情報を統合して開発した生物多様性統合評価ツール
優先エリアの区分
その結果、優先的に対応していく必要のある「優先拠点37拠点」として特定しました。また、財務的に重要かつ生態学的に繊細なエリアに位置する優先拠点(図「優先エリアの区分」のA)としてインドネシアの海外森林管理「ワナ・スブル・レスタリ(WSL)、マヤンカラ・タナマン・インダストリ(MTI)、クブ・ムリア・フォレストリ(KMF)」と、製造工場の「クタイ・ティンバー・インドネシア(KTI)」の2拠点を特定しました。
特定された優先拠点と各拠点が位置する生態系の繊細さのスコア
生物多様性 の重要性 |
生態系の完全性(高い完全性) | 生態系の完全性(急速な減少) | 生態系サービスの提供重要性 | 物理的な 水リスク |
総合評価 | |
---|---|---|---|---|---|---|
WSL/MTI/KMF | 4 | 5 | 5 | 3 | 5 | 4.4 |
KTI | 4 | 3 | 5 | 3 | 5 | 4.0 |
生態学的に繊細なエリアの評価基準と使用した分析ツール
生態学的に繊細なエリアの要件 | 概要 | 評価に使用したツール※1 | |
---|---|---|---|
①生物多様性の重要性
Biodiversity Importance |
生物多様性が重要な地域(保護区、科学的に重要とされる地域、絶滅危惧種が存在する地域等) | World Database on Protected Area(WDPA):世界中の陸域や海洋の保護地域などを包括的にまとめたデータベース Key Biodiversity Area(KBA):科学的に生物多様性の重要性があると認められた地域 IUCN Red List of Threatened Species:世界中の絶滅危惧種をまとめたもの |
|
生態系の完全性Ecosystem Integrity | ②高い完全性※2
High Integrity |
生態系の完全性(生態系の構成、構造、機能が自然の変動範囲内にある度合い)が高い地域 | Biodiversity Intactness Index:世界中の各地点における生態系の完全性を0から1で示す指標 IUCN Red List of Ecosystem database:生態系面積と生態系の完全性に関するデータを統合し、生態系の崩壊リスクの傾向を地理的にまとめたもの |
③急速な減少※2
Rapid Decline |
生態系の完全性が急速に失われることで生態系サービス提供の回復力が低下している地域 | Biodiversity Intactness Index:生態系の完全性を表す指標であり、国別の時系列における変化を生態系の完全性の変化を用いて評価(指標に関しては同上) | |
④生態系サービスの提供重要性※2
Ecosystem Service Delivery Importance |
先住民族コミュニティや地域社会を含む生態系サービス提供が重要な地域 | ENCORE:生態系サービスを提供する上で重要な自然資本の減少・枯渇のホットスポットを地点ごとに示すマップ LANDMARK:先住民や地域住民をはじめ世界中の各地点における土地の所有情報などをプラットフォーム化したもの |
|
⑤物理的な水リスク
Water Physical Risk |
水利用の制限、洪水、水質の悪化など物理的に水リスクが高い地域 | Aqueduct:各地点における水量、水質、風評リスクなど13の水リスク指標を組み合わせて総合的な水リスクスコアを算出したもの |
※1TNFDのLEAPガイダンスに記載のツールからデータの利用可否、評価対象の自然資本等をもとに総合的に評価基準を抜粋
※2②高い完全性、④生態系サービスの提供重要性については、拠点の周辺に50kmバッファーを設定し、評価用データセットとの重なりの有無を面的に判定。③急速な減少については、海外森林管理・経営を本格化した2000年を基準年とし、2023年を比較年とした
