トップメッセージ

住友林業グループのバリューチェーン

「ウッドサイクル」で豊かな社会と
持続可能な地球環境の実現に貢献していきます

2022年12月期、住友林業は過去最高益を達成することができました。私が社長に就任した2020年4月は、コロナ禍が世界的に拡大しつつある時期でしたが、それから3年が経過し、 日本でもアフターコロナへの移行とともに、ようやく社会・経済活動への制約が解消されつつあります。しかし、地政学リスクに伴う世界的なエネルギーおよび食糧の供給危機と、 それに伴うインフレと景気減速は大きな懸念要素であり、当社グループが中長期的に企業価値を向上させていくためには、これからが本当の正念場であると覚悟しています。

長期ビジョンの実現で脱炭素社会に貢献

「ウッドサイクル」で環境・社会・経済に価値を提供

 私は大学時代、登山に熱中し、自然の偉大さ、山の魅力に惹かれて住友林業に入社しました。入社8年目に米国シアトルに赴任し、主にアラスカ州の先住民が伐採権を所有する 天然林の木材を日本に輸入する業務を担当していました。その頃、お目にかかった宮大工の小川三夫棟梁から「木は、伐採してもそれを大切に使うことで、 建物として1000年でも生き続ける。」という話を伺い、また木材販売で得た資金が地域社会を豊かにしていることも知りました。この体験が、森と木の価値を活かし、 地球環境、人々の暮らしや社会、市場や経済活動に価値を提供することで、将来世代を含むあらゆる人々やすべての生き物に、地球が快適な住まいとして受け継がれることを 目指す長期ビジョン「Mission TREEING 2030」の大きな土台となっています。

 当社グループは、2022年2月、SDGs の目標年である2030年を見据えて、当社グループのあるべき姿を長期的な事業構想に落とし込んだ長期ビジョン「Mission TREEING 2030」を発表しました。そして、足元を固めるための2022年からの最初の3年間を中期経営計画「Mission TREEING 2030 Phase 1」と設定し、取り組みをスタートさせています。長期ビジョンでは、「森と木の価値を最大限に活かした脱炭素化とサーキュラーバイオエコノミ-の確立」を事業方針の一つに掲げ、住友林業グループの「木」を軸にしたバリューチェーンである「ウッドサイクル」を回す事業活動を通じて、自社のみならず社会全体の脱炭素化を進めることで、循環型社会の実現を目指しています。「森林」「木材」「建築」を3つの柱として、森林経営から木材建材の製造・流通、戸建住宅や中大規模木造建築の請負、不動産開発、そして木質バイオマス発電まで、「ウッドサイクル」を回しながら、森林のCO2吸収量を増やし、炭素を固定する機能がある木材製品(HWP:Harvested Wood Products)の需要を喚起し、良質な木造建築を普及することで長期間にわたる炭素固定を実現します。

 そして、脱炭素事業の根幹となるのが、「循環型森林ビジネスの加速」「ウッドチェンジの推進」「脱炭素設計のスタンダード化」の3つであり、中期経営計画2年目を迎え、それぞれにおいて取り組みが進捗しています。

中期経営計画の進捗

森林ファンドで森林の保有管理面積を増やし社会の脱炭素化に貢献

 「循環型森林ビジネスの加速」については、森林の保有管理面積を中期経営計画策定時の27.7万haから2030年に50万haまで増やすことを目標に掲げています。2022年12月にインドネシアで9,738haのマングローブ※1の森林を保有・管理する会社を取得しました。世界的にも貴重な生態系であるマングローブを保護林として管理し、マングローブに蓄えられる炭素を固定してCO2排出量を削減することで、カーボンクレジットの創出を目指します。

 また、さらなる森林面積の拡大に向けて、2022年10月に森林アセットマネジメント事業会社を米国に設立し、新会社を通じて2023年の森林ファンド第1号を組成しました。森林ファンドは約40年前、米国で年金投資のオルタナティブ投資対象として始まりましたが、脱炭素化への要請と相まって、現在、関心が高まっています。特に、CO2排出量の多いエネルギー産業や輸送産業などを中心に多くの企業からCO2排出のオフセット手段として森林由来のクレジットが注目されており、2030年には森林ファンドの運用資産規模を1,000億円に拡大していく計画です。

