組織培養による苗木増殖

5年の歳月を経て、“醍醐の花見”を後世につなぐ

豊臣秀吉も贅を尽くした“醍醐の花見”、組織培養による苗⽊増殖によって“太閤しだれ桜”を後世へ

京都の山科盆地にある醍醐寺は、貞観16年(874)に理源大師聖宝(832~909)によって開かれて以来、真言宗醍醐派の総本山として、常に歴史の表舞台で重要な役割を果たしてきた有名な寺院です。1994年に世界文化遺産に登録された200万坪以上の広大な境内を持つ寺院で、豊臣秀吉による「醍醐の花見」の行われた地としても知られています。
総本山醍醐寺の「醍醐の桜」で有名な桜の子孫である「太閤しだれ桜」は、樹勢が衰え枯死の危険性がありました。住友林業はその樹勢回復と後継樹種の研究に1999年から取組み、2004年3月バイオテクノロジーを用いてシダレザクラを組織培養により増殖し開花させることに世界で初めて成功しました。増殖した苗は2004年11月には醍醐寺境内に移植し、翌年4月に無事開花しました。「太閤千代しだれ®」と名づけられたこの桜は親木と並んで毎年花を付け訪れる方を楽しませています。

組織培養法の中でも、"茎頂(けいちょう)"という芽の先端組織を材料に⽤いた「茎頂培養法」という⼿法で増殖した苗は、対象となる樹⽊の樹齢と⽐較して"幼若化(若返り現象)"すると⾔われています。この桜のクローン作りにおいて、培養液の成分調整が課題でしたが、菌類や昆虫が成長期に利用する「トレハロース」という特殊な糖を入れることで十分に成育することを発見し、5年の歳⽉を経て組織培養での増殖を成功させました。

組織培養法による増殖技術概要

  1. 冬芽を採取し、その中から芽の分裂組織(茎頂(けいちょう)部)だけを顕微鏡下で摘出する。
  2. 茎頂部を試験管に移し、培養液を中に⼊れ培養することにより、⼤量の芽(多芽体(たがたい))を⽣産する。
  3. 多芽体を固体培地で培養することにより、多芽体から芽を伸⻑させる。
  4. 伸⻑した⼤量の芽(シュート)を1本ずつ切り分け、発根を促す培養液を添加した⼈⼯培養⼟に植えつけると、4週間程度で発根し、完全な植物体(幼苗)が再⽣される。ここまでは、無菌条件下で⾏なわれる。
  5. 外の条件に慣らすため温室内で育苗する(順化処理)。

多芽体(培養3ヶ⽉⽬)

多芽体(培養6ヶ⽉⽬)

⼈⼯⼟壌で発根した幼苗(培養8ヶ⽉⽬)

⼀般の⼟壌で育成中の苗⽊

住友林業は、植林苗や歴史的に貴重な名⽊を増殖する技術として、接ぎ⽊や組織培養などのクローン増殖技術を開発しています。2000年に世界初の組織培養でのシダレザクラのクローン増殖を京都・醍醐寺の「太閤しだれ桜」の後継樹育成で成功して以来、⽂化的、科学的に価値が⾮常に⾼いと⾔われている名⽊の後継樹を育成し続け、全国の老木や文化継承に大きく寄与しています。

名木・貴重木の苗木増殖実績

1998年7⽉
世界初フタバガキ科樹⽊の組織培養による増殖に成功
2000年4⽉
世界初シダレザクラ(京都・醍醐寺)の組織培養による増殖に成功
2009年3⽉
⼩⽥原・紹太寺の「⻑興⼭しだれ桜」の組織培養による増殖に成功
2010年2⽉
京都・仁和寺の「御室桜」の組織培養による増殖に成功
2011年4⽉
品川区・清岸寺の「祐天桜」の組織培養による増殖に成功
2012年2⽉
京都・仁和寺の「泣き桜(陽道桜)」の組織培養による増殖に成功
2012年4⽉
鎌倉・安国論寺の「妙法桜」の組織培養による増殖に成功
2013年3⽉
広島⼤学附属⾼等学校と共同 「エバヤマザクラ」の組織培養による増殖に成功
2015年3⽉
世界初鑑賞梅(京都北野天満宮「紅和魂梅」)の組織培養による増殖に成功
2015年4⽉
世界初ソメイヨシノ(⼟浦市天然記念物“真鍋のサクラ”)の組織培養による増殖に成功
2016年4⽉
京都・北野天満宮の「北野桜」の組織培養による増殖に成功
2019年2⽉
福島・南相⾺市天然記念物「泉の⼀葉マツ」の後継樹(実⽣苗)の育成に成功
2019年4⽉
愛知・大口町「五条川桜」の組織培養による増殖成功(400本納品)
2020年10月
長浜盆梅の樹齢350~400年の盆梅「不老」「芙蓉峰」「さざれ岩」の組織培養による増殖成功
2022年3月
東京・伊豆大島の国指定特別天然記念物「桜株」の組織培養による増殖に成功
2023年4月
滋賀・日吉大社「日吉桜」の組織培養による増殖に成功

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