※上表はGuidance on the identification and assessment of nature-related issues: The LEAP approach v1.0等を基に作成
※面的な広がりを持つ社有林は、地理的な塊毎に重心と30~50kmのバッファーを設定し、バッファーに含まれない飛び地には個別に重心を設けて分析し、よりリスクの高い結果を優先してその結果を統合
優先拠点の診断(Evaluate:診断)
Evaluateのプロセスでは、優先拠点37拠点における当社グループ事業の自然への依存と影響を評価しました。Locateのプロセスで得たENCOREの結果、そしてAqueductやIBAT等の分析ツールから地域特性を踏まえて、優先拠点ごとの依存と影響を定性的に評価しました。影響は、分析ツールのほか事業を通じた自社の知見も加え、ポジティブ・ネガティブの両面で評価しました。その主な診断結果は下記の通りです。
事業セグメント | 依存 | ポジティブな影響 | ネガティブな影響 |
---|---|---|---|
木材建材事業 | 森林生態系による木材供給サービス 土壌保持・洪水防止サービス |
(生産活動が主であるため該当なし) | 原木調達に伴う周辺森林の改変や土壌劣化 製造工場からの排水による周辺水域への水質汚染 |
住宅事業、
建築・不動産事業 |
土壌保持・土砂災害防止サービス | 住宅・施工敷地内での自然共生の機能強化(緑化、保水・透水舗装、生物多様性に対する取り組み等)による生態系サービス(雨水涵養、水質浄化、生息地提供)の維持・向上 | 分譲地開発に伴う廃棄物排出、水資源利用、外来生物種の侵入 |
資源環境事業 | 森林生態系による表層水・土壌の供給サービス 発電燃料の原材料供給サービス(木材、PKS※、石炭) 蒸気タービン方式発電に用いる地表水の供給サービス |
持続可能な森林・泥炭地管理による生態系サービス(炭素貯蔵、水循環、防災、生息地提供)の維持・向上 発電事業における木質チップ利用による木質資源需要の下支えが地域の持続可能な森林管理を促進 |
森林に依存するコミュニティの生活への影響 樹木伐採による動植物の生息地分断 発電施設に起因する廃棄物排出や水質・大気汚染 |
※PKS:Palm Kernel Shellの略。パーム椰子殻のこと
専門家からのコメント
住友林業グループが2023年12月から2024年2月までに実施したTNFD・LEAP分析のLocate(発見)、Evaluate(診断)の絞り込みの過程を外部ステークホルダーの専門家に報告し、アドバイスを得ました。
■WWFジャパン 金融グループ長 橋本 務太 様
木材調達において長年、自然に対する悪影響を回避することを目指した調達方針を運用し、SBT for Natureが推奨するネイチャーポジティブ達成に向けた行動のフレームワーク(AR3T)に沿った開示となっています。自然関連の機会ではビジネスとの関連が現時点で明確なものを多く挙げているが、より広範に自然が回復すること自体をネイチャーポジティブの機会ととらえ抽出し、今後それらをビジネス機会に繋げていくことが期待されます。
■公益財団法人 地球環境戦略研究機関 生物多様性と森林領域 上席研究員 山ノ下 麻木乃 様
気候変動対策と生物多様性と生態系サービスの保全が相互依存的であることが学術的に認識されている中で、TCFDとTNFDそれぞれに対応するビジネスの観点からの分析プロセスにおいて共通する分析結果が出たこと、そしてこれらを統合的に報告するという住友林業の取り組みは、大変興味深いと思いました。さらなる分析を進める際には、シナジーに加えトレードオフも考慮する必要性が生じるかもしれません。また、TNFDが紹介するデータベース等では表現されない、住友林業が海外の森林管理事業等で蓄積してきた事業地の自然関連の情報や現場での経験を、今後のTNFD・LEAP分析において活用し、対応策を実施していくことが、真のネイチャーポジティブにつながると考えます。