 さらに2023年2月、質の高い炭素クレジット創出の事業化を目指して、(株)IHIとの合弁会社である(株)NeXTFORESTを設立しました。当社がインドネシアで構築した世界初の成功事例である 熱帯泥炭地※2の管理技術と、(株)IHIの持つ人工衛星を活用した観測技術を組み合わせることで、精度の高い水位管理を行い、泥炭火災を防ぐ先進的な森林経営を行います。 今後、同社を通じたコンサルティングサービスの提供により、熱帯泥炭地の適切な管理手法の普及に努めつつ、森林や土壌でのCO2吸収量や炭素固定量を正確に測定することで、 生物多様性や水循環の保全、地域社会への貢献といった自然資本の価値を適切に評価する仕組みの確立にも取り組んでいきます。

1 熱帯および亜熱帯地域の海水と淡水が混じり合う水域で生育している植物の総称。構成する植物は110種以上あるといわれる。 2 植物の遺骸が水中で分解されずにできる泥炭が堆積した土地。地下水位が下がり乾燥すると、炭素を多く含む泥炭が分解・消失するだけでなく非常に燃えやすくなるため、地下水位管理が極めて重要。


ウッドチェンジで国産材の自給率向上へ

 「木材」分野では、「ウッドチェンジの推進」を掲げ、建築などにおける木材や木材由来素材の利用促進と他材料から木への代替促進に取り組んでいます。 また、木を余すことなく使い切るカスケード利用を可能とする木材コンビナートの設立を進めています。日本の木材自給率は4割にとどまっており、2021年のウッドショックでは、 米国の住宅建設需要増などにより、世界的に木材の需給が逼迫したことに加えコンテナ不足などが影響し、日本に輸入材が入りにくい状況となりました。 そのため、資源安全保障の観点からも、国産材の利用促進の機運が一層高まっています。また、木材を良質な住宅や家具などに利用することは、炭素を長期間固定することにつながるため、木材・建材の加工事業も脱炭素化には非常に重要です。現在、強度の低い材を活用した高強度構造材の製造技術の早期確立など具体的な検討および検証を進めています。 鹿児島県志布志市を第1号案件として、全国を対象に木材コンビナートの候補地を検討しており、今後、林業従事者の雇用創出を含め、国内林業の活性化と国産材の競争力強化を図ります。

Mission TREEING 2030

「脱炭素設計のスタンダード化」で建てるときと暮らすときのCO2排出量を削減

 「建築」分野では、国内外での年間住宅販売戸数を2021年の2.7万戸から2030年には5万戸まで増やす計画です。木材は木造建築や家具として活用することで炭素を長期間固定します。また、鉄骨やRC 造で建築した場合に比べて建てるときのCO2排出量(エンボディドカーボン)も大きく削減できます。さらに、省エネ・創エネ技術の採用によって、暮らすときのCO2排出量(オペレーショナルカーボン)をゼロにするZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の供給を拡大していきます。豪州においては、グループ会社のHenley Properties Groupが豪大手ビルダーでは初めてすべての戸建注文住宅に太陽光パネルを標準搭載しました。また、中大規模建築物の構造躯体などへの木材利用の拡大を目指し、日本、豪州、英国に続き、米国のアトランタとダラスにおいてマスティンバー建築※4の木造オフィスを開発しています。今後、環境認証(LEED※5)やウェルネス認証(Fitwel※6)の取得にも取り組み、ESGを重視するテナントに環境的・社会的な付加価値の高いオフィスを提供します。

 さらに、建てるときのCO2排出量を見える化するソフトウェア「One Click LCA」の日本国内での販売を開始し、建設業界を横断した取り組みを進めており、木材・建材の環境ラベルEPD(Environmental Product Declaration)の認証取得を促す支援事業と併せて、脱炭素設計のスタンダード化を加速させています。木造建築の普及を推進し、建てるときと暮らすときの2つのCO2排出量を削減します。

