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樹木としてのウォルナット
ウォルナットはクルミ科クルミ属の樹。クルミ科には9属約60種があり、ヨーロッパ南東部から東南アジアおよび日本、南北アメリカにかけて幅広く分布しています。樹種によっては樹高が40m以上にもなり、その姿は厳かな雰囲気につつまれます。樹皮にはうろこのような深い溝があり、葉は長さ20~90cmほどの葉軸に複数の小葉をつけます。北半球に生育するウォルナットは、5~6月頃にかけて開花し、秋になるとおいしいクルミの実がなります。ウォルナットの中でも銘木として有名なのがブラックウォルナット。大きな樹になると根元から最初の枝まで10mほどあります。北アメリカ東部に生育し、北米産広葉樹の中でも最高級の木材になる樹として世界的な名声を得ています。

※クルミの実を採取するため、ヨーロッパ各地をはじめ、
自生地域以外の幅広い地域で栽培されている樹種もあります。
部材としてのウォルナット
ウォルナットは、ほんのりとしたツヤや優しい光沢が特徴。
深い色合いと木目が織り成す濃淡が住まいに高級感を漂わせます。
時を重ねるごとに色合いが変化し、豊かさを増していく風合いも魅力です。

ほんのりと紫がかった色合いや、濃淡のグラデーションを描く独特な木目がウォルナットの特徴。木肌は、光を受けるとやさしい光沢を輝かせます。流行にとらわれない、上質感あふれる風合いを空間に与えます。

独自の色合いと木目が織りなす模様は、自然がつくり出した芸術作品ともいえる美しさ。豊かな表情は上品な空間を生み出し、モダンなインテリアとも調和します。

木肌には落ち着いた光沢があり、上質感とともに心地よい雰囲気を演出。オイル仕上げでその特徴をさらに引き出し、住まいに高級感とぬくもりを漂わせます。
アメリカと日本で家具を製作してきた
ジョージ・ナカシマは、
日系二世の家具デザイナー。
自然に対して畏敬と敬愛の念を抱き、
技巧を駆使し、木の美しさを活かす形を
追求して家具を作り続けてきました。
その偉大な木匠が好んで素材に選んだのが
ウォルナットです。
ジョージ・ナカシマは自らをウッドワーカー(木匠)と呼び、木に秘められた美しさを家具という形で表現。木と対峙し、手仕事で家具をつくることで、樹木に新しい生命を吹き込んできました。彼が製作する家具は、樹木が長い歳月をかけて形成した美しい木目や微妙な色合いの変化といった木の個性が最大限に尊重されています。

ジョージ・ナカシマの家具
木匠ジョージ・ナカシマがデザインした多くの家具にはウォルナットの無垢材が使われ、五感に語りかける心地よさと確かな存在感があります。ウォルナットの素材感と背中の細いリブが絶妙なバランスでデザインされ、緻密に計算された力学と形態が美しく調和。それらの家具は自然の美しさを感じさせてくれます。

写真左から
ラウンジアーム、コノイドチェア、ミラチェアH、
アームチェア、ストレートバックチェア
ナカシマは著書『木のこころ』の中で「あなたがその表面に見ている木目は、板の中まで通っているものの現れである。木目は表面にだけ固着しているのではない。むく板は年と共に豊かに美しくなる」と語っています。生涯を木と共に生きた木匠が語る言葉ほど、無垢材の魅力を端的に表したものはありません。ウォルナットが生み出す家具や空間につつまれたとき、あなたはその豊かさと美しさを実感できるでしょう。



写真上:桜製作所により製作された机(撮影:H.Amemiya)
写真左:桜製作所にあるウォルナット無垢材
写真右:ナカシマがフリーハンドで描いたスケッチ
ほんのりと紫がかった色合いは
高貴な印象を漂わせ、木目が織り成す
グラデーションは
自然が創り出した芸術作品
ともいえる美しさ。流行にとらわれず、
新しいスタイルで空間を演出します。
古くから人々に愛されてきたウォルナット。
その歴史をはじめ、
深まる美しさの秘密、
ハープとの関係、幻の豪華列車の話など、
ウォルナットにまつわる雑学をご紹介します
約500年の歳月をかけて完成したミラノ大聖堂。この大聖堂の一番奥に設けられた主祭壇を囲む聖歌隊の合唱席はウォルナットでつくられており、崇高な空間に美しく調和しています。ヨーロッパではルネサンス時代から最高級の家具材としての地位を確立し、17世紀から18世紀にかけては家具の歴史の中で「ウォルナット時代」と呼ばれるほど絶大な人気を誇りました。例えば、イタリアのミラノ大聖堂の主祭壇を囲む聖歌隊の合唱席もウォルナットでつくられています。ウォルナットの価値は時代を超えて受け継がれ、現代でも高級ホテルやバー、レストラン、美術館などでモダンな空間を演出しています。

画像提供:バーリトルスミス
東京都庭園美術館の本館は、1933年に皇族朝香宮家の自邸として建てられました。本館は、主要な部屋の内装にアンリ・ラパンやルネ・ラリックら、フランスのアール・デコにおける著名なデザイナーが起用されており、宮廷建築を担っていた宮内省内匠寮が手がけた邸宅の中でも特色のある建築として、2015年には国の重要文化財に指定されています。

画像提供:東京都庭園美術館 大広間東面
ウォルナットに囲まれた、優雅で落ち着きのある空間。これは、「或る列車」という豪華列車の車内です。これは、明治39年(1906年)、当時の「九州鉄道」がアメリカ・ブリル社に発注したものの、九州鉄道が国有化されたため活躍する機会のなかった列車を蘇らせたもの。100 年以上の時を超えて、ロマンを受け継ぐ幻の豪華列車にもふさわしい樹種が、ウォルナットです。

時を経るごとに色合いが美しく変化するウォルナット。これは、ウォルナットに含まれるタンニンが影響しています。タンニンは古くから革をなめすために使われてきました。なめした革は使い続けることで色合いを深め、光沢を増していきます。タンニンを含むウォルナットも使い込むほどに光沢を増し、いっそう深い味わいを醸し出します。
画像提供:ブルーパロット有限会社

画像提供:ブルーパロット有限会社
ウォルナットは強度に優れ、加工もしやすいという性質を持っているため、ハープの素材に使用されます。美しい彫刻がほどこされ、優美な音色とともに造形美でも人々を魅了しています。ハープの歴史は古く、古代メソポタミアまでさかのぼります。原生する最も古いウォルナットの生育域にも近いため、遥か昔からウォルナットはハープの素材として使われていたのかもしれません。
画像提供:青山ハープ株式会社

画像提供:青山ハープ株式会社