TCFD・TNFDへの対応

TCFDシナリオ分析

気候変動の住友林業グループへの影響(TCFDシナリオ分析)

気候変動については、気候変動の対策が進まない4℃シナリオと脱炭素に向けた変革が進展する「1.5 / 2℃シナリオ」に基づいて2030年の状況を考察し、財務面のインパクト評価を行い、特に重要なリスク及び機会について対応策を協議しました。
2018年、2021年、2022年にそれぞれ実施したTCFDシナリオ分析結果は、毎回、ESG推進委員会に報告され、サステナビリティレポートで開示しています。また、中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 2」(2025年~2027年) において各事業本部・本社部門の数値目標として反映しています。

TCFDシナリオ分析:気候変動の対策が進まない4℃シナリオと脱炭素に向けた変革が進展する1.5 / 2℃シナリオに基づいて2030年の状況を考察

設定シナリオ 4℃シナリオ 1.5 / 2℃シナリオ
社会像 現状を維持して経済発展を優先させ、世界の温度上昇とその影響が悪化し続けるシナリオ 社会全体が脱炭素に向けて大きく舵を切り、温度上昇の抑制に成功するシナリオ
参照シナリオ 移行面 Stated Policies Scenario(IEA) Sustainable Development Scenario(IEA)
Net Zero Emissions by 2050(IEA)
物理面 SSP5-8.5(IPCC) SSP1-2.6(IPCC)
SSP1-1.9(IPCC)
リスク・機会 物理面におけるリスク・機会が顕在化しやすい 移行面におけるリスク・機会が顕在化しやすい

出所:IPCC AR5, AR6、SR1.5, IEA WEO 2020, Net Zero Emission by 2050から作成

出所:IPCC  SR1.5、AR6 WG1 SPMから作成

出所:IPCC SR1.5、AR6 WG1 SPMから作成

特定した主なリスク・機会

事業
本部※1
事業 移行リスク 物理的リスク 機会

木材建材事業

木材・建材の流通・製造

C

炭素税の導入、環境規制強化によるコスト増加

再造林コスト上昇による木材調達のコスト増加

災害の激甚化による堅牢な建物への嗜好の高まりを受けた木材価値低下、売上減少

環境規制強化に伴う環境配慮型住宅への改修需要増加、木材建材の売上増加

環境配慮型住宅や中大規模建築向け資材加工技術の開発による売上増加

C

N

違法・持続可能でない森林伐採に関連する法規制の厳格化への対応によるコスト増加

脱炭素化推進などに向けた木材製品の需要増加に伴う、木材調達価格の高騰によるコスト増加

大雨などの水害の激甚化に伴う、または操業停止による売上減少及び復旧コスト増加

工場近隣の植林地の土砂災害発生に伴う、操業停止による売上減少及び復旧コスト増加

調達先の災害や生態系の劣化に伴う、木材供給量の減少による調達コスト増加

バイオリファイナリー技術及び新製品開発による売上増加

マスティンバー市場向けの新製品開発による売上増加

建築市場のサーキュラーエコノミー化に資する新製品開発による売上増加

住宅事業

注文住宅 分譲住宅 緑化(日本国内)

C

短期的にはLCCM住宅※2や中大規模建築の技術開発コスト、建築コスト増加

鋼材やコンクリートなど建築資材の脱炭素化技術の進展により長期的かつ相対的に木材価値が低下し、木造建築物の売上減少

災害の激甚化による堅牢な建物への嗜好の高まりを受けた木造戸建の売上減少

脱炭素志向の高まりを受けたLCCM住宅の需要増加、売上増加

顧客嗜好や政策変化などによる環境配慮型集合住宅などの売上増加

C

N

災害リスク増大に伴う、施工遅延による売上減少

災害リスク増大に伴う、保険会社への保険料支払いコスト増加

住宅・施工敷地内での自然共生の機能強化(緑化、保水・透水舗装、生物多様性に対する取り組みなど)に伴う、プレミアム価格での販売による売上増加

建築・不動産事業

戸建事業(海外)  建材製造(米国)  不動産開発(日本 海外)