特定した主なリスク・機会 (Assess:評価)
Assessのプロセスでは、Evaluateのプロセスで診断した自然への依存と影響から生じる事業上のリスクと機会を明らかにし、それぞれ定性的な評価を行い、主なものを特定しました。まず特定の事業に偏らないよう優先拠点からまんべんなく選定した25拠点を対象としてリスク・機会の分析を行い、すでに対応している内容を踏まえ、残存するリスクと獲得可能性のある機会の優先度を定性的に評価しました。
残存するリスクについては、事業における財務的な影響を「影響の大きさ」、過去事例と既存の取り組みの有無を「発生確率」という基準で定性的に優先度を評価しました。獲得可能性のある機会については、2030年までの市場規模の増加額※を「事業の魅力度」、その機会獲得における当社の優位性を「自社の強み」という基準で定性的に優先度を評価しました。
影響の大きさ | 発生確率 | ||
---|---|---|---|
定義 | 事業における財務的影響 (拠点の売上と代替可能性) |
過去の類似の発生事例と既存取り組みの有無 | |
基準 | 大 | 事業本部の売上の10%以上に影響 | 過去に発生しているが既存の取り組みがない |
中 | 10%以下だが、1年以内には代替困難/ 10%以上だが、1年以内に代替可能 |
過去に発生しているが既存の取り組みがある/ 過去に発生しておらず既存の取り組みがない |
|
小 | 1年以内に代替可能 | 過去に発生しておらず既存の取り組みがある |
事業の魅力度 | 自社の強み | ||
---|---|---|---|
定義 | 2030年までの市場規模の増加額※ | 機会獲得における当社の優位性 | |
基準 | 大 | 30兆円~ | 関係リソースを有しており、既存の取り組みがある |
中 | 5兆円~30兆円 | 関係リソースを有しているが既存の取り組みがない/ 関係リソースを有していないが既存の取り組みがある |
|
小 | ~5兆円 | 関係リソースを有しておらず既存の取り組みがない |
※2020年7月にAlphaBeta社が発行した「INDENTIFYING BIODIVERSITY THREATS AND SIZING BUSINESS OPPORTUNITIES」と同年同月に世界経済フォーラムが発行した「New Nature Economy Report II: The Future of Nature and Business」をもとに試算
昨年までに実施したTCFDシナリオ分析で特定された主な機会とリスク、今回のTNFD・LEAP分析で特定された主な機会とリスクは下記の通りです。
住友林業グループの事業の核である森と木は、成長に伴い大気中の炭素を吸収固定すると同時に、生物多様性を育み、生態系サービスを供給する機能も持ちます。そうした特徴からTCFDシナリオ分析、TNFD・LEAP分析では複数の項目で共通又は類似する分析結果が出ており、住友林業グループの事業においては、脱炭素に向けた取り組みが自然関連の事業機会も拡大させる関係にあることが示唆されました。
事業 本部※1 |
事業 | 移行リスク | 物理的リスク | 機会 | |
---|---|---|---|---|---|
木材建材事業 | 木材・建材の流通・製造 | C |
炭素税の導入、環境規制強化によるコスト増加 再造林コスト上昇による木材調達のコスト増加 |
災害の激甚化による堅牢な建物への嗜好の高まりを受けた木材価値低下、売上減少 |
環境規制強化に伴う環境配慮型住宅への改修需要増加、木材建材の売上増加 環境配慮型住宅や中大規模建築向け資材加工技術の開発による売上増加 |
C ・ N |
違法・持続可能でない森林伐採に関連する法規制の厳格化への対応によるコスト増加 脱炭素化推進などに向けた木材製品の需要増加に伴う、木材調達価格の高騰によるコスト増加 |