4 複数の木材を組み合わせて成形した比較的質量の大きいエンジニアードウッドを利用した建築。 5 USGBC(US Green Building Council)が開発および運用を行っている、建物と敷地利用についての環境性能評価システム。 6 米国連邦政府調達局(GSA)と疾病管理予防センター(CDC)が主導で開発した建物利用者の健康、労働環境等を評価・認証する仕組み。


中期経営計画初年度の実績と今後の見通し

 業績面においては、2030年に経常利益2,500億円の達成を目指しています。現中期経営計画では最終年度にあたる2024年12月期の経常利益目標を1,730億円としていますが、中期経営計画初年度である2022年12月期の経常利益は1,950億円となり、最終年度の目標を上回ることができました。これは、米国の戸建住宅事業および不動産開発事業の業績伸長が大きな要因です。また、ROE19.4%(中期経営計画の目標値15% 以上)、自己資本比率40.8%(同40% 以上)、ネットD/Eレシオ0.4倍(同0.7倍以下)といずれも中期経営計画の目標を達成できており、財務健全性も高いレベルで維持できています。2022年半ばからは、米国においてインフレ抑制に向けた金利上昇が影響し、米国住宅事業での受注にブレーキがかかりましたが、2023年に入って市場環境は改善に向かっています。長期ビジョン・中期経営計画を2022年2月に発表後、地政学リスクの高まりや金融不安など事業環境は大きく変化していますが、これまで培ってきた事業基盤を強化し、グループ全体の経営資源を最大限に活用することで、長期ビジョンの実現に引き続き邁進していきます。


進出21年 海外住宅事業が成長した強みの源泉とは

価値観を共有したパートナーと一体となり事業を推進

 2023年は、住友林業が北米の住宅事業に進出して21年目の年です。米国も豪州も木造住宅文化を有する国であり、住友林業との親和性が高いことから、進出を決定したという経緯があります。一方で住宅事業は地場産業のため、地域の特性を熟知し、地元に密着した土地調達力が非常に重要です。M&Aにあたっては、現地での競争力なども含めたデューデリジェンスと同時に、対象企業の経営者とそれぞれの役割とは何かに始まり、強みや弱み、経営に関するフィロソフィー、持続的に企業を成長させることの大切さ、従業員の雇用は最後まで守るべきものであることなど、かなり時間をかけて話し合い、価値観の共有を図りました。それらのプロセスを丁寧に行うことで、両者のベクトルが合い、一体となって経営を進めることができています。


海外住宅・建築・不動産事業のさらなる成長

 2008年に起こったリーマンショックでは、住友林業が当時米国で抱えていた住宅や土地の在庫の価値が一気に下落し、相当の損失を計上しました。事業継続について社内で議論が交わされましたが、当時の経営者は北米市場の成長性を見抜き、事業継続の判断をしました。そこで踏みとどまったことで、その後の米国住宅市場の成長に機敏に対応し、経営のノウハウを蓄積しながら、事業を立て直すことができました。その後、サンベルトエリアでM&Aおよびオーガニックグロースによる事業拡大を続け、2022年の当社グループの米国での販売戸数は、全米9位相当の規模となっています。 2023年1月にはフロリダ州で戸建賃貸住宅事業を展開するSouthern Impression Homes社をグループに加え、さらなる業容拡大を実現しています。また、住宅のパネル設計、製造、配送、施工までを一貫して提供するFITP(Fully Integrated Turn key Provider)事業を推進しており、2024年稼働予定のノースカロライナ州でのパネル・トラス製造工場の設立により、工期短縮や施工の合理化が可能な材工一貫体制の構築を目指しています。

 今後も戸建住宅事業および不動産開発事業を軸に、戸建賃貸住宅事業、アセットマネジメント事業、中大規模木造建築事業、FITP 事業など、収益源の多様化と事業間シナジーの拡大を図りながら、事業環境変化への耐性を強化し、さらなる成長を追求していきます。

