住友林業は、インドネシアにおいて世界的にも例を見ない規模の綿密な地形測量や泥炭の分布・深さ調査し、そのデータに基づいた泥炭地管理モデルを構築し、大規模な植林事業を展開しています。
さらに、当エリア及び周辺には、希少動植物が生息する生態系が島状に取り残されており、動植物を孤立させないよう隣接する事業体とも協力しながら生態系保全にも取り組んでいます。
当社は、熱帯泥炭地やそこに広がる泥炭生態系を貴重な自然資本の一つと捉え、今後も産業植林と環境保全を両立した事業を行うことで、自然資本としての価値を高めていき、グローバルな課題の解決に貢献していきます。
泥炭地の環境価値
インドネシアのワナ・スブル・レスタリ(WSL)社、マヤンカラ・タナマン・インダストリ(MTI)社、及びクブ・ムリア・フォレストリ(KMF)社の植林事業地には、泥炭地が含まれます。泥炭地とは、枯れた植物が土壌微生物による分解を受けずに、有機物のかたまりとして堆積した土地のことをいいます。熱帯泥炭地はインドネシアやパプアニューギニア、アマゾン地域、アフリカのコンゴ盆地等に主に分布しています。
泥炭地の特徴の一つは、大量の水と炭素を抱えていることです。もし泥炭地が無秩序に破壊されれば、泥炭地に含まれる有機物が分解し大量の二酸化炭素が大気中に放出される上に、雨水を貯め蒸発散を通じて大気中に返す、という水の大きな流れが失われ、干ばつや洪水などの異常気象が生じると考えられています。泥炭地を維持することは、そこに生息する動植物を守るだけでなく、自然災害や食糧問題から私たち人間を守ることにも繋がっています。
「貯水型の泥炭地管理」による森林経営で火災や環境破壊から森林を守る
泥炭地は、一般的には農林業に適さない土地です。そのほとんどが水で満たされ、生育する植物が酸欠状態になってしまうためです。したがって多くの植林地やパーム農園では、水路を掘って泥炭地の地下水を排出する方法がとられてきました。排水後の乾燥した泥炭は、非常に燃えやすい炭素のかたまりです。過去には、泥炭地での火災が広範囲に広がった結果、大量の二酸化炭素を大気中に放出しただけでなく、煙害が周辺国にも健康被害を及ぼす事態に発展しています。
WSL社、MTI社、KMF社では、火災を防止し、泥炭地を持続的に利用するために「貯水型の泥炭地管理」に取り組み、泥炭地の維持と植林事業の両立に成功しています。この独自の手法を確立するため、事業開始時に緻密な地形調査を実施し、わずかな高低差に対応した植生基盤を構築し、現在も地下水位の変動をリアルタイムで観測しています。また地形やHCV(※)等の調査結果に基づいて、保護すべき森林と植林事業のために活用すべきエリアをゾーニングし、それぞれの役割に応じた管理を行っています。これは後述の生物多様性の維持にも貢献しています。
※ High Conservation Value Assessment:希少動植物の生息場所など保護価値の高いエリアを特定し、保全策を講じるための調査及び評価。
近隣エリア全体で取り組むコンサベーションネットワークの提唱
WSL社、MTI社、KMF社では、泥炭地の維持だけでなく生物多様性にも配慮しています。行政によって決められた事業地の境界は、生態系の境界と一致するとは限りません。そこで、オランウータンをはじめとする希少動物が自由に行き来できる「緑の回廊」を、自社エリアだけでなく、隣接する他社事業地や政府管轄の保全林にもまたがって設定し、「コンサベーションネットワーク」の概念を提唱しました。このような活動を自社エリア外でも実現させたのは、世界的にも非常に稀な事例です。
国際的評価
上記のような取り組みは、様々なステークホルダーから国際的に高い評価を獲得しています。気候変動枠組条約の締約国会議(COP)には、2017年から3年連続でインドネシアの民間企業代表として招待され、泥炭地管理技術やコンサベーションネットワークの紹介を行っています。さらに2018年には、インドネシアと同じく泥炭地を有するコンゴ共和国、コンゴ民主共和国などの大臣らが、泥炭地管理の先進事例としてMTI社を訪問し、水位管理システムを視察しました。WSL社、MTI社、KMF社では、今後も泥炭地管理のリーディングカンパニーとして、環境保護と経済性の両立を目指した森林経営を行ってまいります。