大雨等の水害の激甚化に伴う、または操業停止による売上減少及び復旧コスト増加 工場近隣の植林地の土砂災害発生に伴う、操業停止による売上減少及び復旧コスト増加 調達先の災害や生態系の劣化に伴う、木材供給量の減少による調達コスト増加 |
バイオリファイナリー技術及び新製品開発による売上増加 マスティンバー市場向けの新製品開発による売上増加 建築市場のサーキュラーエコノミー化に資する新製品開発による売上増加 |
||
N |
土壌・水質汚染に関する法規制の厳格化への対応コスト増加 周辺生態系に影響を及ぼすエリアでの林道整備に伴う、地域コミュニティ・NGOとの軋轢の発生による売上減少 廃棄物・水利用・土壌汚染、土地改変による保護区等への影響に伴う、訴訟発展や法規制の厳格化への対応コスト増加 |
周辺地域の水の利用可能量の減少に伴い、使用可能な水が減少することによる売上減少 地震発生時の火災・地盤沈下・津波・土砂災害に伴う、操業停止による売上減少 噴火発生時の火災・火山灰に伴う、操業停止による売上減少 |
天然木から植林木への転換による調達コスト減少 製造工程でのさらなる節水や水利用の削減・効率化による水調達コスト削減 住民参加型の木材生産(社会林業)に伴う、安定した原料調達の維持によるコスト減少 |
||
住宅事業 | 注文住宅、分譲住宅、緑化(日本国内) | C |
短期的にはLCCM住宅※2や中大規模建築の技術開発コスト、建築コスト増加 鋼材やコンクリート等建築資材の脱炭素化技術の進展により長期的かつ相対的に木材価値が低下し、木造建築物の売上減少 |
災害の激甚化による堅牢な建物への嗜好の高まりを受けた木造戸建の売上減少 |
脱炭素志向の高まりを受けたLCCM住宅の需要増加、売上増加 顧客嗜好や政策変化等による環境配慮型集合住宅などの売上増加 |
C ・ N |
― |
災害リスク増大に伴う、施工遅延による売上減少 災害リスク増大に伴う、保険会社への保険料支払いコスト増加 |
住宅・施工敷地内での自然共生の機能強化(緑化、保水・透水舗装、生物多様性に対する取り組み等)に伴う、プレミアム価格での販売による売上増加 | ||
N |
廃棄物・水利用・土壌汚染による周辺のコミュニティや生態系へ悪影響を与えることに伴う、法規制の厳格化への対応によるコスト増加 騒音・振動対策、粉じん対策、自生種を使用した植栽等、生態系への影響の低い技術の導入遅れに伴う、対策費用増加によるコスト増加 |
― |
廃棄物の発生抑制、有価物化推進による産業廃棄物の処理コスト減少 生態系への影響を低減した緑地管理(農薬や肥料の使用量削減、剪定強度の緩和等)によるコスト減少(例:グリーンキーピング) 指定管理業務において公園内の希少種植物、自生種の特定・保護、環境教育事業の展開による利用者の増加に伴う委託元企業からの信頼向上及び長期契約の実現による売上増加 |
||
建築・不動産事業 | 戸建事業(海外)、 建材製造(米国)、 不動産開発(日本、海外) | C |
炭素税の導入、環境規制強化によるコスト増加 環境規制対応の遅れによるブランド価値棄損、株価低迷、売上減少 |
災害の激甚化による、建築物損壊、工期延長やサプライチェーン途絶による資材調達コスト増加 災害リスクが少ないエリアへの需要シフトによる開発地確保の競争激化 |
顧客の脱炭素志向の高まりを受け、環境配慮型住宅の需要拡大 投資家や金融機関のESG需要を受け、中大規模木造建築市場が拡大 |
C ・ N |
脱炭素化推進などに向けた木材製品の需要増加に伴う、木材調達価格の高騰によるコスト増加 | 自然災害リスクの増大に伴う、工事中物件の保険料支払いコスト増加 | 住宅・施工敷地内での自然共生の機能強化(緑化、保水・透水舗装、生物多様性に対する取り組み等)に伴う、自然環境を重視する新規顧客獲得による売上増加 | ||
N |
環境負荷低減技術の導入遅れに伴う、汚染対策コスト増加 生態系に与える影響を低減する技術(騒音・振動対策、粉じん対策、自生種を使用した植栽等)の導入遅れに伴う対策コスト増加 |
― |