C

炭素税の導入、環境規制強化によるコスト増加

環境規制対応の遅れによるブランド価値棄損、株価低迷、売上減少

災害の激甚化による、建築物損壊、工期延長やサプライチェーン途絶による資材調達コスト増加

災害リスクが少ないエリアへの需要シフトによる開発地確保の競争激化

顧客の脱炭素志向の高まりを受け、環境配慮型住宅の需要拡大

投資家や金融機関のESG需要を受け、中大規模木造建築市場が拡大

C

N
脱炭素化推進などに向けた木材製品の需要増加に伴う、木材調達価格の高騰によるコスト増加 自然災害リスクの増大に伴う、工事中物件の保険料支払いコスト増加 住宅・施工敷地内での自然共生の機能強化(緑化、保水・透水舗装、生物多様性に対する取り組みなど)に伴う、自然環境を重視する新規顧客獲得による売上増加

資源環境事業

森林経営 苗木生産 バイオマス発電

C

森林保護政策強化による出材減少

炭素税導入、環境規制強化に伴う省エネ重機導入コスト増加

降水・気象パターン変化による路網損壊、道路補修コスト増加

平均気温の上昇による森林火災増加、木材調達と再造林のコスト増加

顧客の脱炭素志向による原木・立木の需要増加

脱炭素政策強化による再エネ需要増加、バイオマス由来のエネルギー事業の売上増加

C

N

木質バイオマス原料・PKSの認証取得推進に関する政策導入に伴う、法規制の厳格化への対応によるコスト増加

木質バイオマス原料・PKSの需要増加・競争激化に伴う、燃料費の高騰によるコスト増加

持続可能な木材への需要高まりに伴う、さらなる森林経営方法変更によるコスト増加

効率的かつ高度な林業技術の導入遅れによるコスト増加

森林火災・土砂災害に伴う、操業停止による売上減少 森林・泥炭地管理、森林ファンド運営の推進に伴う、カーボンクレジットの創出による売上増加

生活サービス事業

老人ホーム運営・保険業ほか

C ガソリン車から電気自動車へのシフトに伴うガソリンカード事業の売上減少

災害の激甚化による、保有施設の改修・BCP対応コスト増加

気温上昇に伴う保有施設の利用顧客減少、安全配慮コスト増加

災害の激甚化による保険加入者、契約期間短縮、更新頻度増加、売上増加

顧客の再エネ志向に伴う「スミリンでんき」の契約数増加

顧客の脱炭素志向、災害の激甚化に伴う安心安全志向対応による顧客獲得

(C):TCFDシナリオ分析のみで特定された項目
(C・N):TCFDシナリオ分析とTNFD・LEAP分析のどちらでも特定された項目

※1生活サービス事業はTCFDシナリオ分析のみの実施

※2LCCM住宅:建設時、居住時、解体時において省CO2に取り組み、さらに太陽光発電などを利用した再生可能エネルギーの創出により、建設時も含めライフサイクル全体でのCO2収支をマイナスにする住宅

財務影響分析

TCFDにおいて、事業ごとの分析により特定されたリスク・機会のうち、複数の事業に影響があり、特に大きな財務的影響を受ける事業とその項目は下記の通りです。炭素税導入に関連する事業コスト増加や環境規制、気象災害の激甚化は木材建材事業を含めて全事業本部に影響を及ぼす一方、顧客の脱炭素志向の高まりは資源環境事業を含めて全事業本部で機会となることが明らかとなりました。

項目 特に影響が大きい項目 関連事業
移行リスク 政策・法規制 カーボンプライシングの導入 【リスク】
炭素税賦課や排出権取引制度の導入による事業コスト増加(木材建材、資源環境)
木材建材、住宅、建築・不動産、資源環境、生活サービス
森林保護に関する政策 【リスク】

伐採税・伐採手数料などの支払いによる木材調達コスト増加(木材建材、資源環境)

再造林の義務化などによる再造林コストが転嫁されることに伴う国産材コスト増加(木材建材)