一人ひとりが真価を発揮できる自由闊達な風土を醸成

 人財については、「働く人が活き活きできる環境づくり」を重要課題の一つとして定め、取り組みを進めています。人財育成については、多様な人財が、それぞれの能力を最大限に発揮できる自由闊達な風土の醸成を目指し2021年に風土改革のプロジェクトを立ち上げました。個々が当事者意識を高く持ち、自発的に課題を発見し、解決する努力を積み重ねていくことなど、現場力を上げていく取り組みで2022年は対象範囲を拡大しています。

 一方、女性活躍に関しては道半ばの状況で、管理職の女性比率は2024年に8.1%以上という目標に対して、2022年は6.3%(単体)でした。2023年の住友林業単体の新入社員における女性比率は3割ほどですが、リフォーム事業のグループ会社では、新入社員は女性比率のほうが高く、何人もの女性が営業統括や支店長として活躍しています。多様な感性やアイデアが事業運営に活かされることは、会社にとっても非常に有益です。また、男性育児休業の取得促進にも力を入れており、男女を問わず育児や介護などと業務との両立がしやすい体制を強化しています。また、働き方改革や新型コロナウイルス対策などの奏功もあり、テレワークやフレックスタイム制度の活用が進み、社員の誰もがより柔軟な働き方ができる風土が根付きつつあります。

 長期ビジョンの達成に向け、多様な背景を持つ社員が安心して働くことができ、多様な人財が持つ専門性や価値観がもたらすイノベーションを新たな挑戦や成長につなげていくことが重要だと考えています。

ESGと事業を一体化させすべてのステークホルダーに貢献

ガバナンスの核は「住友の事業精神」

 当社は監査役会設置会社であり、社外取締役は全取締役の3分の1を占め、うち2名は女性です。取締役・執行役員の選解任やサクセッションプランを議論する指名・報酬諮問委員会は、会長と私以外は、社外取締役3名に社外監査役3名を加えた構成であり、社外役員が過半数を占めています。議長も社外取締役が務め、議論を定期的に行っています。例えば、役員報酬については持続可能な成長に向けた経営のコミットメントとして、株価やサステナビリティ指標に連動する制度に2022年から変更しています。また、急速に拡大している海外住宅・建築・不動産事業においては、買収後の事業会社に派遣された駐在員が、取締役として事業運営に参加しており、明文化された意思決定プロセスに基づいて事業運営がなされていることをモニタリングしています。さらに内部統制報告制度の業務プロセス統制導入会社を順次増やし、管理体制の整備・強化を進めています。

 ガバナンスの強化については、ルール作りや規制を行うだけでは十分とはいえません。創業以来受け継がれてきた「住友の事業精神」と、それに基づく経営理念を社員一人ひとりが内在化させ、行動指針や倫理規範に沿って行動することが何よりも重要です。「住友の事業精神」では、「自利利他公私一如」において、自社の利益だけではなく、社会や他人に利益をもたらして初めて事業として成り立つということを説いています。浮利を追わないことや、企業とは公的な器であるということを我々が心に刻み、「住友の事業精神」を体現していくことが、当社の経営と事業のサステナビリティにとって最も大切であると考えています。


これから住友林業が目指す姿

 私は住友林業を、「住友の事業精神」のもと、ESGの取り組みと事業がさらに一体化した会社にしていきたいと思っています。長期ビジョンでは、「地球環境への価値」「人と社会への価値」「市場経済への価値」の3つの価値の実現を目標に定めていますが、これはまさにESGと事業が一体化することで達成できるものです。当社には「ウッドサイクル」を継続的に回していくための豊富な経営資源があります。これらの経営資源を活用し、「住友の事業精神」のもと着実に事業活動に取り組んでいくことで、先が読めない、変化が激しい時代にあっても、会社の持続的成長および社会の脱炭素化への貢献が実現できると信じています。

 ステークホルダーの皆様には、「森林」と「木」の可能性を引き出し、社会の持続可能性を高めるための当社グループの取り組みに、今後もご期待とご支援をいただければ幸いです。

代表取締役 社長

代表取締役 社長

光吉 敏郎