建築時の効率的な建築手法(パネル化・トラス化)の促進によるコスト減少 廃材を再利用した新製品開発による売上増加 認証木材の調達、リサイクル材の使用、工場での認証取得に伴う、顧客からの評判向上による売上増加 |
||
資源環境事業 | 森林経営、苗木生産、バイオマス発電 | C |
森林保護政策強化による出材減少 炭素税導入、環境規制強化に伴う省エネ重機導入コスト増加 |
降水・気象パターン変化による路網損壊、道路補修コスト増加 平均気温の上昇による森林火災増加、木材調達と再造林のコスト増加 |
顧客の脱炭素志向による原木・立木の需要増加 脱炭素政策強化による再エネ需要増加、バイオマス由来のエネルギー事業の売上増加 |
C ・ N |
木質バイオマス原料・PKSの認証取得推進に関する政策導入に伴う、法規制の厳格化への対応によるコスト増加 木質バイオマス原料・PKSの需要増加・競争激化に伴う、燃料費の高騰によるコスト増加 持続可能な木材への需要高まりに伴う、さらなる森林経営方法変更によるコスト増加 効率的かつ高度な林業技術の導入遅れによるコスト増加 |
森林火災・土砂災害に伴う、操業停止による売上減少 | 森林・泥炭地管理、森林ファンド運営の推進に伴う、カーボンクレジットの創出による売上増加 | ||
N |
先住民族や地域住民の権利を侵害した木材生産に対する地域コミュニティ・NGOからの批判に伴う、計画外停止による売上減少 生態系への影響が少ない木質バイオマス燃料の導入遅れに伴う売上減少/コスト増加 |
― |
リモートセンシング・ドローン調査・衛星利用等の森林管理技術の販売による売上増加 森林の公益的機能(地下水涵養、生息地提供、土砂災害防止等)の恩恵を受ける企業・自治体からの支払いプログラム開発(PES)による売上増加 産業ツーリズム、エコツーリズム商品(伝統知識や文化を活用した商品の販売等)の提供による売上増加 焼却灰の有価物化推進による産業廃棄物処理のコスト減少 生物多様性クレジットのルールメイキング参画を通じたクレジット市場推進による売上増加 |
||
生活サービス事業 | 老人ホーム運営・保険業ほか | C | ガソリン車から電気自動車へのシフトに伴うガソリンカード事業の売上減少 |
災害の激甚化による、保有施設の改修・BCP対応コスト増加 気温上昇に伴う保有施設の利用顧客減少、安全配慮コスト増加 |
災害の激甚化による保険加入者、契約期間短縮、更新頻度増加、売上増加 顧客の再エネ志向に伴う「スミリンでんき」の契約数増加 顧客の脱炭素志向、災害の激甚化に伴う安心安全志向対応による顧客獲得 |
(C):TCFDシナリオ分析のみで特定された項目
(C・N):TCFDシナリオ分析とTNFD・LEAP分析のどちらでも特定された項目
(N):TNFD・LEAP分析のみで特定された項目
※1生活サービス事業はTCFDシナリオ分析のみの実施
※2LCCM住宅:建設時、居住時、解体時において省CO2に取り組み、さらに太陽光発電などを利用した再生可能エネルギーの創出により、建設時も含めライフサイクル全体でのCO2収支をマイナスにする住宅
財務影響分析(TCFDシナリオ分析、TNFD・LEAP分析)
TCFDにおいて、事業ごとの分析により特定されたリスク・機会のうち、複数の事業に影響があり、特に大きな財務的影響を受ける事業とその項目は下記の通りです。炭素税導入に関連する事業コスト増加や環境規制、気象災害の激甚化は木材建材事業を含めて全事業本部に影響を及ぼす一方、顧客の脱炭素志向の高まりは資源環境事業を含めて全事業本部で機会となることが明らかとなりました。
項目 | 特に影響が大きい項目※ | 関連事業 | ||
---|---|---|---|---|
移行リスク | 政策・法規制 | カーボンプライシングの導入 | 【リスク】
炭素税賦課や排出権取引制度の導入による事業コスト増加(木材建材、資源環境) |
木材建材、住宅、建築・不動産、資源環境、生活サービス |
森林保護に関する政策 | 【リスク】