木材建材、資源環境
環境規制の導入 【リスク】

各国政府が中古車の利用に対する規制を実施することにより、重機やトラックの導入コスト増加(資源環境)

【機会】
建物に関する規制の強化に伴う環境配慮型住宅への改修需要の高まりへの対応による売上増加(住宅)

建物に関する規制の強化に伴う環境認証 / 低炭素住宅の建築需要増加による売上増加(海外)

木材建材、住宅、建築・不動産、資源環境、生活サービス
市場 顧客の脱炭素製品への志向シフト 【機会】

木材コンビナートの製材・集成材工場を活用した国産木材需要 / 用途拡大による売上増加(木材建材)

再生可能な原材料や製品に対する需要の増加に伴う、原木および立木の単価の高騰による売上増加(資源環境)

木材建材、住宅、建築・不動産、資源環境、生活サービス
原材料のコストアップ 【リスク】
エネルギーコスト増加に伴う原材料コスト増加(木材建材)
木材建材、住宅、建築・不動産
技術 次世代技術の進展 【リスク】
木材の競合となる鋼材やコンクリートの脱炭素化の研究・開発が進むことによる木材の需要減少に伴う売上減少(木材建材)
木材建材、住宅、建築・不動産、資源環境
物理的リスク 急性 気象災害の激甚化 【リスク】

木材以外の建材を使用した堅牢な建物の需要が高まり木造建築の需要が減少することによる売上減少(住宅)

サプライチェーン被災による仕入値高騰に伴うコスト増加(海外)

木材建材、住宅、建築・不動産、資源環境、生活サービス

影響額が各事業本部の経常利益の10%以上となるもの

住友林業グループの対応策

2022年末から2023年にかけて全事業本部を対象に実施したTCFDシナリオ分析においては事業ごとの分析で特定されたリスク・機会の中で複数の事業に影響がある事項を抽出し、そのうち特に重要なものを横断課題として設定し、全事業本部合同で対応策を検討しました。

TCFDにおける横断課題・対応策とウッドサイクルとの関係

TCFDにおける横断課題・対応策とウッドサイクルとの関係

全事業部合同で議論を行い特定した対応策案

ウッドサイクル
対応項目
横断課題 対応策
エネルギー 森林 脱炭素シフト需要に応じた森林供給の拡大

燃料用木材や高強度材などの脱炭素シフトに応じた樹種・森林開発

地産地消の供給・需要開発(山元の確保・集約)

木材 バイオマス・バイオ燃料供給ビジネスの拡大 豊富な森林資源や木質技術(木質系のSAF開発検討や実証プラントに挑戦していくことも検討)を活用し、廃棄可能性のある木質チップ・ペレットやバイオリファイナリー / SAF燃料用の用途拡大を図る
素材 木材 地域市況に応じた商材供給戦略 中⼤規模建築の脱炭素化設計スタンダード化のために、ルールメイキング活動を実施・参画のうえ、地域毎の戦略を明確化し、保有する森林を選定 / 社有林での育成を⾏い、商材を開発する
木材・建築 木材のサーキュラー利用の促進 木材ライフサイクルを長期化しつつ、解体時の木材再利用可能範囲・可能性を向上させる観点で新たなプロダクトデザインを行うとともに、解体材の川崎チップ工場(バイオマス)以外での再利用の範囲を拡大する
建築 プロパティマネジメント・ファシリティマネジメントの強化 建築後のGHG排出削減のための建築物管理として、建築請負の視点から拡大し、ストック型ビジネスの拡大を図る
コミュニティ・タウンハウス開発 木材優位性に加えて環境配慮の観点から訴求を図る
全体 森林・木材・建築 社内完結を含めたサプライチェーン強化

上流:資源戦略における森林ファンドの位置づけも踏まえ、サプライチェーン効率も考慮して社有林の配置を決定

中流:上流・下流のサプライチェーン要件に合わせ、生産・流通の拠点配置・経路を検討・設計

下流:戸建新築、改修・リフォームなどそれぞれのサプライチェーン要件を定めて部門間連携を行う

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