伐採税・伐採手数料などの支払いによる木材調達コスト増加(木材建材、資源環境) 再造林の義務化等による再造林コストが転嫁されることに伴う国産材コスト増加(木材建材) |
木材建材、資源環境 | ||
環境規制の導入 | 【リスク】
各国政府が中古車の利用に対する規制を実施することにより、重機やトラックの導入コスト増加(資源環境) 【機会】
建物に関する規制の強化に伴う環境認証/低炭素住宅の建築需要増加による売上増加(海外) |
木材建材、住宅、建築・不動産、資源環境、生活サービス | ||
市場 | 顧客の脱炭素製品への志向シフト | 【機会】
木材コンビナートの製材・集成材工場を活用した国産木材需要/用途拡大による売上増加(木材建材) 再生可能な原材料や製品に対する需要の増加に伴う、原木および立木の単価の高騰による売上増加(資源環境) |
木材建材、住宅、建築・不動産、資源環境、生活サービス | |
原材料のコストアップ | 【リスク】
エネルギーコスト増加に伴う原材料コスト増加(木材建材) |
木材建材、住宅、建築・不動産 | ||
技術 | 次世代技術の進展 | 【リスク】
木材の競合となる鋼材やコンクリートの脱炭素化の研究・開発が進むことによる木材の需要減少に伴う売上減少(木材建材) |
木材建材、住宅、建築・不動産、資源環境 | |
物理的リスク | 急性 | 気象災害の激甚化 | 【リスク】
木材以外の建材を使用した堅牢な建物の需要が高まり木造建築の需要が減少することによる売上減少(住宅) サプライチェーン被災による仕入値高騰に伴うコスト増加(海外) |
木材建材、住宅、建築・不動産、資源環境、生活サービス |
※影響額が各事業本部の経常利益の10%以上となるもの
TNFDにおいて、定性的な評価結果から特定された残存する主なリスクは71件、獲得可能性のある主な機会は36件で、そのうち、下記の定性的な評価基準に基づき、「影響の大きさ」「発生確率」で優先度が高いと評価されたリスクは30件、「事業の魅力度」「自社の強み」で優先度が高いと評価された機会は34件でした。
また、上記のうち、下表のリスク8件、機会11件について財務的影響の定量化を試みました。この中には、現時点では定量化ができないもの、定量化が未完了のものも含みます。
残存するリスクの中では、例えば、木材建材事業において、気候変動による内水氾濫リスクが高まり製造拠点が操業停止するというシナリオの下、「直接操業の4拠点の操業停止による売上減少及び復旧コスト増加」という財務的影響が大きいと示されました。
獲得可能性のある機会の中では、例えば、同じ木材建材事業において、カーボンニュートラルとネイチャーポジティブ達成に向けた手段として世界で木材利用促進が政策として推進されるというシナリオの下、「CLT等のマスティンバー市場に関する新製品開発による売上増加」という財務的影響が大きいと示されました。
なお、シナリオについては、既に実施しているTCFDの物理的リスクに関するシナリオ分析を一部活用しており、今後、本格的にTNFDについてもシナリオ分析を実施する予定です。
項目(リスク) | 財務的影響の定量化を試みた項目 | 事業 | 影響の大きさ | 発生確率 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
移行リスク | 政策 | 原材料調達の変化 | 認証取得推進に関する政策導入に伴う、法規制の厳格化への対応によるPKSの調達コスト増加 | 短~中期 | 資源環境(バイオマス発電) | 大 | 中 |
法的責任 | 環境規制の導入 | 違法・持続可能でない森林伐採に関連する木材の使用に対する、法規制の厳格化への対応によるコスト増加 | 短期 | 木材建材(製造、流通) | |||
市場 | 原材料調達の変化 | 木質バイオマス原料・PKSの需要増加・競争激化に伴う、燃料費の高騰によるコスト増加 | 短~中期 | 資源環境(バイオマス発電) | |||
物理的リスク | 急性 | 災害発生 | 大雨等の水害の激甚化・頻発化に伴う、操業停止による売上減少及び復旧コスト増加 | 短~長期 | 木材建材(製造) | ||
工場近隣の植林地の土砂災害発生に伴う、操業停止による売上減少及び復旧コスト増加 | 長期 | 木材建材(製造) | |||||
慢性 | 災害発生 | 自然災害リスクの増大に伴う、工事中物件の保険料支払いコスト増加 | 短~中期 | 住宅(戸建注文)、建築・不動産(戸建・分譲住宅) | |||
周辺地域の土地改変に伴う、建設基盤の脆弱化・自然災害リスク増大による施工遅延による売上減少 | 長期 | 建築・不動産(戸建・分譲住宅、不動産開発) | |||||
原材料調達の変化 | 調達先の災害や生態系の劣化に伴う、木材供給量の減少による調達コスト増加 | 長期 | 木材建材(製造) |
項目(機会) | 財務的影響の定量化を試みた項目 | 事業 | 事業の魅力度 | 自社の強み | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
ビジネスパフォーマンス | 市場 | コンサル市場の拡大 | 国内の自然共生サイトコンサルの販売による売上増加 | 短~中期 | 資源環境(国内社有林) | 中 | 大 |
クレジット市場の拡大 | 生物多様性クレジットのルールメイキング参画を通じたクレジット市場推進による売上増加 | 中~長期 | 資源環境(国内社有林、海外森林管理) | ||||
木材製品市場の変化 | バイオリファイナリー・CLT・廃材の再利用等の新製品開発による売上増加 | 中~長期 | 木材建材(製造) | ||||
製品・サービス | 木材製品市場の変化 | リモートセンシング・ドローン調査・衛星利用等の森林管理技術の販売による売上増加 | 短~中期 | 資源環境(国内社有林、海外森林管理) | |||
NbSの普及 | 産業ツーリズム、エコツーリズム商品の提供による売上増加 | 中~長期 | 資源環境(国内社有林) | 大 | 中 | ||
森林の公益的機能の恩恵を受ける企業・自治体からの支払いプログラム開発(PES)による売上増加 | 短~長期 | 資源環境(国内社有林、海外森林管理) | |||||
資源効率 | 資源利用効率化へのシフト | 製造工程でのさらなる節水や水利用の削減・効率化による水調達コスト削減 | 中~長期 | 木材建材(製造) | 中 | 大 | |
天然木から植林木への転換によるコスト減少 | 中~長期 | 木材建材(製造) | |||||
建築時の効率的な建築手法(パネル化・トラス化)の促進によるコスト減少 | 中~長期 | 建築・不動産(不動産開発) | |||||
焼却灰の有価物化推進による産業廃棄物処理のコスト減少 | 短期 | 資源環境(バイオマス発電) | |||||
レピュテーション | グリーンインフラの普及 | 住宅・施工敷地内での自然共生の機能強化(緑化、保水・透水舗装、生物多様性に対する取り組み等)に伴う、自然環境を重視する新規顧客獲得による売上増加 | 中~長期 | 建築・不動産(戸建・分譲住宅、不動産開発)、住宅(戸建注文) |
※いずれも直接操業拠点におけるリスクと機会で、定量化できたものを網掛けした
※発現する期間は短期を現在から2024年(Mission Treeing 2030 Phase 1)、中期を2025年から2030年(Mission Treeing 2030 Phase 2以降)、長期を2031年から2050年として設定
住友林業グループの対応策(Prepare:準備)
2022年末から2023年にかけて全事業本部を対象に実施したTCFDシナリオ分析においては事業ごとの分析で特定されたリスク・機会の中で複数の事業に影響がある事項を抽出し、そのうち特に重要なものを横断課題として設定し、全事業本部合同で対応策を検討しました。
TCFDにおける横断課題・対応策とウッドサイクルとの関係
全事業部合同で議論を行い特定した対応策案
ウッドサイクル 対応項目 |
横断課題 | 対応策 | |
---|---|---|---|
エネルギー | 森林 | 脱炭素シフト需要に応じた森林供給の拡大 | 燃料用木材や高強度材等の脱炭素シフトに応じた樹種・森林開発 地産地消の供給・需要開発(山元の確保・集約) |
木材 | バイオマス・バイオ燃料供給ビジネスの拡大 | 豊富な森林資源や木質技術(木質系のSAF開発検討や実証プラントに挑戦していくことも検討)を活用し、廃棄可能性のある木質チップ・ペレットやバイオリファイナリー/SAF燃料用の用途拡大を図る | |
素材 | 木材 | 地域市況に応じた商材供給戦略 | 中⼤規模建築の脱炭素化設計スタンダード化のために、ルールメイキング活動を実施・参画のうえ、地域毎の戦略を明確化し、保有する森林を選定/社有林での育成を⾏い、商材を開発する |
木材・建築 | 木材のサーキュラー利用の促進 | 木材ライフサイクルを長期化しつつ、解体時の木材再利用可能範囲・可能性を向上させる観点で新たなプロダクトデザインを行うとともに、解体材の川崎チップ工場(バイオマス)以外での再利用の範囲を拡大する | |
建築 | 建築 | プロパティマネジメント・ファシリティマネジメントの強化 | 建築後のGHG排出削減のための建築物管理として、建築請負の視点から拡大し、ストック型ビジネスの拡大を図る |
建築 | コミュニティ・タウンハウス開発 | 木材優位性に加えて環境配慮の観点から訴求を図る | |
全体 | 森林・木材・建築 | 社内完結を含めたサプライチェーン強化 | 上流:資源戦略における森林ファンドの位置づけも踏まえ、サプライチェーン効率も考慮して社有林の配置を決定 中流:上流・下流のサプライチェーン要件に合わせ、生産・流通の拠点配置・経路を検討・設計 下流:戸建新築、改修・リフォーム等それぞれのサプライチェーン要件を定めて部門間連携を行う |
TNFD・LEAP分析では、既に実施しているTCFDの物理的リスクに関するシナリオ分析を一部活用しています。次期中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 2」(2025年~2027年)でのネイチャーポジティブな事業の推進を見据え、今後、本格的にTNFDについてもシナリオ分析を実施する予定です。
特定した優先度の高いリスクと機会への主な施策としては、以下が挙げられます。
リスク・機会 | 施策案 | ||
---|---|---|---|
木材建材事業 (製造) |
リスク | 大雨等の水害の激甚化に伴う、内水氾濫のリスクが高い4拠点SRP、ASTI 、RPI、VECOにおける、操業停止による売上減少及び復旧コスト増加 | 操業地の選定時に洪水リスクを考慮し、防災対策を強化する 大規模な災害発生時の事業継続計画(BCP)を策定し、迅速な復旧体制を整える |
建築・不動産事業(FITP) | 機会 | 廃材を再利用した新製品の開発・資源利用の効率化技術開発等による売上増加・コスト減少 | 静脈産業と連携した、資源を有効活用した製品開発を進め、市場での差別化を図る |
資源環境事業 (国内社有林、 海外森林管理) |
機会 | リモートセンシング・ドローン調査・衛星利用等のスマート林業技術の販売による売上増加 | 最新のリモートセンシング・ドローン調査・衛星技術を活用し森林の健康状態や資源量の正確な把握をサポートするサービスパッケージを開発し、森林管理の効率化と精度向上を提案する サービスパッケージについて地方自治体や大規模な社有林を持つ企業を対象としたマーケティング活動を展開する |
資源環境事業 (バイオマス発電) |
リスク | 未利用材チップ・輸入PKSの需要増加・競争激化に伴う、紋別バイオマス発電所、八戸バイオマス発電所における燃料費の高騰によるコスト増加 | 代替燃料や新しい供給源の開発により、原料調達の多様化を図る 長期契約や先物契約を活用し、燃料費の変動リスクを管理する |
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